見出し画像

「酸味」×「甘味」×「コク」の美しきトライアングル 〈菓子四季録 vol.2〉

レモンメレンゲパイが大好きです

レモンのお菓子は、ちょっとではなく、思い切りすっぱい方が好きです。食べた時に「きゅん」となるくらい酸味を効かせたい。そして、そんなレモンのお菓子の中で1番好きなのは「レモンパイ」。即答です。迷いなし。レモンパイと一口に言ってもその作り方はさまざま。上にはクリームではなくメレンゲをのせた「レモンメレンゲパイ」を推したい!

酸味の効いたレモンクリームにさくさくのパイ。上にはふわふわのメレンゲ。クリームのレモン色にメレンゲの白、仕上げのピスタチオの緑のコンビネーションは見るだけでおいしそうだし、気持ちが上がります。味も食感も色も本当に大好きな組み合わせです。

どうぞ召し上がれ

そんなわけで、私のレモンパイレシピはレモン汁が結構、いやかなり多めです。すっぱくしたいならば、酸味のある材料の量を増やせばいい。そこはとっても単純で簡単です。でも、ただ増やすだけでは「おいしいレシピ」にはならなかったりするのが、ちょっと複雑で難しいところ。

レモンをふんだんに使います

食べ物には味の黄金バランスみたいなのが存在します。例えば料理の八方だしならば、だし、みりん、薄口しょうゆの割合は8:1:1。スポンジケーキにうつシロップ(アンビバージュ)の基本は砂糖と水が1:2。とにかく「よきバランス」というものがある。もちろん、組み合わせる材料によって、これらが変化することもあります。けれど、バランスが大事という大前提は変わりません。

レモンのお菓子を支える「酸味」×「甘味」×「コク」のトライアングルバランスとは?

レモンのお菓子のおいしさを支えるのは「酸味」×「甘味」×「コク」のバランスだと思います。通常よりもすっぱくしたいならば、それなりの甘味とコクがあった方がいいのです。材料で言えば砂糖と乳製品。これらの味のバランスが美しいトライアングルを形成するのが理想。(分量が同量の意ではなく、バランスがよいという意。)レモン汁だけ増量しても、酸味だけが突出して、このバランスが崩れてしまいます。それはただの「すっぱいレモンパイ」にしかならないのです。「すっぱくて、おいしいレモンパイ」を求めるならば、その酸味に釣り合う甘味とコクにすること!こうすると、酸味と甘味とコクはしっかりと手を繋ぎます。そして「すっぱい」だけでなく一気にお菓子全体がグンとレベルアップするのです。

酸味の効いたレモンクリームに
メレンゲのふわふわがまたいいのです

バランスはハーモニーとも言えるでしょう。とても上手なバイオリニストがいたとします。彼または彼女は特に高音の音色が素晴らしい奏者です。そして、トリオを組んで弦楽三重奏を演奏することになりました。残りの2人が普通の奏者だと、「あーあのバイオリンの人、上手ね」となるでしょう。バイオリンは上手です。際立ちます。でもそれだけ。しかしながら、他の2人も同じくらい上手な場合は違います。それはチェロもビオラもそれぞれがしっかりと脇を固め、時々はしっかりとメロディ部分のパートも聞かせるような状態です。バイオリンの音はさらに美しく響き、「このトリオ素晴らしいわね。特にバイオリンの高音が本当に美しいわー」となるのです。

これをレモンパイに置き換えてみましょう。酸味だけが効いているレモンパイは、バイオリンだけが上手なトリオです。「わー!すっぱい」という感じ。すっぱさは際立ちます。でもそれだけです。がしかし、酸味に合わせて甘味とコクのバランスが釣り合っているとします。こそれはまさに「わー!このレモンパイおいしい。すっぱくてそれが最高!」となります。「レモンパイ全体がおいしい+酸味が効いてる!」になるのです。

音楽に限らず、世の中のサポート部分というのはとにかく地味。でも、実はものすごく重要です。他がどっしりと構えてこそ、高音が響くのですから。
(なんか同じことを『苺のフルーツサンド』でも書いた気がする)

なので、個人的には最近流行りの単なる「甘さひかえめ」のお菓子はあまり好きではありません。お菓子なんだから、然るべき甘さを持っていた方がおいしいと思っています。(「甘さひかえめ」にあった全体バランスならばそれはアリ。そんな話もいつか。)

