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アクションゲーマーが見た対馬の大地:Ghost of Tsushimaレビュー

「刀」と「地」。

私はこのゲームに「アクション」を求めてプレイした。
時代劇ゲームだとか言われているが、時代劇に興味はないし、黒澤明監督の作品も一本しか観たことがない。日本語のはずなのに耳馴染みのない言葉回しは私の興味を削ぐし、剣戟も血が飛ばないし、あまり魅力を感じなかったからだ。

刀を用いたアクションゲーム自体は、そこまで珍しくはない。GOTYに輝いたSEKIROも記憶に新しく、Ghostrunnerの発売も控えている。
しかしどれも、刀が主軸にあるとは言い難く、純粋に刀を使った「チャンバラ」に飢えていた。

そんな中で登場した本作は、どこまでも「刀」に重きを置いてアクションを繰り出すことができる。
戦闘を有利に進めることができる、“くない”等はあるものの、要所の1 vs 1の戦いはそのようなアイテムは一切使えず、刀でのみ、戦うことが許されている。刀=己の腕前のみで戦うゲーム画面になったときは「これだよこれ!」と声に出すほど興奮した。

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私は、アクションを軸としたゲームの中で、有利にすすめることのできるアイテムはあっても良いと思うが、それを引いたとしても素晴らしいアクションがあることが大切だと思っている。それらのアイテムが雑念となって、軸となるアクション体験を損なうようなことがあってはならない。
立ち回りと剣術を主軸にした1 vs 1は、シンプルながら本当に楽しい。
敵の防御を崩して斬りつける感覚はもちろん、タイミングよく防御や回避をするとスロー演出が入り、「今の上手かったな」という意識を与えてくれる。良いプレイの分、それを増幅してくれる演出として、地味ながらよく作用している。

また、刀体験を支える重要な要素として挙げられるのが、血の散り方だ。
血というのは、プレイヤーが攻撃を当てた証であり、それが美しく、綺麗に散るというのはとても気持ちが良い。綿密な処理がなされているのではないだろうか。
スクリーンショットを観てもらえばわかるだろう。

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1 vs 1は楽しいが、蒙古の拠点解放などでは、やはり多対一の戦いを強いられる。その中で、弓や"くない"といったサブ武器は非常に頼りになり、確かな存在感を持っている。
多勢に無勢の中、目をくらまし、燃やし、毒で蹂躙する様は、まさにGHOSTである。
ただ種類が多いために、切り替えが若干複雑で、使いたいときに上手く出せるようなデザインになっているとは言い難いのが難点だ。どちらかというと、自分のプレイスタイルを定めて使っていくような使い方を想定しているのかもしれない。


このゲームを語る上でやはり外せないのが、風光明媚な対馬の大地だ。
どこに行っても自然を感じることができる。
ヘッドホンをつけて草原に佇んでいるだけで、心が落ち着く。
紅葉と雪模様があったりと、季節感としてリアリティはないが、マップを3つに上手く区切ることで、それを感じさせないうまい作りになっている。
また、それらを馬で駆けるのが絶品だ。風ノ旅ビトのようにスルスルと、蹄の音を鳴らして駆ける時間は、とても気持ちが良い。雰囲気ゲーとしての側面も持っていると言えよう。
無駄なマップの表記などはゲーム画面には置かず、ナビゲーションも風が赴く方向へ向かうという、世界観を損なわない演出も、対馬体験の没頭に一役買っている。
また、温泉や和歌、狐の巣といったアクティビティも、格段面白いわけではないが、対馬を冒険する中での、良いアクセントになっている。

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オープンワールドを用いたレベル設計は、拠点制圧やお使いを主軸にした単調で、「Assassin's Creed」の初期作品に見られる、伝統的な文法に沿ったものだ。正直、少し古臭く感じてしまう。ただ、シンプルなインターフェイスと共に、雑味のないゲームプレイを生み出しているとも言える。

その中で展開される物語は、かなり良い完成度を持っている。
肩で風を切って歩く武士から、闇に忍ぶ冥人へ変わっていく境井仁の生き様は、王道ながら共感できるもので、特に序盤の「武士の誉れ」を感じさせる厳かな演出らは、観ていて飽きることはないし、冥人として目覚めてからも、人の生き死にや師との違いを上手く感じさせてくれた。「The Last of us Part2」や「Detroit Became Human」には及ばないものの、表情の表現も良い。
ただ、冥人としてではなく、武として対馬を守りたかったという気持ちがある。同スタジオのinFAMOUSのようなマルチエンドにして欲しかった。


白状すると、発売前は「勘違い日本」なゲームになることを予想していた。蓋を開けてみたら日本をよく知った上で、対馬を舞台したファンタジーを作り上げてくれたことが大いに嬉しい。
オープンワールドとしての古めかしさは感じるものの、雰囲気を楽しむ時間と、良質なアクションを楽しむ時間が物語と共に上手く組み合わさって、良い体験であった。


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