見出し画像

「自転車を押して歩きましょう」(ショートショート)

 踏切を渡ってすぐのクリーニング・ヤサンから焼肉ボンボンの間は歩道が狭い。交通量の多い車道が危険だからという理由で自転車も通るから危なかった。

 ある日、その歩道に看板が立てられた。

「この歩道は、自転車を押して歩きましょう  従順市」

「自転車押して 歩きましょう」
 というわけで、その歩道を通る人は、自転車を押して歩かなければならなくなった。従順市の市民は従順だ。慌てて自転車を購入する人もいれば、自転車がないから遠回りする人も出た。

 2、3日すると、クリーニング・ヤサンと焼肉ボンボンの前にそれぞれ、「貸し押し自転車」の屋台が出るようになった。ヤサンの前で借りた「自転車を押して歩き」、ボンボンの前で返す。逆も然りだ。一回100円。

 貸し押し自転車屋は繁盛した。そのうちに、関係のない反対側の歩道でも商売が始まり、偽の「自転車を押して歩きましょう」の看板も出回るようになった。

 見かねた市は、新しい看板を立てた。
「自転車は、降りて通りましょう  従順市」

 その日から、自転車は歩道を降りて自走するようになった。従順市では自転車も従順だ。

 END

意味はちゃんと分かるけど、「ん?」と思う看板がたまにある。主語を言わない日本語ならではなのか、字数の問題か。はたまたこちらの頭がひねくれているだけなのか。「この歩道では自転車を降りて押して歩きましょう」