前置きが長くなりましたが(本当に)、「酸味」×「甘味」×「コク」の美しき三重奏を感じるこのレモンメレンゲパイ、ぜひ作って食べていただきたいです。そしてそのトライアングルを感じて欲しいです。


レモンメレンゲパイ(レシピ)

【材料 】18cmのタルト型1台分
冷凍パイシート(18×18cm) 1枚
<レモンクリーム> 
卵(M) 2個
卵黄(M) 2個分
グラニュー糖 100g
コーンスターチ 大さじ2
バター(食塩不使用) 60g
レモン汁 80ml
水 大さじ2
レモンの皮のすりおろし 1/2個分
<トッピング>
卵白(M) 1個分
グラニュー糖 30g
(お好みで)粉砂糖、レモンの皮、ピスタチオ 適量

【作り方】
下準備
パイシートは冷蔵庫で解凍しておく。型に溶かしバター(分量外)を刷毛で薄く塗り、冷蔵庫に入れておく。バターを溶かしやすい大きさに切っておく。

バターはこのくらいの大きさに切っておきます

<パイを作る> 
1.パイシートに打ち粉をふり、麺棒で型よりひとまわり大きく伸ばす。型に敷き込み、はみ出ている箇所を内側に折り込んで形を整え、生地が型より1cm高くなるようにする。冷蔵庫に入れ30分ほど生地をねかせる。

型よりひとまわり大きいくらいに伸ばします
はみ出たところを内側に折り返しぎゅっとくっつけます
焼くと縮むので、生地を型より少し高めにします

2.の底面にフォークで穴をあける。オーブンペーパーを敷き込み重石を入れ、220度に予熱したオーブンで20 分、オーブンペーパーと重石を取って170度で10〜15分、フチがきつね色になり、底面にも焼き色がつくまでしっかり焼く。ケーキクーラーの上で型ごと冷ます。
*しっかり焼くことで、クリームを詰めてもさくさくの食感が保てます。

フォークで穴をあけます
写真の重石はけっこう多め
半分くらい入っていればOKです
こうやってとるので、長めのオーブンペーパーを推奨
ここからさらにしっかり焼きます
全体に焼き色がつくまでしっかり焼くと
次の日もさくさくのパイになります

<レモンクリームを作る>
3.ボウルに卵、卵黄を入れて泡立て器でよく混ぜ 、グラニュー糖、コーンスターチを加えてさらによく混ぜる。

グラニュー糖とコーンスターチを入れます
なめらかになるまで混ぜます

4.小鍋に小さく切ったバター、レモン汁、水を入れて混ぜながら弱火にかける。バターが溶けたらのボウルに混ぜながら少しずつ加える。

混ぜながら加熱します
バター溶けたら、混ぜながら加えます

5.鍋にこし戻し、ゴムベラで混ぜながら弱火で加熱する。とろみがついてクリームに透明感が出てきたら火を止め、レモンの皮のすりおろしを混ぜて出来上がり。バットに入れてラップでぴっちりと覆い、冷蔵庫で冷やす。
*加熱しすぎると卵が固まり、モロモロとした食感に。

こしながら鍋に戻しましょう
混ぜながら加熱します
クリーム状+透明感が仕上がりの目安
最後にレモンの皮を加えます
ぴったり貼り付けます
ラップはクレラップ派

<仕上げる>
6.のクリームをよく混ぜてなめらかにし、型から外したのパイに詰める。

詰めたら、平になるようにならします

7.ボウルに卵白を入れてハンドミキサーで泡立てる。やわらかく角が立ってきたらグラニュー糖を3回に分けて加え、さらにしっかり、ハンドミキサーの羽根に詰まるくらいかたく泡立てる。メレンゲをの上に絞り(またはゴムベラ等でのせ)、230度に予熱したオーブンで軽く焼き色がつくまで2〜3分焼く。好みで、茶こしで粉砂糖をふり、レモンの皮、ピスタチオの刻んだものを散らす。
*絞り口、絞り方はお好みで。メレンゲによって印象が変わるので、いろいろ試してみてください 。
*メレンゲは時間が経つと離水しやすいので、仕上げ後は冷蔵庫に入れて、早めにいただきましょう。

メレンゲはモコモコになるまで泡立てます
これは丸口で絞っています
これは星口で絞りました

まだまだ、小さなコツたくさんあります!

