BFC5落選展感想紀行 1- 12

 かつてBFC3落選展の全作品に感想をつけた通行人がいたという。
 暇人ですね。
 去年もBFC4落選展の全作品に感想をつけた本戦ジャッジがいたという。
 端的に言って、暇人ですね。
 そんなアホでマヌケなバカは誰でしょう。

 そう、私です。


本シリーズについて

 原点に立ち返り一般の通行人として感想を書きます。
 謎の一般人の感想がいまなら無料。
 なお、イグBFC4というアホを決める祭典で全作品を読むという苦行を経験したあとなので、アホな作品には厳しいです。それと去年ジャッジをやった関係でブンゲイでファイトしようとしているかどうかという点についても厳しいです。全然一般の通行人じゃなくねえか?
 そんなことはない。なんの関係もない無知なやつの方がストレートな暴言を吐くものだ。徒然草にもそう書いてある。(※出展が不明な項目)
 あなたはその辺を歩いてる人に自分の作品を読まれて感想を書かれることに正気でいられるかな。これからその実証実験が始まる。

▼神によるまとめリストはこちら。
※番号は機能で自動的に振られてるので、noteにコピーするときは番号のことは忘れた方が無難です。


1.「飛来」吉田棒一

 ○○長という肩書持ちがくだらない会話とくだらない行動をし、そんなシュールな現場に円盤が飛来。キャラクターをひとりアブダクションして去っていく。そして伝染する顔の陥没。訳がわからないね。
 不条理なギャグテイストの小説で、頭の中に光景が浮かんでくるが、それだけという感じだ。不条理掌編小説集に紛れ込んだ一篇という趣で、紙面埋めにはいいかもしれないが、この作品でファイトというのはどうなんだろうという気がする。キャラクター同士の会話に含まれるユーモアも定型的なところがあり、ラストのオチのぶん投げ方もわざとらしい。
 この作品の真価がどこにあるのかとかもぜんぜんわからんのでこれ以上は触れないスタイルでいく。
 一作目からスルーとか前途多難だな。

2.「めくりの国」津早原晶子

 膜めくりという必殺技により、概念的な死と生の境界を行き来する物語。割と早めに出てきた謎の男は夫だろと思ったらやっぱり夫だったなど、展開的にはそんなに驚くようなことは起きない。ただ水戸黄門が何度見てもおもしろいのと一緒で、先が読めるからなんだっちゅうんじゃって物語もある。それがこれ。
 作品の主人公は思い出の中に生きているも同然の状態。そういうのは第三者から見ると死んでいるに等しい。だからこの物語は死に耽溺してしまっている人の物語、というような感じもした。(まあそれよか妄想の世界で生きることに固執していてそこから外に出られないひとの物語、というように読んだ方がしっくりくるし説明しやすいけど)
 最終的にはそうした自分にとって心地のいい場所がなくなるので、外国に亡命してしまう。だから題名がめくりの国というわけだ。戦争が起きましたねって台詞に対して、元々常時戦争状態だったも同然だと返すなど、まああなたにとってはそうでしょうという感じのラストだった。もしかすると彼女は永遠に死ぬことはないかもしれないな。(向こう側がめくりの国説を採用すると、死ぬと向こう側に行くので実質死なぬも同然、と考えられなくもない。あくまでも第三者からすればだが)
 自分の手元にいる猫が……というシーンがこの作品のハイライトだと思うけど、筆力で殴るスタイルだからそれ以上はどうでしょう、というところ。毛筆は人体に刺さらない。

3.「準急」なんようはぎぎょ

 男には若くて美人な女の子をぶつけろと創作指南書にも書いてある。それを地で行く作品。電車に揺られる人々の中で、主人公は傍観者の立場にいる。無力な一般人、一般的な読者に近そうな位置。そしてラストにおいて、自分たちの行く先は自分たちでは決められないと結ぶ。
 つまり一般人は無力で、我々はちょっとなにかをした程度ではなにも変えられない、ということが書いてある。という読み方をしてしまうと、この作品ってめっちゃ普通で特徴がないな、という感想におちついてしまった。
 一度おちついてしまうとそこから評価が動かなくなってしまったので、この話はここでおしまいなんだ。

