小さい愛のままで

※即興小説トレーニング様から
お題:でかい私 制限時間:15分 読者:139 人 文字数:673字


夢の中で、私は「でかい私」になっていた。15階建てのマンションに住む友人が、ベランダから顔を出した。それはちょうど私の目線と同じ高さだ。
「どうしてそんなに大きくなっちゃったんですかー」
何時かの引越し屋が脳裏に浮かぶ。あれは、小さいのに大きかった。
「君への愛だよー!」
冗談を吐いた。友人が叫んで問うから、私もつられて叫んでいた。風圧に耐え兼ねるように、友人は言う。
「愛がデカイなー!」

そこで目が覚める。手にすっぽり収まるマグカップは、もう湯気を立てていない。
「どうしたん、まだ寝てるん?」
未だに関西弁が抜けない友人は、ひょいとそのマグカップを取り上げた。
「……今じゃなくて寝てる時に取ってよ」
「ごめんごめん、写真撮るんに忙しかった」
ほれ、と友人がスマホを向ける。綺麗に寝落ちた私がそこに映る。頭をもたげて、これは首が痛くなりそうだと考える。思うそばから、少しずつ。
「まあ、いうて寝てたのちょっとだけやし、そんなに眠いなら帰る?」
友人は部屋のカーテンを閉めた。寸前で見えたのは、街路樹を引き抜く大きな手。
「んーん、今日は泊まらせてよ」
「そか。なら家事手伝ってな」
にしし、と聞こえそうに友人は笑う。なにしてもらおうかと逡巡する友人は、外の景色に目を向けることは無かった。
愛がでかいと叫んだ友人を思う。愛で体も大きくなるなら、きっと、私も?

ずっとつきっぱなしだったテレビニュースが切り替わる。
ーー今日は、街路整備の日です。小人の皆さんは、外に出ないようにしましょう。

まあ、まだしばらくは、小さいままでいよう。

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