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短編小説 | 海賊船

クラシックバレーの発表会終了後、振り付けを間違えてしまった妹のもとへお兄ちゃんはすぐさま駆けつけました。

そして妹にこう言ったのです。

「お前が一番綺麗だったよ!」と。

郵便局で働くフェルナンドは、残業の依頼を進んで引き受けました。

今度の週末は土曜日も日曜日も働く予定です。

すべては美しい恋人ルイーゼのため。

あのダイヤモンドの指輪を購入し、ルイーゼにプロポーズするのです。

ルイーゼはなんと言うだろうか。

ダイヤモンドの指輪を見た時にどんな顔をするだろうか。

手紙を仕分けするフェルナンドの頭は、今日もルイーゼのことでいっぱいでした。

そこから北に370キロ ほど進んだ小さな町では、漁師のアドルフが今日も昼間からお酒を飲んでいます。

肌は真っ黒に焼け、体からはいつもタバコとお酒の匂いを漂わせているのです。

「そういえば、生まれてこのかたこの町を出たことがなかった。」

アドルフはふとそんなことを考えました。

見上げると、カモメが今日も空をゆったりと飛んでいます。

あれは、アドルフが5歳か6歳の時のこと。

兄と一緒に防波堤に座っていたあの時も、今日のようにかもめが空を飛んでいたのです。

兄は言いました。

「目を凝らすと、ときどき海賊船が見えるんだぜ。」

「まさか!」とアドルフは言いましたが、それからというものアドルフは防波堤に行くたびに必死に目を凝らすようになったのです。

アドルフは海が好きになりました。

遠くの海に、海賊船が見える気がしてならなかったのです。

あれから60年の月日が経った今、アドルフは海を見ながら再び目を凝らしてみます。

真っ黒に日焼けした兄の顔が浮かびました。

兄は今頃何をしているだろうか......。

ラファエルはその頃新鮮な野菜やら果物やらを市場で仕入れている時でした。

最近の趣味は料理です。

それまでは食べ物にあまり関心がなかったのに、アデリーナが作ったパスタを食べてから美味しい料理に目覚めたのでした。

アデリーナはラファエルに様々なレシピを教えました。

料理初心者でも簡単に作れる美味しい料理のレシピです。

ラファエルは包丁の持ち方から学びました。

野菜を洗うことも覚えました。

皮を剥くことも覚えました。

油を引くことも覚えました。

そうやって少しずつ料理の腕を上げていったのです。

包丁を持つ手はいつもぎこちないものでした。

しかし、自分でもなかなかやるじゃないかと思える料理が作れると、ラファエルはしばらく感じていなかった小さな喜びを覚えたのです。

ラファエルは、隣町に住む弟のことを想っています。

アドルフという名前の弟です。

昔、アドルフに海賊の話をしたことがありました。

父と母が大喧嘩したあの日の夕方、アドルフを外へと連れ出したのです。

2人は海が見渡せる防波堤にたどり着きました。

下を向いて元気がなさそうにしていた弟に、兄のラファエルは必死にこう言ったのです。

「目を凝らすと、ときどき海賊船が見えるんだぜ!」

弟は「まさか!」と言いましたが、あの目は確かに海賊を探していたのでした。

ラファエルはにんにくをたっぷり使ったトマトソースのパスタを作っています。

アドルフが一番好きなパスタです。


空を見上げた時、そこにはいくつかの星が輝いていました。

泣いたおかげで、先ほどよりは気持ちがすっきりしています。

エマは目を少し細めてみました。

すると、星はぼんやりと大きく膨らみます。

もう一度目を開けてみました。

すると今度は星が鮮明に輝きました。

雨の匂いがするのは、先ほどまで雨が強く降っていたからです。

その雨も止み、空には薄い雲が少しあるだけでした。

その雲も早く流れていきます。

星は、いつもより綺麗でした。

そこから3つの通りを挟んだその先に、フランソワという名の天文学者が住んでいます。

その日からちょうど12日後の夕方に、エマとフランソワは出会うのです。

フランソワはエマに星にまつわる美しい話をたくさん聞かせました。

「辛かったら、芝生に横になるといい。そして空を見上げるんだ。この話を思い出したら、きっと辛いことも忘れられるよ。」

やがて、2人の間に可愛い女の子が生まれます。

目が大きくてまるで天使のような女の子です。

3人は週末になると大きなシートを庭に広げました。

そこにはコーヒーやワインやクッキーがあります。

星のことを語りました。

そして、宇宙はどこまでも広がっているということも。


雨上がりの昼下がり。

初めて虹を見た少年が天使がいることを確信したとき、それまで身を寄せ合っていた鳥たちが一斉に空へと飛び立ちました。

踊り子のカトリーヌは先週買ったばかりのワンピースに袖を通します。

白いサンダルを履きました。

みずみずしい太陽の光が、カトリーヌの頬を優しく撫でます。

雨の匂いを吸い込みました。

夜とは違う雨の匂い。

夜とは違う風景でした。

「あなたになんて感謝を言ったらいいのかしら。

感謝の言葉が見つからないわ。

あなたに出会えてよかった。

どれだけ素晴らしい人生だったか。

あなたは私にあらゆることを教えてくれた。

人生は素晴らしいということ、

そして愛することがどれだけ尊いことかということも。

ジル、あなたのことを心から愛しているわ。

私と出会ってくれて、本当にありがとう。」

ジルと62年という長い年月を共にしたアリスは、ジルの手をしばらく握り続けました。

目からは涙がしばらく止まりません。

でもその眼差しはジルを敬う気持ちに満ちていました。

ジルを心から愛していたのです。

ジルもアリスのことを心の底から愛していました。


朝の目覚めが気持ちいいときも

雨上がりの空気が美味しいときも

心地よい風が吹くときも

夜の星が輝くときも

あなたのことを愛しているよ。

雨が強く降っているときも

虹が空にかかるときも

鳥たちが空を舞うときも

雲間から太陽の光が差すときも。

「ねえおじさん。さっきから何を見てるの?」

「海賊船。」

「海賊船?」

男の子は目を見開きながら聞きました。

アドルフは相変わらずタバコをぷかぷかふかせながら、真剣な眼差しで言いました。

「夕方になると、見えるんだよ。ずっと向こうの海のほうに。」

男の子が自分の言葉を信じたことを確認すると、アドルフは少しにやりと笑いながらその場をゆっくり後にしました。

これから髭をきれいに剃るんです。

隣町で美味しい料理を食べに行くんですから。













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