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ラブホテルオーナーになりたいわ。【1】ラブホテル宣言


ラブホテルが好きな若者たち

私は今でこそ、友達やラブホテル界隈の人たちから、「ラブホテルが大好きでラブホテルに関する記事を書いている東大女子」として認識されていますが、3年前までは、基本的にラブホテルとは関係のない恋愛や日常のブログを書いている人でした。それが、ラブホテルの人として認識されるきっかけになったのが、noteで開催されていたcakesクリエイターコンテストです。友達に「書いてみたら?」と勧められるがままに「なぜわたしはラブホテルを面白いと思うのか」について語っていたら、入賞していました。

自分自身では今でも、私のブログの中なら、ラブホテルに関する記事よりも、他のエッセイの方が面白いと思っています。それでも、ラブホテルの記事が6000人の作品の中から選ばれたのはきっと、ラブホテルというコンテンツの力のおかげであったのだと、後々気付くことになります。

というのも、コンテストで入賞した後に『ラブホテルは私のワンダーランド』という連載を始め、よりラブホテル界隈に詳しくなるにつれて、それまで見えていなかった「ラブホテルが好きな若者」をよく見かけるようになりました。

TwitterやInstagramを探せばいくらでもラブホテルの部屋の写真を載せている人は見つかりました。特に昭和ラブホテルは、レトロコンテンツの一つとしていやらしさとは全く別のところで人気を博しているようです。純喫茶、廃墟、レトロワンピースやレトロ雑貨と同列にラブホテルは素敵であるという価値観は意外と一般的でなことでした。

つまり、私以外にもラブホテルが好きな同世代はたくさんいたのです。

レトロ好き意外にも、ラブホテルの設計に興味がある人、花街から続いた歴史深いラブホテル街が好きな人、お酒を飲みまくってそのまま潰れることができる場所としてラブホテルが好きな人、熱心に好きなわけではないけどSNSで面白いラブホテルの写真を見るくらいには好きという人、仕事でラブホテルに関わっていたらいつの間にか興味を持ったという人。みんな、公言しないだけで、「実は少し関心はあるんだよね」という人は多かったのです。

ラブホテルは本当に衰退産業?

ラブホテルは、今、衰退産業と言われています

実際に、新規でラブホテルを建てる人はほとんどいない一方で、毎年100件強のラブホテルが潰れていきます。また、ここ3年間で「ラブホテル」「ラブホ」とgoogle検索する人が20%以上も減ったらしいです。さらに、昭和遺産と呼ばれるようなTHEラブホテル的なラブホテルが、コロナ禍の打撃もあり、ここ数年でバタバタと潰れていきました。いくら昭和ラブホテルが好きな人がいても、ホテルである限り、ボイラー装置、豪華絢爛な建物や高級家具の老朽化により、大金をかけない限り続けられないからです。

このように、多くのラブホテルが衰退産業になってしまった理由はいくつもあります。法改正による規制、デイユースプランの台頭によるシティホテルとの競合、若者の草食化、住宅事情の変遷や核家族の増加などです。

そんな風当たりの強いラブホテル業界でも、店舗を増やすグループや、安定した業績を出し続けるホテルはあります。夫婦が二人だけの寝室を求めてラブホテルに行くことは減っても、風俗や不倫がなくなるわけでもないですし、性にオープンなこの時代では、シティホテルにない突拍子の無さや奇抜さやを持ったラブホテルはSNS映えをするので、YouTuberやTikTokerなどのインフルエンサーに利用されることが増えました。

例えば、皆さんご存知のバリアンは、ラブホ女子会という概念を作って広めたり、バリ風の部屋やアメニティバイキング、従来のラブホでは考えられない広くてくつろげるロビーを作ったりと次々とラブホ界で革命を起こし、あまりラブホテルには詳しくない人からも「とりあえずバリアンに行けば大丈夫だろう」という信頼感を得ています。

他にも、SARAグループが新しく建てた五反田のSARA GRANDEでは、有名なAV制作会社であるSODとコラボしたマジックミラー部屋をはじめとして、さまざまなコンセプトルームが生み出されています。面白い部屋で映えるため、インフルエンサーが多く訪れていますし、ツイッターでは何度もバズっているところを見かけます。

都心でなくても、レストランのない田舎にある某ラブホテルでは、一流シェフを雇って食事メニューを低価格で充実させることで、「ここら辺で食事をするなら、あそこのラブホテルで休憩するか」と顧客を獲得しているらしいです。

衰退産業と一般的には言われているラブホテル業界でも、時代の変化に負けることなく、魅力を更新し続けているところがたくさんあります。60年代から70年代の全盛期と呼ばれるラブホテルが姿を消すことは増えました。しかし、今のラブホテルにも深堀る点がたくさんあります。昔の文化を引き継ぎつつも新しいラブホテルの形へ変化する様子を、私は知りたいと思っています。

わたしは、ラブホテルの「いかがわしさ」が好き

それなら、私個人としてはラブホテルの何が好きなのか。その問いを突き詰めると、やっぱり「いかがわしさ」になるのだと思います。昔、好きな女の子とラブホテルに行ったときに、その子から「ラブホをディズニーランドなんて言わない方が良いよ、ラブホって少し怪しげな感じがするからこそ、私は好き」と言われ、私はとても反省しました。ラブホテルがセックスする場所だからこそ、私は「いかがわしい場所に魅了されてしまったという背徳感」「固定観念を超えた先にある魅力に気づいてしまったという優越感」に浸れることができるのだということに自覚的であるべきだ、と。

