見出し画像

#140字小説  1月11日~20日

1月11日
『鏡開き』
今日は鏡開きの日。そして大好きだったおじいちゃんに会える命日。昔はおじいちゃんが鏡餅をつくってくれた。でも今では鏡餅を飾ってすらない。寂しい。おじいちゃんがつくってくれたお餅を食べるのが大好きだったのに。また食べたいよ。会いたいよおじいちゃん。ごめん、幼い僕が餅を喉につまらせて死ななければ、今日も一緒に鏡開きができたのに。

1月12日
『スキー』
今日はスキーの日。初めて2人で行ったスキー場の広さを思い出す。少し年上の君は、スキーも上手で、ヘタクソな僕の手を前から引っ張ってくれた。でも、ついに僕は君の横に並べなかった。大人なあなたの手に頼りすぎていたのかもしれない。もう君がいないこの部屋でスキー板だけが埃をかぶっている。

1月13日
『煙草』
今日は煙草の日。僕はコンビニのアルバイト。最近嫌な客がくる。男女の二人連れでいつもぴったりくっついて歩いている。レジに並ぶのも一緒。どれだけラブラブなんだ。そして女性は毎回1番と10番の煙草を買う。今日も女性に煙草を渡すと初めて「ありがとう」と言われた。彼女は涙ぐんでいた。二人が帰ったあと、僕はハッとして、110番通報をした。

1月14日
『婚活作戦会議』
今日は婚活作戦会議の日。私たちは大切な人を一度に失くした。このまま寂しいのは嫌。だから私たち3人はお互いを支え合って、それぞれ新たな相手を見つけることにした。「年上がいい」「公務員がいい」「背が高い人」「浮気しない人がいい」私たちは好きなタイプが似ている。だって、私たちは同じ男に3股をかけられた仲だ。


1月15日
『いちご』
今日はいちごの日。俺が実家に帰ると母はいつも「いちごあるよ」と甘い果実を差し出した。俺が子供の頃、いちごが好きでよく「食べたい」と駄々をこねたらしい。もう昔の話だ。 そして、母が認知症になった今、俺は実家に戻り母と同居している。食卓にいちごが並ぶことはなくなった。俺はふと、思いつき、母の誕生日にショートケーキを買ってきた。 すると、母はすぐにケーキの上のいちごを取って無言で俺の皿に置いた。 そのいちごは少し酸味が強かった。

1月16日
『禁酒』
今日は禁酒の日。
大酒飲みだった俺は医者から注意され、酒を我慢することになった。
つらくて落ち込んでいると、飲み友達の1人が禁酒に付き合ってくれるという。
どうしても飲みたくなった日はその飲み友達がソフトドリンクで俺の愚痴に付き合ってくれた。 ありがたい。
禁酒にも慣れた頃、飲み友達の家に行った。 飲み友達がトイレで席を外した際、禁酒に付き合ってくれた礼を奥さんにも伝えた。
すると、奥さんは不思議な顔でこう答えた。
「うちの夫が今までお酒を飲んだところを見たことがありません」 どうやら飲めないのに、俺の酒に付き合ってくれていたらしい。
なんとも面倒見のいい友達を持ったものだ。

1月17日
『おむすび』
今日はおにぎりの日。
20XX年。活気的なおにぎりが新発売された。
なんと手で握った手作りおにぎりが、99%再現できる機械でつくられている。もうおむすびの握り方を忘れてしまった多くの日本人に人気だとか。

1月18日
今日は都バスの日。
毎朝同じバスに乗っている可愛い女の子がいる。
彼女はいつもイヤホンをしていた。
何を聞いているのかな?ある日、僕は勇気を出して彼女の隣に立った。
彼女のイヤホンから微かなバンドサウンドが聞こえる。
「あの…音漏れしてますよ」
「あっ!ごめんなさい」
焦る彼女も可愛い。
「いえ、いい曲ですね」
「ありがとうございます!彼氏のバンド曲なんです!」
彼女の1番の笑顔の前で僕の恋は砕け散った。


1月19日
今日はカラオケの日。
「あー!あのクソ上司ー!」
私は金曜になるとよくこうやって、歌と愚痴をぶちまける。
「ちょっと仕事ができて、顔がいいからって、部下のことバカにして!しかも仕事押し付けて先に帰るとかありえんし!」

ジョッキをあけると、ちょうどドアが開いて、おかわりがやってきた。
「…ドリンクをお持ちしました。あと、仕事を押し付けたつもりはない」 「ありがとうございます。そこにおいといて…え?」
さっき怒りをぶつけた、顔の整った上司がエプロン姿で私を見上げている。 「え?え、なんで?」
「さっきのことは聞かなかったことにするから、俺がここで働いていることも黙っててくれ。あと、あの仕事はもともとお前の仕事だ」
立ち上がってドアに向かう。

「部屋、あと30分だから、延長しないで早く帰れ。飲み過ぎるなよ」
ドアが閉まる。 音楽が鳴り響く部屋で、ポツンと取り残される私。
「月曜日、どうしよう…」

波乱の幕開けである。

1月20日
今日は玉の輿の日。
僕の幼馴染はずっと「玉の輿に乗りたい。そのためにはイイ女になる!」と勉強もスポーツも美容も頑張っていた。
それでも僕をよく居酒屋に呼び出しては「私に見合うイイ男がいない」と酔っ払って寝てしまう。
僕は彼女と同じ大学を首席を卒業した。
今では上場企業のトップ営業マンだ。
自分でもモテる方だと思う。
だが…
「僕はいつ、イイ男になれるんだろう」
君の寝顔を見ながら、そう思う。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?