見出し画像

昇降口

夕方、大きな雷が鳴って、ザーッと強い雨が降りだした。近くの学校から「きゃー」と慌てた女の子たちの声が聞こえて来た。

ひどい雨が降り出して、学校の中に足止めをくうようなこと、わりと好きだったな。傘があっても役に立たないような雨が降っていて、しばらく待とうと昇降口で立ち尽くして降りしきる雨を見ている時間。

先に帰った子はラッキー。でも私もラッキー。だってM君もまだ残っているから…みたいな、みたいな。

高校は女子校だったから、それは中学の時の記憶で、やがてM君も昇降口にやって来て無言で立ち尽くしたから、なんだかそわそわどきどき…

ところで、なぜ「昇降口」なのかといえば、昇り降りする所という意味もあるが、「下履きと上履きを履き替える場所」ということらしい。教員や来客が使うのが「玄関」で、生徒が使うのが「昇降口」だ。

「昇降口」なんて単語、もう使う機会もないから忘れていたけど、まるでエレベーターの入り口みたい。

さて、
M君の家は、その昇降口を降りてすぐの校門を出て真っ直ぐ横断歩道を渡ったら正面のお店のすぐ裏という、学校中の誰の家よりも近いところにあった。

だから、昇降口に並んで立ち尽くしていたのは一瞬のこと。M君は何も言わず、逃げるように雨の中に走り出て行った。