ここからはさらに、細かなポイントを。
レモン汁は市販のレモン果汁でもいいんですが、自分でレモンを絞るとよりおいしいです。フレッシュなレモン果汁は酸味に丸みがあるんですよね。香りもいいです。使う分量が多いのでけっこう差が出ます。レモン1個分の果汁は30〜50mlくらい。個体差も大きいですがこのレモンメレンゲパイを作るにはレモンが2〜3個必要です。

絞ってる時の香りがまたいいのです

パイ生地は、伸ばして折って使います。切りません。だって、切って余った分をどうしていいかわからなくなるから(笑)。よく「ひねって、グラニュー糖をかけて焼きましょう」とかあるけれど、めんどくさくないですか?
ある時、折って焼いたらいいんじゃない?と思いついて。それ以来、私は折って焼く派になりました。内側は見えないし。家庭のお菓子だし。ザックリ万歳。

かなり大胆な折り返し(笑)

その代わり「しっかり焼く!」は徹底します。焼きが甘いと、さくさく感が出ません。パイ生地を焼くコツは、焼く前にしっかりと予熱すること。最初にきっちり高温で焼くと、歯切れのよいさっくりな焼き上がりに。

パイシートはいろんなメーカーから出ていますがイチオシは「ベラミーズ」のもの。ベラミーズはニュージーランドのメーカーなのですが、材料が本当にシンプル。小麦粉、バター、食塩の3つのみ。手に入りにくいのが難点ですが、油脂分がバターだけで作られているパイはやはり風味が違います。

私はいつも近所にある富澤商店で購入していますが、カルディでも取り扱いがあるみたいです。ベラミーズのパイシートは20cm角なので、仕上がりが少し厚くなります。

逆に18cm角以下のサイズのパイシートを使う場合は2枚繋げて使ってください。長方形のタイプでも同じです。敷き込んだ後に折り返して円形に近づければOKです。(そこは適当で大丈夫!焼く時に様子を見て、焼きが甘いようならば、焼き時間を増やしてください。そこは大事。)

レモンクリームは加熱は足りないと粉っぽくなります。でも、火を入れ過ぎると卵が凝固します。止めるタイミングは透明感が出てきたら。クリームはツヤぷるを目指します。これは何度か作るとわかってきますので、ぜひくり返し作ってみてください。

加熱の時は底から混ぜながら!

上のメレンゲは自由演技部分です。お好みで大丈夫です。今回は絞っていますが、ラフにゴムベラでのせてもいいと思います。どちらにしてもしっかり泡立てましょう。そこは大事です。そしてメレンゲの卵白の分量はレシピでは1個分なんですが、これを倍にして卵白2個分、グラニュー糖60gで作ってのせてもいいでしょう。ふわふわパートが多めです。これだと卵白が余りません。このあたりはお好みで。メレンゲの焼き時間はオーブンの個体差もあります。焼き色がいい感じにつくまで様子を見ながら焼いてください。高温でさっとが基本です。どんなに長くても焼き時間は5分は超えないように。なかなか焼き目がつかなければ温度を上げてください。

みんな違って、みんないい
これはイラストレーターの清佳さん作
角がかわいい
こっちはゴムベラでのせただけバージョン

トッピングにピスタチオ、レモンの皮、粉砂糖が揃うと一気に華やかに。お店っぽくなります。ここにさらにレモンスライスをもせてもいいですね。このレシピは上手に作ると、次の日もパイはさくさくで、メレンゲもふわふわのままです。

切る時にザクザク音がします

レシピを書くのに、この「レモンメレンゲパイ」を久しぶりに作ったら、そのおいしさを再実感。おいしすぎて人が来るたびに、おやつに焼いています。「レモンのお菓子」が好きな人ならばきっと好き。すっぱいけれど、甘味もコクあるので、まろやかで食べやすい味わいです。

爽やかで今の梅雨の季節にもぴったり。ぜひ試してみてくださいね。

けっこう、カロリーが高いのは内緒です
れもんはおいしいの?(はぴ)

【Photos : Sayaka Sawada】

同じレシピをグラフィックデザイナー  澤田清佳さんが絵で紹介しています。絵のかわいさもさることながら、手順の流れがとってもわかりやすいです。

『サクサクに焼き上げられたパイという舞台で大御所たちに支えられ、フレッシュに(爽やかに)のびやかに(まろやかに)演技するレモンを、どうぞご賞味ください。』
同じお菓子を語りながら、あちらではレモン(酸味)は主演女優(多分、若手の)になっていました(笑)こっちでは弦楽トリオのバイオリニスト。そのあたりの違いもぜひお楽しみください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?