もう少し子どもの力を信じればよかった


うちの息子は、文字を書くことが困難な書字障害だった。

「だった」と書いたのは、以前はとても困難で、それもあって学校から遠ざかったのだが、今はそれほど困難でもなくなったからだ。

成長とともに力を付けたこともあるが、本人が高校進学を希望して勉強をするようになり、自然に克服したことが大きい。

あれは小6頃だったか。

私は学習障害の子どもがICT機器を活用することについて熱心に情報を集めていた。

ある日、本人に学習障害のことは伏せながら機器を利用することについて説明した。

そして、「君は字を書くのが苦手だが、こんな機器を使うこともできる、どうだろうか」と尋ねた。

すると彼は、きらきらした目で

「僕はみんなと同じようにすらすら字を書きたい」と言ったのだ。

私は愕然としてしまった。

当時の彼は自分の名前を書くのに数分かかっていた。

私は内心「それは無理だろう」と思ったが、あまりにまっすぐにきれいな目で私を見てそう言ったので、何も言えなってしまった。

がっかりしながらICTの利用の話しは進めないことにしたのだった。

その後、息子は人よりはゆっくりだが、日常生活で困らない程度に字を書けるようになり、受験を経て高校生活を送っている。

そんな姿は、当時は思い描くことはできなかった。

親の想像を軽々と越えた息子を、天晴れと思う。

そして、当時の私が彼の力を信じきることができなかったことに、小さな悔いが残っている。

あのとき「そうか、すらすら書きたいんだね」と一緒に考えてあげたらよかったかな。


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