『独りぼっちのアンソロ』感想メモ②

 前に感想メモ①を書いてから、随分間が開いてしまった。ちょこちょこ読み返しながら書くぞ! 前回、二作分のメモを書いたから、今回は三作目「カミ」から。

3.カミ

 これ読み返したとき、懐かしい! ってなった。これを初めて読んだのが、おそらく一年半前とか、もっと前とか。だから懐かしいっていうのもあるんだけど、たぶん、懐かしい理由がもう一つあって、それがこれである。

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 これ、私が小学生くらいのときに「じゆうちょう」に書いたラクガキなんだけど、この「カミ」という作品は、このラクガキが元ネタ(?)になっている。元ネタっていうか、なんていうか、とにかく、これをケノヒさんに見せたのがきっかけで「カミ」が生まれた。すごいよね、こんなラクガキが……てか、何これ? 何を思って描いたのかまったく覚えてない。

 というわけで、これを読み返したとき私は、「カミ」を初めて読んだときのことと同時に、(無意識に?)あのラクガキのことを思い出して、二重に「懐かしい」と感じたのかもしれない。

本編の感想に入るぞ!


 町の隅っこの、いかにも空き家みたいな古びた家に住んでいるおばあさん。「僕」はいつも、そんなおばあさんを訪ねて行っては、面白いお話を聞かせてもらう。

 この小説は語りがめっちゃ面白い。最初は「僕」の一人称で始まり、途中、おばあさんの話が始まると、地の文が完全におばあさんの語りに切り替わる。「昔々」ってな具合に。でも、あれだ、読み返してると、そもそも「僕」の語りもどこか、「昔々」的だった。最初の一行はこう。

 町の隅っこに、古びた家があった。
 誰が住んでいるか、町に住む誰もが知らなかった。ある人は、空き家なんじゃないかと言っていた。――でも、僕だけは知っていた。あそこには偏屈なおばあさんが住んでいるんだ。

 もうすでに、「昔々」感がある。回想っぽい語りだし。「昔々、町の隅っこの古びた家に、おばあさんが住んでいました――」的な。それで、この、僕の語りの中でまた、おばあさんの「昔々」が始まる。なんかマトリョーシカみたいで面白い。もっとも、「僕」の描写するおばあさんの家の中(壁に貼られたメモ、たてつけわるい襖、掘りごたつ)には生活感があふれているし、これから語られるおばあさんの話にしても描写がけっこう細かくて、そのへんはあんまり「昔話」っぽくないけれど(昔話みたいな口承文学は口伝えだから、自然とディテールが削られていって、どんどんシンプルな文章になっていくって、どっかで読んだような……)。

 で、おばあさんの語る話。私が描いたあの、頭が火山で、しっぽが鎌の大男が出てくる。っていうかあれ、しっぽだったのか、私も知らなかった笑 男は、山の木を切り倒して家を作って暮らしている。ときどき頭が噴火してしまうから大変。家をまた建てなきゃいけないし、周りの木も燃える……でも、それは山にとって必要な山火事の役割を果たしていたから、山とは共存出来ていた。山に、山みたいな男が住んでるって、面白いな……。

 ある日人間たちがやってきて、大男に、山の木を切らせてくれと頼む。「カミ」を作るのに必要だって言って。ここの会話で、「神の言葉」を書き写すのに「カミ」が必要って言ってるの、めっちゃ面白い。何で両方「カミ」なんだろう。日本語、面白過ぎる。で、どうやら、カミが必要っていってるのは、でっかいお城にいる人(権力者)らしい。村人たちは、たぶん権力者に従って、山の中まで来たんだろう。火山男は、彼が生活するのに必要な分は木を残しておくことを条件に、村人たちの要求を受け入れた。

 しかし、案の定というかなんというか、村人たちは木を切りすぎてしまう。これでは、火山男の住むところがなくなってしまう――というわけで、火山男は、村人に抗議しに行く。けど、村人たちは青い顔をしながらも、言い返す。

 ――じゃがね〝カミ〟というのは便利なんじゃよ。これがあれば忘れ物をしたときも助かるし、大きな計算をたくさんできる。楽しいお話だって、長い時間ずっと保存できるんじゃ。
 ――保存だかなんだか知らんが――
 ――おいおいおいおい、な? 分かってくれよ。ほれ、一つ計算してやろうか。お前がいくつ木を切れば家を作ることができるか。
 ――そんなことは頭でわかって――
 ――じゃ、じゃあ、これはどうじゃ、ほれ(おばあさんは、ポケットから紙を取り出した)昔々あるところにおばあさんとおじいさんがおった――
――昔の話なんか知らない! 今の話をしてるんだ!

 これ、よく考えたら、おばあさんの語る昔話の中で、またおばあさんが昔話を語ろうとしている笑 そして、「昔の話なんか知らない!」笑。この小説が正に紙の上に印刷され、それを自分が読んでるという状況にも笑ってしまう。なにこれ。
 で、村人たちは結局、約束のことは〝カミ〟に書かなかったから忘れてしまった――なんてことを言って、逃げて行ってしまう。火山頭の男は、やりきれず、怒りを募らせる。そして、ある日ついに、文字通り爆発してしまう。木を切る村人たちに向かって、頭の火山を噴火させるのだ。大砲のように。


 村人の音は消えた。その代わり、阿鼻叫喚が山を覆った。溶岩は村に達し、あっという間に飲み込んだ。家が、広場が、道路が、すべて溶岩の渦に飲み込まれた。村人はあっという間に溶けた。骨も残らなかった! 溶岩からすんでのところで逃げた村人も――手や足や、背中が溶けていた。そうだ、手が一本の村人。足がない村人。色んな村人が生まれた。五体満足でない人間は、そういえば人間じゃなかったっけか! ハハハハハハハハ!

