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短編小説 | ジーナさんと庭の花

ジーナさんは、一人で過ごすことが好きでした。

とくに、きれいな花が咲く庭の中で過ごしていると、嫌なことも忘れることができました。

庭にはテーブルと椅子があります。

よく晴れた日は、ときどき庭の椅子に座って、本を読んだり、日記を書いたり、物語を書いたりしたのです。

そして、ときどき庭の中を歩いては、花の様子を観察するのでした。

「この子は大きくなったな。」

「この子はもう少し水が必要かな。」

「また蕾ができている。」と。

花を見ていると、心がとても落ち着きました。

硬くなった表情は、徐々に柔らかくなっていくのです。

「大きくなったね」

「きれいになったね」

ジーナさんはそう言って、今日も花に話しかけました。

そして、花はそれを聞いて、今日も少し照れました。

ラジオから、綺麗なバイオリンの音色が聞こえてきます。

ジーナさんは、気持ちよさそうに目を閉じました。

そして、花は気持ちよさそうに体を揺らしました。

それは、土曜日の夕方の、3時54分のことでした。

もう少ししたら、ジーナさんは台所に行って、おいしいご飯を作るでしょう。

そうして、おいしい匂いが庭にも届くはず。

花たちは、その時間も好きでした。

ジーナさんが作る料理。

それはジーナさんのように完璧なはずです。

今日も美味しそうな匂いがする。

これは、ジーナさんの得意料理のシチューに違いありません。

そうして、もう少ししたら車の音が聞こえてくるでしょう。

最近、ジーナさんが知り合った男の人。

ジーナさんが好きになった男の人。

ジーナさんの悲しい泣き声を、笑い声に変えてくれた男の人。

ジーナさんがおいしい料理を作る回数を多くした男の人。

ジーナさんをもっと美しくした男の人。

常に不安そうな表情をしていたジーナさんを、穏やかな表情に変えてしまった男の人。

ほら、あの車の音が聞こえる。

ゆっくりと車を止めると、その男の人が現れた。

男の人は、車から出るなり、鼻をひくひくさせている。

ジーナさんの料理を当てるゲームだ。

そうして、玄関の扉を開けると、嬉しそうにこういうはずなのです。

「ジーナ。今日のご飯はシチューだね!」って。









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