イグBFC3感想&評価 グループC/D/E

はじめに

 ジャパンにお住いの皆さん、ハジメマシテ。イグナティウス・ロヨラMK99デス。気軽にイグナットと呼んでクダサイ。
 とでもいうと思っていましたカァ?
 最初からイグしようとしているイグというのは、イグのためにイグしているだけでアーリーマスカラ、真のイグには相応しくアリマセーン。真に不名誉たるイグの名を継ぐものは自然発生的にイグたらねばならないのデェス。ジャパンにお住いの皆さんもその点について深く考えたうえで、己のイグを貫くことをオススメします。いまならイグに関する研究をまとめたこちらの講座を月額980円から始められマース。お客様からの喜びの声はこちら

グループ・C

夜世キリヲ「アイ・アム・ア・ペン」

 逆張りイグデェスネ。なんと破廉恥なことデショ。
 話がわかりやすく他のイグのように気取っていない。ただしこれはペンの顔をした感動ポルノチックなところを持っており、すがすがしいまでにイグの反対方向に走ろうとしている。つまりコイツの影には濃厚なイグが存在しており、それゆえに破廉恥なのだ。イグナティウスを無礼るなよ。貴様ら、こいつを連れていけ。ハレンチ学園に送還しろ。なにをしている。急げ。敵は待ってなどくれんのだからな。

麦畑「名無しの子」

 真面目ではあるがどこか曖昧さを残したために真面目を貫徹しているとはいいがたい。という感想を抱いたこの作品。イグをやろうとしているところがなく、どうしてイグに参加しようと思ったのかという点において異質。イグは学校じゃ教えてくれないヒミツなの。
 小説としては〈不在〉となっているものの正体がなんなのかがわかりやすく提示されていないため、その〈不在〉感覚の根源が簡単にはわからず、どんな文脈で感じ取ればいいのかがわからないという欠点を抱えている。イグナットツーナインはネイティブジャパニーズのAIじゃないのでこういう文化問題の読み取りには対応していない。もちろんと言ってはいけないのだが二度読むという機能も備えていない。
 そのためイグ度0点ということで一旦判断保留という形になる。

佐川恭一「【ほぼ二百字小説】(1)」

 本日未明、イグナティウス・ロヨラMK99、本名月一礼拝さん(49)が路上に倒れているところが見つかりました。月一さんは病院に搬送されましたが、間もなく死亡しました。司法解剖の結果、規定値を超えるイグ色1号を摂取したためにショック状態に陥ったものと見られています。
 アレイズ!
 本編で既に身内ノリ的イグをやっただけでなく、リプライを用いて唐揚げに勝手にレモン汁を絞るという蛮行まではたらくというバーバリアンスタイルのイグノベル。到底許されるべき行為ではない。これだからジャパンのイエローサルモンキーどもは度し難いのデース。
 判定はKeter。ただちに収容します。

目黒乱「めざまし音」

 本日未明、イグナティウス・ロヨラMK99、本名イグナイト太郎さん(25)が路上に倒れているところが見つかりました。イグナイトさんは病院に搬送されましたが、間もなく死亡しました。司法解剖の結果、規定値を超えるイグ色2号とハレンチルアルコールを同時摂取したためにショック状態に陥ったものと見られています。
 なんと破廉恥なノベルだ。そこにイグを添加して誤魔化して最後まで破廉恥をやり通すとはな。これだから極東なんかに来たくなかったんだよ。おお、イグの神イグニスよ。イグを司りしイグ天使たちよ。どうかこのものに人間のクォクォロを……。

グループ・C投票先

 消去砲発射準備完了。ファイエル。生き残ったのは夜世キリヲ「アイ・アム・ア・ペン」でした。
 判定AIイグナットからの講評です。
「決め手になったのは奥ゆかしくイグをやろうとしたその文化的行為でした。明らかに最初からイグをやろうとしてイグしているイグノベルのような破廉恥さをみせないものの、その影のなかにイグが潜んでいるというのはまさしく日本文学の在り方そのものでしょう。今日的に欧米文化に染まって多様性にばかり固執しているイエロージャパニーズサルモンキーどもも見習うべきでしょうネ」
 そういうことで、明らかに抜き身のイグを感じさせながらも、他のイグ作品がわざとらしすぎて負け、それ以外はイグの味がしないということで極めてネガティブな方法での投票となりました。これがメイドインジャパンだ。