 このおばあさん、怖すぎない?
 昔話とかおとぎ話って、よく考えたら怖かったり、グロかったりするのも多いけど、そのグロい描写がはぶかれてるから、読み聞かせとかできるわけで。「オオカミのお腹を開いたら、胃液と血にまみれたおばあちゃんが、息も絶え絶え出てきました。」とか言ったら怖すぎるよね。その辺は、ご都合主義も働いて端折られてるんだと思うけど、このおばあさんは端折る気がないらしい。むしろ、ここ話してるときが一番楽しそう。怖い笑。

 で、次の段落。

 そのとき大男は、幸福で絶頂していた。幸せに包まれていた! 村人よ、ざまあみろ。約束を守らなかったツケだ。俺があれほど言ったのに。お前らが耳を塞いだからだ!
「でも、仕方なかったんでしょ!?」
 何を言う! 俺は約束したんだぞ。俺の住む分だけの木を! 俺に残してくれとな。

 ここめっちゃ面白い!
「でも、仕方なかったんでしょ!?」というセリフは、まぎれもなくおばあさんの話を聞いている「僕」のセリフである。ここまでくると、おばあさんの話は盛り上がって、ほとんど火山頭の大男の言葉そのものになっている。おばあさんが喋っているってことを忘れそうなくらい、おばあさんは役者みたいに大男を演じている。でも、ここに聞き手である「僕」の言葉が入り込む。おばあさんは、それに「大男」として返答する。舞台と客席の間にある透明な壁が壊れる。即興演劇みたいだ。「大男(おばあさん)」は、村人の方こそ人殺しだと訴え、「殺して何が悪い?」と言う。ここでまた「僕」のセリフ。

「悪くない、悪くないかもしれないけど、僕は悪いと思う! え、答えになってないって? ――そりゃ答えになってないけどさ、悪いったら悪いんだ。おばあさん、やっぱり人殺しは良くないよ。それがたとえ、裏切られたからだってさ、人を殺したら悪なんだ。殺されたら、痛いじゃないか! 相手を痛めつけるなんて、どんな理由があったってダメだ。おばあさんはダメだ。ダメだったらダメなんだよ。今日のお話は、ひどいよ。こんな……こんな結末はおかしい。僕、もう帰るよ。ああ、もう鬱陶しい。僕は、コタツから乱暴に抜け出すと、ふすまを開こうと手をかけた。

 ここで、僕のセリフは、そのまま地の文になっていき、下の括弧でくくられることもないまま、おばあさんの家を飛び出していく。壁に貼られたメモ(〝カミ〟)をびりびり破り捨てながら。ここの爆発っぷりは、まさに火山頭の大男。「僕」は噴火してしまった。
 ここからの「僕」の行動、大男の噴火(復讐)を否定しながら火山みたいに怒り出して、紙類を破りまくるっていうの、うまく言えないけど見てて辛いわ……でも、辛いんだけど噴火した「僕」による表現が全部面白くて、笑ってしまう。

 駅に出れば、ティッシュを配っている女がティッシュを配っていた。薬屋の前を通れば、バカみたいなアホが、店中にいっぱい貼られている。

 「バカみたいなアホ」って何? 天才すぎる。 家に帰ったら両親のことは「オス」「メス」、「宿題は?」なんて言われたら、「人殺しの宿題か!」

 「僕」はもう、とにかくおばあちゃんの語った結末が受け入れられないって感じで、もう、どうしたらいいか分からん状態で、とにかく目についた紙、写真とか漫画とかノートとか全部破り捨てて(絶対後になって後悔するやん)、最後には、ランドセルからいっぱい出てきたプリントやら教科書を見て、もう、キャパオーバーって感じで、頭真っ白になってしまう。自分の行動を貫くためにはそれも破り捨てなきゃいけないんだけど、それをするとやばい、学校あるし、っていう理性が出てきちゃって、どうしようもなくなってフリーズしたんかな。

 で、メス(母)は部屋から出てこない「僕」を心配するんだけど、オスは、息子の行動を「思春期」という言葉で片付けてしまう。「そういうもん」とか「自分にもそういう時代があったなぁ」とか、半笑いで――。勘弁して欲しい笑 「僕」からしたら大事件だったはずだ。何を信じればいいのかわからんし、勢いで漫画とかいろいろ破いちゃったし。どうすんだよ、ほんと。おばあさんにも、ぶちぎれてしまったから、会いに行きづらいし。途方に暮れるよ。泣くわ(しかし、反省してみると、読みながらちょっと「若いな」とか「あるよね」とか思っちゃった自分もいる気がする。なんてこった、自分のオス性を暴露されてしまった)。
 でも、とにかく、この後「僕」が立ち直って元気に過ごせることを祈ってる……おばあさんとも話せるといいな。あのおばあさん、めっちゃ怖いけど……。


 感想メモ、2,3作まとめて書くつもりだったんだけど、なんかめっちゃ長くなってしまった。続きはまた次回!

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