また、アメニティや奇抜な設計など、表面的にはいかがわしさと切り離して受け取ることのできるラブホテルの側面も、やはり、長い歴史の中で「セックスするための部屋としての役割」を果たすために生まれてきたものだと思うのです。

だから、突き詰めると、ラブホテルの「いやらしさ」や「いかがわしさ」は、ラブホテルとは絶対に切り離したくない要素だと私は感じています。

日本のエロ文化としてのラブホテル

だからこそ、2,3年前に書いていたラブホテルを舞台としたエッセイ連載『ラブホはわたしのワンダーランド』では、ラブホテルが性的な場所であるということを話の軸にして書いていました。利用者としてラブホテルを描くからにはラブホテルの本質から逃げたくないと思っていたからです。

しかし、ラブホテルを、ただ利用者としてだけではなく、よりメタ的に文化として深ぼることができれば、セックスする場所だから魅力的だという話を、別にわざわざセックスして書かなくても良いのです。

私は、3年前にたまたまnoteで賞をとってcakesで連載をしたのがきっかけで、ラブホテルが好きな大学生の女の子と知り合って仲良くなり、その子の紹介でラブホテル業界の人たちともたくさん知り合うことができました。そのおかげで、大学の勉強や研究で忙しくてラブホテル連載を休んでいたここ2年間も、レジャーホテル(ラブホテル)フェアやホテル組合の新年会に参加したり、業界で顔の広い方にホテル視察会に連れて行ってもらったりと、ラブホテルとは関わり続けていました。3年前は、ただ利用者としての精一杯でラブホテルを書くことしかできませんでしたが、業界との繋がりができた今なら、広い視点の話を集めることができ、考察の幅も広げられます。

ラブホテルには、日本のエロ文化・歴史としての深みがあり、建築、ビジネス、海外から見たオモシロ日本文化、性や恋愛、風俗、法律・政治、街の歴史、伝記など切り口も多く見出せます。例えば具体的に、今調べたいと思っているテーマの一部には以下のようなものがあります。

  • SARA vs  BestDelight
    SNS映えの筆頭である令和のラブホテルグループ両者の対談&対決を取材したい。

  • 亜美伊新先生の建築と現代ラブホテル建築
    昭和ラブホテルの巨匠亜美伊新先生から現在のラブホテルデザインまで流れをまとめたい。

  • 恋愛観の変化とラブホテルの進化
    ラブホテルのサービスや空間づくりを、恋愛観やジェンダー論的な観点から考察したい。

  • 海外のラブホテル比較
    日本固有の文化と思われがちなラブホテル、実は他のアジア諸国にもラブホテルはある。各国ごとの特徴を調べたい。

  • アジア圏ラブホテルと日本の大企業との関係
    アジア圏ラブホテルと某日本大企業の繋がりがあるらしい。また逆に、日本のラブホテル業界には外国人の割合が高い。ルーツを探っていきたい。

  • 渋谷ラブホテル組合新年会に丸川珠代元大臣が挨拶しに来ていた話
    渋谷ホテル組合の新年会に参加してきたので、そこであった小話をしたい。

  • ラブホテル業界を舞台裏で牛耳る企業アルメックス
    話題の成田祐輔も興味があって訪問したラブホテルの弱電と呼ばれる部分のほとんどのシェアを握っているアルメックスという企業へインタビューしたい。

  • 風俗とラブホテルのつながり
    ラブホテルには、デリヘル会社と契約しているところもある。夜の世界と絡めたラブホテルの姿を見つけたい。

  • セックス装置としてのラブホテル
    回転ベッドや鏡ばりの部屋、すけべ椅子などラブホテル固有のセックス装置をコレクションしたい。

将来の夢はラブホテルオーナー

私はラブホテルをより深く知りたいのですが、それは最終的には「自分の理想のラブホテル」つまり「二人がいかがわしくなるための空間」を作りたいという夢があるからです。

自分の理想のラブホテルは何か?ということを考えたときに、SARA、ラ・フランセパリス、DIXY Innといった具体的なホテル名や、非日常性、古くてもいいけどコンセプトや物がちゃちくない、シティホテルよりも二人で入ると安い、仕掛けや奇抜さなどの予測不可能性、といった要素は挙げられます。けれど、実際に作れるほどの具体性やアイディアはまだ全然固まっていません。さまざまな視点からのラブホテルを知っていく中で、自分の理想のラブホテルというものを具体的に言語化できるようになることを目指そうと思っています。

ラブホテルに関する課題図書を読む

こういった具合に「ラブホテルオーナーになりたい」と話していたら、ラブホテルの自動精算機や部屋パネルなどの弱電と呼ばれるシステムを作っているアルメックスという会社から「応援したいので、希望するラブホテル業界の人に出来るだけ合わせてあげます」と言ってもらえました。そして、その連絡と共に、本当にやる気があるのかどうかを確かめるためか、課題図書4冊とレジャーホテル(ラブホテル)の業界雑誌が大量に送られてきました。


ラブホテルの課題図書
ラブホテルの業界雑誌

「とりあえず、これで勉強してみてください」と指示されたので、言われた通り読みました。次回の記事では、アルメックスからもらった課題図書とこれまで私がラブホテル関係者と会って得た知識から、ラブホテル基本概要(ラブホテル経営者の種類、組合、サプライチェーンなど)を復習し、ちゃんと勉強したことを示そうと思います。

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