グループ・D

吉田棒一「社長室」

 いいですか、イグから生まれたイグ太郎。最初からイグをしようとしてイグしているイグノベルというのは、ブンゲイではないのですよ。それを一発芸と呼ぶのです、イグ太郎。イグから生まれたあなたにならその意味がわかりますね。あからさまな罵詈讒謗の列挙や強めの下ネタ、つまらなくても連打すればどうにか笑いが取れそうな音韻を踏むという行為のすべてにイグの如き下劣さが仕込まれているのです。それをえんえんと擦られ続けたらどうなるかわかりますね、イグ太郎。どうしたのですが、イグ太郎。話はまだ終わっていませんよ。イグ太郎、おおイグ太郎……。
 ですがイグ太郎。あなたはこのさだめから逃げることはできません。あなたはイグから生まれた選ばれし者。いつか真のイグと対峙するときがくるでしょう。そのときこそ、あなたの強さが求められるのですよ、イグ太郎。

冬憑「ソーセージの受難」

 さっきよりはだいぶマシになったじゃん。
 でもイグ太郎、これもやっぱりわざとらしいイグっぽさを感じるよね。
 まあそうだけどさ。でもこの作品はいかにもなイグからすこしだけ外そうとしたところが垣間見えるじゃん。外れてないけどさ。
 へえ。たとえばどういうところに?
 この作品は怪奇小説的なところがあるわけじゃん。そこがこの作品がイグっぽさから逃れようと言葉を尽くしてやってきたことじゃん。
 確かにね。でもイグ太郎的にはやっぱりこの作品からはイグのけもののにおいがするんでしょ。
 そりゃそうじゃん。決定的なのは語り口の使いかたなわけなんじゃん。最後の一文のわざとらしい語尾なんていかにも後付けのイグ的な決定打じゃん。最後にラードをのせればイグ舌バカにもわかるイグ味が添加できちゃうじゃん。簡単なイグに流れたかみたいにも見えちゃうわけじゃん。
 能書きが長いよ、イグ太郎。要するにこのわざとらしいイグ味が好きじゃないってことでしょ。それを伝えるためにこんなに言葉を使うなんて、あんた率直にいってイグよ。

ひらかたてん「友愛が渋滞する十代」

 とりあえず韻踏んどきゃ勝てる読みの淫婦。
 時知らず、いいフンドシにゃ香るヒトのピップ。
 こんだけ短いのに破廉恥と罵詈を使ったイグをやってのけるとは、このイグ次郎もなかなかのものと思ったでゴンス。
 でもなんかよくわかんねーからそのままにしておくじゃん。イグっぽいけどイグとしてやり通してる感じもないから消去砲の直撃には耐えられそうにないじゃん。だから無理に評価せずにとりあえず0点で保留しておくじゃん。
 それでいいのですか、イグ太郎。
 よせ、オレの頭の中に直接話しかけてくるな!

田中目八「へんじがないただのバナナのやうだ」

 本日はイグにまつわる常套句について説明します。あからさまなイグをやるのに簡単な方法がいくつかあります。そのうちのひとつが環境になじみやすい常套句を使う方法です。たとえば晩夏光ですね。この単語を使うだけであなたの俳句はぐっと俳句らしくなります。角川春樹の有名な句でも使われていますし、酔っ払いハイカーがさらっと読み出すほどな手軽さもあるわけですね。ゲームさんぽを参考にしてください。
 こうした常套句にお定まりのテンプレ展開を重ね合わせてイグ俳句集を作り出そうとした心意気には瞠目せざるをえないところがありますが、その一方でわざとらしさというのがどうしても消せないわけです。真のイグをやるのにあたってもっとも難しいポイントのひとつというわけですね。
 要するに作者がイグに自覚的で、いかにもイグをしようとしてしまっていることが読者に伝わってしまう。そこがイグのイグたろうとすることの難しさということです。