4.「合掌」野本泰地

 美味しんぼはなにかしらの理屈で相手を叩きのめすところに快感があったりするので、料理が好きな他人に厳しいひとには存外合うかもしれんなと思った。展開としては、場面が豪快にすっ飛んでいくのが特徴。人称が出てこなくて気持ち悪いと思ったが、作為によって発生しているものだと気づくとなにも引っかかる部分はなくなった。
 なんの話だと言われても正直なところわからん。葬式の話だと言えばそうだし、魚をさばけるようになろうという話と言えばそう。お祖父ちゃんに思いを馳せる物語とも言える。どれを選んでも正解にはならない。
 不思議な味のする小説だが、こういうものが他にないのかと言われるとどこか既視感があったりもする。思い出せないということは印象の希薄なBFC作品に似通ったやつがあったということだろう。おそらくこの作品のことも来年は美味しんぼのこと以外すべて忘れている予感がある。当たっているかどうかは来年の自分に聞くしかない。生きて覚えていればの話だが。

5.「チクビルハーン」枚方天

 題名と作者名を見た瞬間にろくでもない作品なんだろうなという気がしていた。そういう先入観で読んだ。結果としてはろくでもない話だった。先入観がそのまま役に立つなんてこともあるんだな。
 ヤポンとかいう日本みたいな名前の国に行く。怒ったら死刑だと告げられる観光客たち。突然生まれる謎の緊張感。死刑だもんな。そりゃそうだ。で、みんな怒ったときに特定の音を出すようになる。その羅列がどうやら題名になるらしい。最終的には制服を着た男たちがやってきて……ですよねーというオチがつくわけだが、(了)の野暮ったさですべてが台無し。左側に存在する余白がまるごと機能しなくなるってなかなかすごいな。これは余白を使いたくないときに使えるテクニックかもしれん。ちょっとおもしろい発見。使う未来など微塵も見えないところを除けばな。

6.「がまぐちぎょろめのグラム・スピナー」藤井佯

 絶対変な話だよと思っていたが、安心と信頼の変な話だった。ここで書かれてるタチヨタカがNyctibius griseusって明示されているのでハイイロタチヨタカとして読んだ。なんで人間はホモ・サピエンス・サピエンスじゃないのか気になって仕方がない。文字数がかかりすぎる説がある。
 現実が虚構に憧れて壁を突破し、虚構にあこがれた人間の手で再び現実へとやってくる。最後の最後、ありゃなんなんだ? YA YA YA YA YA。みんな好きすぎだろ。国民的アニメってこともあるからな。使いやすいってことか。短期間に濫用されていてちょっと食傷気味だがな。
 それともうひとつ気になることがあるんだが、このタチヨタカとかいうやつ、ヨタカの名に漏れず夜行性らしいな。アニメーターと遭遇したときはどう考えても昼だったと思うんだがそのあたりの整合性を問うのは野暮だろうか。話の内容がちょっとトンじゃってるからなあ。細かいことは気にするだけ無駄! ということかもしれん。

7.「心臓」赤木青緑

 この小説は心臓で書かれているので、なにがなんだかさっぱりわからんまま話が終わる。一応あらすじ書こうか? 心臓で生きている男・竜也(この時点で当たり前のことしか書いてなくて字面がおかしい)が『心臓』という古本を買う。読むと本作品の書き出しにある文章が書いてある。竜也はこの本を自分の書いたものだと直感してルーツを探る。が、ダメ。なにもわからず心臓で行動した結果、不審者扱いされる。警察に職質されるが余計なことは言わなかったので解放された。おわり。なんなんですかこれは? なかなかの電波小説で、冷静になるとおもしろいな。
 竜也のキャラクター造詣がよくて、心臓で生きているとか書いているがかなり小賢しい。テメー心臓じゃなくて頭で生きてるだろ? 本当のことをゲロっちまいな。大丈夫、ここにいるみんなはやさしいから怒ったりしないよ。
 真面目に書いてあるんだと思うけど電波の出力が強すぎてちょっとした怪奇現象みたいな小説になってるな。すげえ情けなくて作品のラストがしょぼしょぼになってるのもいい味出してる。宣伝するほどかと言われると違うがおもしろかったと言える作品を読めるのは素直に喜ばしい。

8.「妻が脱皮した。」飛由ユウヒ

 男一人称の見本みたいな書き方がされている小説。主人公、なかなかひどいが、ひどいやつはもっとひどい。オレが体現しているので文句を言う立場にはない。
 で、この話は妻が脱皮したという、それ一本で勝負してきているので、他になにがありますかって言われても困る。ちなみにここで言う脱皮は爬虫類的なイメージで書かれている。そういうの好きなひともいるんだけどなあ。一般的ではないか。昆虫的だったらもっと怖かっただろうな。
 他人事と自分事では反応が違うよなあとかもあるあるだし、展開もあるある。妻を抱けなくなったあとの演出もあるある。なんにも外してないが、外してないということは普通ということで、個性で戦ってくる連中と戦うにはあまりにも厳しすぎる。
 普通が一番、で通用するのは日々の生活だけ。

