ふたりぐらし

※即興小説トレーニング様から
お題:淡い地獄 必須要素:挽き肉 制限時間:15分 読者:26 人 文字数:800字


鍋をつつく箸が止まった。
「苦い」
分かりきったことを彼女は言う。ボーナスがでて、ハイになったのだろう。夕食の買い出しを頼むと、山のような食用花を買ってきた。私はそれを予定していたみぞれ鍋に浮かべた。
そもそも、頼んだのは挽き肉だった。冷凍庫に保管していた僅かばかりのそれでは、ボーナスを祝福できない。もっと凝った、それこそハンバーグだとかを作るべきだろうと思っていたが、あまりにも寒い冬日だったこともあり、鍋になった。白菜も大根も消費しなければならない。普段は面倒くさいので作らないみぞれ鍋なら、きっと満足できるだろう。大根おろしで彼女の好きな猫も作った。
意気揚々と彼女が鍋の蓋を開けると、花畑にちょこんと座る猫がいた。かわいいかわいいと連写する彼女。その様子を見る限り、作ってよかったと思うのだった。

そこまでは良かった。火が通り、猫がその温かさに解けて、箸を伸ばした。カラフルなそれを口に含む。
ああ、苦い。
不味い訳では無い。しかし美味しいとも言い難い。見た目通りの「花」の味が、口内に拡がっていく。
「……ゴマだれかけたら行けるかな」
おもむろに立ち上がって、彼女は台所へ向かった。自家製のゴマだれを取り出して戻ってくる。
ゴマだれを器に受けて、しっかり花を浸して、また咀嚼する。ゴマだれのかかった花は、雨上がりの水溜まりのようだった。
「やっぱり苦いや」
極度の甘党を自負する彼女は耐えきれないと花弁を端に避けた。私自身、食べられない訳では無いけども、積極的に進むとは言えない。
食材を無駄にしてしまった、とどこかで自責の声がした。とはいえ、大量の花弁を消費できるレシピなど、鍋以外に思いつかない。
仕方ないともくもく食べ続けている私を見て、彼女は何かを思いついたようだった。
「貴方なら、花吐き病にかかっても苦しくないね!」
花吐き病とはなんだ、と言いそうになる口を、花弁で覆った。

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