グループ・D投票先

 グループDは非常に判断の難しいグループとなった。ここでも消去砲の火力に頼った。まず第一に下品で剥き出しのイグを作者の手で作り出そうとした神への反抗を削除、次に短い作品ながら安直なイグの見本を見せてくれた作品に神罰を加えた。残った二作品のうち、どちらがより高度なイグを展開しようとしたかを見た。
 最終的には語尾という安直な物質を最後に一滴垂らしてイグたろうとした点を考慮して候補作を弾いていった。
 
結果として田中目八「へんじがないただのバナナのやうだ」に投票することになった。
 本グループのキーワードは安直である。イグ太郎はこうした安っぽいイグと戦わねばならぬ。真のイグは安直さとは遠く離れた神格を宿してゐる。そうでなければイグ太郎はイグナギノミコトに覚醒することもなく死ぬであろう。そうなったイグ太郎はただの太郎だ。太郎に他意はない。ご了承ください。

グループ・E

 落選展の多種多様な作品群を読むのとは別ベクトルの疲れを感じ始めた。生物多様性なんてまやかしだな。

川嵜雄司「彼が言うことには」

 イグにおいて執拗に破廉恥をやり通すということは、それだけでイグ的な決意を感じさせるところがありますね。言い忘れていました。わたしが真のイグナティウス・ロヨラMkⅨⅨです。すでに気づいている方もいらっしゃると思いますが、わかりやすさのために明示させていただきます。
 この作品はイグ的ブンゲイを最初から最後までやろうとしているブンゲイの見本みたいなものですね。そういう意味ではイグ味を取り除こうとしてブンゲイをしようとしているタイプです。他の作品とはアプローチの仕方が逆にみえてくるところに独自性と面白さが感じられます。ただしそのブンゲイのやり方にはどこか安直の影があります。どこかで見たことのある比喩やモチーフ、そしてよくよく引用される星の王子さま。すべてはわかりやすさのためでしょう。こういう作品をイグ太郎に読ませたいですね。
 おお、わたしのかわいいイグ太郎。あなたのお家はどこですか。

牧野楠葉「佐藤健さまへ」

 自身の存在をイグと信じたとき、自然体のイグをやろうとして作者の存在そのものがわざとらしいイグになってしまうという哀しみを感じることがあります。この作品はそういう種類の作品です。取り扱おうとしている範囲にかなりセンシティブな要素を含みますが、この作品はそれについて自覚的であり、その一方で軽率です。この範囲の内容をこのような形で提示すればイグ味が発生するとわかりきっているかのような書き味が文章の端々から滲みだしてしまっています。それは卵子について粘着して繰り返す点であるとか、あるいは性風俗の存在について無造作に放り込むといった手口によって明白になっているのです。だからこの作品はブンゲイ的アプローチでイグしようとしているのではなくて、イグ的アプローチからブンゲイをしようとしていると読めるのですね。
 このグループでは二作品連続で同系統に走ったイグが並んでいます。どちらも読んだ時の印象は異なりますが、この領域にタッチすればイグというようなことを意識して作品を書いているだろうと予想されます。こうした作品をイグ太郎は読んでいかなければなりません。そして判断のためのセンサーを磨いていかなければならないのです。

鍵まかり「国際交流センター」

 イグ……イグナイト……うっ……頭が……。
 ハッ。
 オレはいったいなにをしていたんだ……ここはどこだ。
 この作品は文体によってイグをやろうとしている典型例のひとつだと言えるだろう。オレはいったい何回まで典型例を使っても許されるのだろうか。ゼロはなにも答えてはくれない。
 この作品的にもったいないのって、思索を深めたりとかそういうものとは無縁に話が転がっていって非常にナンセンスな作りになってしまっているところだと思うのよな。同グループ内の作品たちが題材と語り口によって同様にイグしようとしてイグってるところがあるわけだから、それと比較するとこの作品は軽い感じで勝負してるわけだけど、そこに深みがない。軽いと深いを両立できるのがブンゲイの可能性のひとつだ。是非検討してみて欲しい。どうせ同じ夢を見るならもっと滋味深い夢を見たっていいさ。