9.「走る犬」上雲楽

 はい話が難しすぎて理解できない系のやつ来ましたねってやつです。BFCではよくあること。行頭空白の有無がめちゃくちゃすぎるのもよくありません。文章構造もAがBしてCがDしたみたいなのが頻出するので非常に読みづらい。で、それを乗り越えた先にあるのは「主人公is何者」とか「高木さんの息子さんとの間にある共感is何」という疑問。なんで読んでて謎が増えるんだよ! 読み解くのが難しければ文芸になるわけじゃないぞ!
  よく考えればなんとなくわかる気もするんだがな……日本語にない二重母音という「可能性」を殺されることに対する怒りとか、それは人間を犬と同じように扱うことと同じであるとか、そういうことが読解のヒントになるのではないか……。
 疲れたのでやめる。通りがかりはこういうときに便利だぜ!

10.「無敵のワクチン」我那覇キヨ

 メタネタが挟まれてる、小説に関する物語。去年と題材が一緒、なんなら悪化してないか? と思ったがそんなことはなかった。オレはこの物語のことを甘く見積もりすぎていたようだ。先入観がいい仕事をした。いままでは小手先のメタネタや情報と理論武装で殴ってくるきらいがあったが、今回はそれに加えて情に訴える方法で勝負するという新しい技で仕掛けてきたか。やるな……。
※この作者の方は現代的な問題に具体的なデータや方法論を示して読者を殴ったり、小説的にそれ言っちゃうのどうなのよみたいなメタネタも臆さずに使って勝負してきたという経緯があるので、今回もその文脈に乗ってるのだが、それに加えて赤ちゃんの未来を利用してポジティブな情に訴えてくるという手段を取ってきた。むちゃくちゃ書きすぎかな?
 その成果もあり、今回の作品も……まあやっぱりメタネタはやりすぎると鼻白むひとも多いんじゃないかと思うが、最後のくだりで「いい話じゃん」で終われるようになっていた。こんなにハッピーそうな感じで終わるなんていままでにないことだから新鮮な驚きがある。
 こういう変化を感じると、オレも前ダッシュとバックステップを繰り返して実は一歩も動いてませんという状態から早く抜け出さないといけないな,
と思わされます。動けばいいというわけじゃないからな。欲しいのは成長。

11.「記憶の穴」白城マヒロ

 ずーっと穴を掘ってる小説です。
 途中で「この展開は、誰かを埋めたいか、自分が埋まっているか……」となり、沖縄という単語が出てきたあたりで「戦争系のやつだな」という形で思考を誘導された。作者にしてやられたというところだろう。
 しかしそれにしても話が本題に入るまでに使用された紙数の多さよ。導入が長く、本題に入ってからはそうだよなって感じの展開が続く。文章を脳内で読んでいると結構リズムがよくてすいすい先に進めるのでまったく苦ではないのだが、提示される情報が予定調和的だと楽しむという感じにもならない。
 どうすればよくなるとか偉そうなことは言えんが、いまの状態がベストとは思えないな。そうなりますよね、というところに読者を乗せてからどこに放り投げるのか、まだファイトの余地がありそうだ。ジャッジ顔でそう思った。思うだけなら無料だし。

12.「夜のにじ」はんぺんた

 練乳百合マイスターに心揺さぶるストレートパンチを打たせるととんでもない破壊力を生み出す。こいつは某xivで開催された某なコンでも実証されている事実だ。イグBFC4で出してきた作品といい、着々と読者の情緒を破壊する作品を書き続けている。誰かコイツを止めろ!
 話としては、主人公(子供)がお母さんを置いていこうかどうするか迷っているところに、謎のおじさんが現れて夜の虹とか、主人公の考えていることの話とかをしてくれる。色々と都合が良すぎるような気がしなくもないが、こういう不思議なおじさんの昔話には人間の理性を麻痺させる特別な成分が含まれており、曝露した人間は心があたたかくなり涙腺がゆるむと言われている。実際そうなるのでこの作品はとりあえずで読んでいいと思う。
 こんなもんをぽんぽん打てるなら、レーベルカラーが合ってないだけで戦場を選べばやりたい放題だろって感じだ。情動操作のテクには目を見張るものがあるので、お涙を頂戴したくてもできないひとは特に見習うべきところがある。
 というわけで、この作品が本記事におけるベスト。オレみたいな一般人にはこういう作品で脳を直接殴って破壊するのが一番効果的ってことよ。
 こんな人とまた勝負しなくちゃいけないかもしれないと考えるとすでに震えている。困った世界だな。



 感想を書いてるだけなのに小説書きたくなってくる。
 それがこの感想紀行の真の効能なんだ。

 本記事は以上となります。
 お読みいただきましてありがとうございました。

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