63.偽造された契約書
※複数回に及ぶ撮影のことについては、なるべく正確に綴っていきたいとは思っていますが、記憶の混濁もあり読んでいて矛盾が生じるかもしれませんがご容赦いただけますと幸いです※
社長から仕事の日の往復新幹線のチケットが送られてきました。
帰りは遅くなるかもしれないと思ったので、両親には出張と偽って子どもを頼みました。
「毎日連絡されるのは束縛されてるみたいでイヤ」と付き合った当初から彼には言ってあり、毎日は連絡をとっていなかったので彼には黙っていました。
駅につくとタクシーを拾い、指定された場所へ向かいました。
そこには宣材写真撮影時のスタッフとは別な人がいました。
説明によると、何人かの営業が私の宣材写真を持ち動いており、仕事が決まればその仕事をとった営業がその撮影についてのマネージャーになるということでした。
ギャラの説明を受けた時、想像していたより高いなとは思いましたが高いことに異論があるわけはありません。
色々話をしながら歩いているうちに、撮影場所に着きました。
一見普通のマンションでした。
控え室と紙の貼られた一室で待機していると、ヘアメイクさんが来ました。
この時初めて私は、これは私の許容範囲の仕事ではないと気が付きました。
マネージャーに
「私、顔出しNGですよ」
と言いかけた時、大勢の男性がゾロゾロと控え室に入ってきました。
「監督の○○です、今日はよろしくお願いします」
と先頭の男性が言うと、
「カメラマンの××です」と次々と挨拶が続き、最後の「ADの△△です」までで総勢10人位はいたように思います。
その挨拶の最中にもヘアメイクさんはどんどん私を仕上げていきました。
時折監督が出入りして、色々とヘアメイクさんに自分のイメージと違うと思うところを手直しさせたりしていました。
ヘアメイクが済み、部屋にマネージャーと二人きりになった時
「私、顔出しNGです。監督ってなんですか?私、面談でちゃんと言いました。顔出しと絡みはNGって」
と勇気を振り絞って抗議しました。
するとマネージャーは
「そんな話は聞いてないよ。それに君、契約書にサインと押印したよね?」
と言いました。
やられた
と思いました。
私の許容範囲だけを載せた状態の契約書にサインと押印をさせた後で、顔出しOK、絡みOKとなるような内容を追加で記載したに違いありません。
だから契約書の控えを私に渡さなかったのでしょう。
こういうやり方をする業界だなんて思いもしなかった私は、いい年をして世間知らず過ぎました。
己の迂闊さと、自分が置かれている現状に文字通り目の前が真っ暗になりました。
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