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吉祥寺のラブホで演技くさい喘ぎ声を聞きながら飲むお酒

東大で哲学を学んでいる女の子と、吉祥寺のラブホに来た。私は基本、男が好きだけど、彼女だけは別だ。一緒にいるとドキドキしてしまう。ラブホに一緒に泊まるのは4回目だけど、今日こそ何か起きそうな予感がする。

「ラブホをディズニーランドなんて言わない方が良いよ、ラブホって少し怪しげな感じがするからこそ、私は好き」

彼女の言うことよく分かる。ディズニーランドみたいな健全な場所と、ラブホを一緒にするなんて、いくら構造が似てても良くないような気がする。それはもちろん、ディズニーランドに申し訳ないからじゃない。ラブホに申し訳ないのだ。
だって、ラブホはディズニーなんて言ってしまうと、「ラブホに入る」ということ自体から背徳感が消えてしまう。それって、エロくないわ。
トコトコ堂々と入れるラブホよりも、秘密基地みたいにコソコソ入るラブホの方が、エロいじゃない?

ラブホテルに向かう前に井の頭公園を散歩していたら、同い年くらいの大学生の男二人組にナンパされた。最初にどこの大学か聞かれたので、得意げに「私たちは東大だよ」と言ったら、彼ら、すごく驚いていた。

「これから一緒に飲まない?俺の就職先決まったお祝いに」
「これから?一時間くらいなら良いよ」
「どうして?これから何かあるの?」
「うん、これから二人でラブホテルに行くのよ」

二人は少し言葉を探していたようだけど、手にペットボトルのお酒を持った方の男がなんだかすごく帰りたそうにしはじめて、「疲れたからもう帰ろうよ~」ともう片方の就職先が決まった男に言いはじめた。その人は私たちにごめんねと言い残して、二人はどこかに行ってしまった。

ナンパはあまり乗り気じゃなかったけど、だんだん帰りたそうな雰囲気を醸し出されたのには、少しだけ不本意だ。彼らに私たちはどう思われたのだろうか。ナンパ、近づいてみたら全然顔がタイプじゃなかったからやめておいたのか。東大女子だからやめておいたのか。女二人でラブホに行くなんていかがわしいな、と思ったからやめておいたのか。

できれば、最後の理由がいい。人にいかがわしいと思われることをするのって、背徳的でエロい。私は、彼らにいかがわしいと思われながらラブホテルに行くことに、我知らず興奮していることに気がついて、少し顔を赤くした。

吉祥寺の赤提灯で飲んだあと、またさらにお酒をコンビニで買ってから訪ねたのは、昭和の連れ込み宿「和歌水」だ。

井の頭線公園の隣で、紫のネオンを放つその建物は、まさにラブホテル。

綺麗で最新式でまるでリゾートみたいなラブホテルもいいけど(フロントまでズカン!とあったりする)、こういうひっそりと佇む感じは私にとってはたまらない。だって、昔だったら、こんな外観の建物に好きこのんで入ろうとなんて思わなかった。清潔じゃなさそうだし、入ったらお金を無駄にしそうだ。

だけど、大学生になって恋をして、いくつものラブホテルに行くうちに、ただ清潔で綺麗なラブホテルでは飽きたらなくなってきた。未知の空間に踏み入れるときのその高揚感。異様で、秘密めいていて、なんて素敵なのかしら。

天気の話をふってくるラブホテルのスタッフにしてはやけにフレンドリーなおばさんに頼んで、最上階にある一番人気のぼたん部屋に入れてもらえることになった。変な置物が脇に置いてある狭い階段を登る。どういうセンスなのだろうか。おばあちゃん家の食器棚の上みたいだ。

すごく狭くて急な階段を上り切ると、「ぼたん」という文字が目に入ってきた。ここだ。扉が、不思議の国への入り口みたいだ。こんなワクワクする出口、ここ以外のどこで見ることがあるだろうか。緑と赤のコントラストが、毒々しくて息を飲む。

期待通りだ。色も質も広さも匂いも何もかも。

「床がぼたん柄だからぼたん部屋なんだね。ステキ」

彼女がそう言って、テレビを付けるといきなりAVが流れてきた。昭和遺産ラブホに置いてあるテレビから流れるAVは、だいたい、特になんのストーリーもない。女の人が男の人の前後の動きに合わせてただアンアン叫んでいるだけのものが多い。こんな、演技くさいセックスしてるだけのアダルトビデオ、昭和の連れ込み宿でしか、私は拝見したことがない。少しの間、興味深くて見入っていたけれどすぐに飽きてしまった。私たちは、テレビから流れる過剰な喘ぎ声をBGMにして、お酒を飲みはじめた。

「ねえ、私も、なんだか前まで一緒にラブホに行ってたときと、今日は少し違うなって思ってたよ」

その言葉に私は思わず、彼女のことを見た。明らかにさっきよりも、彼女、綺麗になってる。特に、彼女の大きな目に薄い水の膜が張っているのが鮮明に見えて、不思議だ。やっぱり、いる場所によって、人の美しさは変わっていくのかしら。和歌水という場所が、外の世界とは、一枚隔たった異次元の世界観だからこそ、私たちのことを変えてしまったのかもしれない。

【まとめ】 『和歌水』@吉祥寺
・おすすめ度:○
・タイプ:昭和の連れ込み宿
・料金:○(平日宿泊7000) 
・アクセス:吉祥寺から徒歩10分くらい
・デート:◎(赤提灯で飲んで、泊まって、朝吉祥寺で食べ歩きデートがオススメ)
・コンドーム:1つ普通
・お風呂:△(家のよりは広い)
・アメニティ: 過不足なし
・テレビ:△(地上波と面白くないav観れる)
・Wi-Fi:たぶんなし
・特徴:ぼたん柄、昭和の連れ込み宿、変な奇妙なイスが置いてある

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