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奥伊勢の山林労務に付随する楽しみ⑵

雪の峠・雪うさぎ・雪だるま
<監督補佐>
同じタイトルの⑴にも書いたのだけれど、山林労務は楽しくない。現場監督は山林労務ほど楽しいものはない、と公言しているのだが、監督補佐のたまの楽しみは労務以外にある。

冬になると出発時の大阪は晴天でも、三重県に向かう途中、奈良県と三重県の県境の高見峠付近に雪が積もっていることがある。地元の人はよほどの所用がない限り、わざわざ積雪の峠を越えようとはしないようで、雪の朝は行き交う車もほとんどなく、雪はきれいに積もったままになっている。

そこで、滅多にない積雪の日、車を停めて雪見をしようということになった。

生まれ育った地方は温暖で、雪はたまにチラチラ、フラフラ降るだけで、積もることはほぼなく、幼い頃の雪の思い出といえば、かなり土まみれの雪だるまを1回作ったことがあるだけ、後は祖母の指示に従って雪うさぎを作ったこともあったなぁ、という程度である。

祖母は孫の遊び相手になる気などまるでない人であった。その祖母が、珍しく雪が少し積もった日、4~5歳くらいだった私に「雪うさぎ作ろか」と声を掛けてくれた。その気になった私に「雪を固めておいで」と縁側に座ったまま言う祖母。言われるがままセッセと雪を固めて持って行ったけれど、祖母のもくろんだうさぎの大きさになるまでに数回、縁側と雪の庭を往復するハメに陥った。

ひたすら手が冷たい・・やっと小さい塗りのお盆の上に楕円形に雪が盛り上がり、祖母に言われて取って来た南天の赤い実と緑の葉っぱを、うさぎの目と耳にみたてて雪に張り付け、雪うさぎは完成した。祖母は「カイラシの出来たなぁ」(「カイラシ」は「かわいらしい」の方言)と日溜まりの縁側で雪うさぎを愛でていたが、私にはうさぎ完成の感動よりも、赤くビリビリと冷たい手の感覚が残った出来事であった。

赤いうさぎの目・冷たくて赤くなった手

そんな思い出はあるものの、「雪」は今でも非日常の景色、たまにしか見られない景色である。かなり本気でワクワクする。
車から降りると、辺り一面が積もったばかりの雪。そうだ、♪雪合戦♪と思い立った監督補佐。

一応「補佐」という立場を自覚している監督補佐は、雪を固く握って団子状にし、衣服が濡れないように現場監督の「足先」目掛けて放り投げた。遅れをとったと慌てた監督は両腕いっぱいの雪をすくい上げ、急いで逃げる監督補佐の背中にテンコ盛りの雪を浴びせ掛けたのである。

過剰反撃ではないか。

雪まみれになった監督補佐は、そうだ、監督は常在戦場、の気合十分な人であった、と改めて思い知ったのだ。

        ためらうことなく過剰反撃に移った監督。
本気で逃げる監督補佐。

冷たかった雪うさぎといい、雪まみれになった雪合戦といい、100%楽しい出来事ではないのだけれど、やはりたまに見る雪景色は非日常の、少し心躍る風景である。この日はガードレールの上に小さい雪だるまを置いて帰った。上の写真がその雪だるま。






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