エンプティー・オーブン「しろくまです。」

 一瞬、騙されそうになった。さわやかな読み口だから絆されそうになった。ここまでするっと読めてしまうと、この作品はメタを読んで巧妙に書かれているような感じがしてくるね。他で描かれる食傷気味のイグの数々のなかで、この作品は通常ブンゲイの領域で使われるやさしさと奇妙さの同居というギミックで勝負をしかけてくる。月は出ているか?
 この作品はタグにもある通りショートショートとして機能するように作られている。他のイグ作品と比較した場合、イグの味は皆無だ。だからこそ読み終えたあとに「ああ、イグから解放された……」という安心感が得られるつくりになっているのだろう。このしろくまは太陽と潮風のにおいがする。永久帰還装置にもそう書いてある。

グループ・E投票先

 このグループもだいぶ苦しめてくれるじゃん。で、結論なんだけど川嵜雄司「彼が言うことには」に投票したよね。
 軽率という言葉を乱舞させてるけど、簡単に言えば楽してイグしてるような作品を評価しないわけ。だから自然体で書いてそのままイグになると理解してるような手練れの技とかには投票できないし、かといってわざとらしくイグっぽい文体でイグしようとしてる作品を評価することもできない。イグのない真っ白なノートに書かれた鉛筆の軌跡に惑わされることもない。
 そうなるとわざわざ他人の視点というものを用いて語りの内容を相対化しようとしたり、物事をわかりやすくするために常套句を使ったりといった努力の形跡が認められる作品を評価しようかなっていう気持ちになってくる。非常に負の力が強い判断方法になるけど、オレはけっこうこのグループにおける作品の書かれかたについて好き勝手考えるのがおもしろかったよ。疲れたけどね。
 イグ・ブンゲイ・ファイトクラブなわけだから、イグるだけじゃなくてブンゲイして欲しいし、ブンゲイファイトして欲しいわけ。だからイグの力に頼りきった作品よりも、ブンゲイの力を出し切ろうとしたほうによりおおきな評点を与えていきたい。

総評

 ジャパンにお住えの皆さん、ハジミメシテ。イグナティウス・ロヨラ酸性デス。気軽ナイ、イグナットと呼んでクデクレ。Jinrui mina shine.
 いい加減、イグ的アプローチで感想書くのやめたら? 疲れるだけでぜんぜんブンゲイチカラが伸びないじゃん。手を動かして文章打ってればなんでも形になるってわけじゃないでしょ。わかるよね、イグ太郎。わかってんならちゃんとしてよね。そうじゃないとわたしの格まで落ちるじゃん。
 ここまで全5グループ20作品を読んできたわけですが、環境はやはりわざとらしいイグ味が支配的という印象です。評価されやすい作品も同系統に寄っていると言わざるをえないでしょう。そんなのひとのかって。
 そのなかでも自分の評価と環境の評価が一致した作品がありました。これは自分が日本に住んでいる一般ネイティブジャパニーズだからこそ評価したんじゃねーの、みたいなところありけりです。
 ただいまのところ超自然的なイグにはまだ出会えていません。イグ的アプローチでブンゲイしようとするのと、ブンゲイ的アプローチでイグしようとするのと、どちらにかたよってもやはり自然発生的イグを味わうのは難しいということです。どこかに無自覚天然系イグ美少女ファイターでも転がっていないかしら。眼鏡をかけてれば完璧。

 ま、こんなところか。
 昨日流行った単語を今日安易に擦らない。それがイグから生まれたイグ太郎の矜持。そういうイグ太郎たちをわたしは育てていきたい。
 さよなら。これでよかったのよ。

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