超絶ふわっと分かる「脳と遺伝子」
今日の議題は「遺伝子でどこまで決まるか?」です。筆者の専門が脳なので、主に脳の個性の決定について、遺伝子がどこまで決めて、どこからが育ちなのか、超絶ふわっと解説していきます。
教科書は『心を生み出す遺伝子』(著:ゲアリー・マーカス)と『脳からみた自閉症』(著:大隅典子)としますが、あくまでもっと知りたくなった人用です。この記事だけでふわっと分かるように書いていきたいと思います。
①まず遺伝子って何やねん
まずここから行きます。遺伝子とは、何なのか? 一体何をやっているの?
「私たちの設計図」「遺伝子が同じだとそっくりになる」。そこからもう一歩踏み込むために、リチャード・ドーキンスの言葉を引用したいと思います。
遺伝暗号は部品を寄せ集めて体を作るための青写真ではない。もっと何か、そう、ケーキを焼くためのレシピのようなものである。 ——リチャード・ドーキンス
遺伝子には、私たちの身体を作るデータが入っています。しかし「設計図」と言ってしまうと、身体の完成形があらかじめ遺伝子で記録されているかのような印象になってしまいます。
しかし実際は、遺伝子には「完成図」は入っていません。入っているのは、あくまで「レシピ」です。「まず小麦粉を用意して、そこに卵を足して……」と言ったことが延々書かれていて、その指示通りに事を進めると、結果的にケーキが出来上がる。だいたいそんなイメージで構いません。
遺伝子が同じ一卵性双生児がそっくりになるのは、設計図が同じだからではなく、「作るときの手順が全く同じだったからものすごく似たケーキができあがる」からなのです。
②私たちの脳はどう生まれるのか
ということを頭に入れた上で、私たちの「脳のレシピ」を見ていきたいと思います。すごくざっくり言ってこんな感じです。
1 ニューロンが生まれる
2 ニューロンが層構造を形成し配線される
3 いらないニューロンが刈り込まれる
という手順になっています。
この中で比較的遺伝子によって決定される部分が多いのは1と2ですが、それはあくまで、製造過程においてミスが起こらなかった場合の話です。
生き物はそもそもかなりミスをします。「遺伝子に書いてあったけれどパーツを作れなかった」とか「作る場所を間違えた」なんてことがかなりの頻度で起こりえます。
ケーキ工場だったら、「完成図と違うぞ! 一旦ラインを止めるんだ!」ということになりますが、生き物の身体を作り上げる上では、基本的にそのまま製造ラインが動き続けてしまいます。完成図を持っていないのですから、当然といえば当然ですよね。
1と2における製造ラインのミスは、程度の大小はさておき、「誰の脳でも多少は起こっている」と言えます。『脳から見た自閉症』では、「脳に完璧はない、誰の脳にも、なにがしかの不具合があって不思議ではないと考えるべき」と述べられています。
ある意味、「どう製造ラインでミスが起きたか」が、私たちの個性を決定しているのかもしれません。そう考えると、遺伝子が関与している部分って思ったより小さいのかもしれませんね。
で、製造ラインの3番目、「いらないニューロンが刈り込まれる」過程ですが、この過程には明確に遺伝子以外の要素が関わってきます。
何せこの製造ラインは、だいたい3歳前後まで動き続けています。
出生後はたくさんあったニューロンから、使わなかったものが排除されるというこの「ニューロンの刈り込み」には当然環境が大きく関わってきます。脳の形成の観点から見ると、「3歳までどのような環境で育ったか」は非常に重要な要素となりえるのです。
ここまで読んでいただけると、「あれ、遺伝子の関与、少なくね?」と思った方もおられるのではないでしょうか。
③脳(心)に深く関与する遺伝子の話
とはいえ、遺伝子で決まる(決まりやすい)部分ももちろんあります。
遺伝子が直接的に関与しやすい要素として、「神経伝達物質の量」があげられます。セロトニンとか、ドーパミンとか、ノルアドレナリンとかあぁいったやつらです。
遺伝子は「どんなタンパク質を作るか」を直接的にコードしているので、こういった「どの物質をどのくらい作りますか?」という要素に関しては、かなりダイレクトな影響を与えてきます。
神経伝達物質の量によって現れる病気として、「うつ病」があげられます。これはセロトニンの量が足りないことが原因で起こる病気ですが、うつ病は違う環境で育った親がうつ病だった場合においても、子の発症率が高くなることが報告されているようです。明確に「この遺伝子があるとうつ病になりやすい!」ということが分かっている訳ではありませんが、遺伝子で決まりやすい性質の一つではあるようです。
いかがでしたでしょうか。遺伝子で決まることも、そうじゃないこともあるんだな、ということを何となく感じ取っていただけたら幸いです。
ここまで読んで下さってありがとうございました。
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