AIに負けないレポート課題の出し方
はじめに:オープンAIが与えている衝撃は大学教員にも
ChatGPTというオープンAIによるチャットが、尋ねたことに対して人間顔負けの回答をしてくるということで、話題になっています。
私も試しに、物価高騰対策について尋ねてみました。
どうも「複雑」とか「複数」とか返してくるのが定番みたいですね…大学生が「いろいろあります」とかレポートなどに書いてくるのと、似ています…。
それはさておき、ここまで人間の書く文章と似てきて、不自然ではなく、また、内容も的外れではなくなってきているとなると、大学でのレポート課題で、学生が不正利用することが心配になってきます。
いや、この程度の内容では、及第点をつけることは出来ないから、まだまだ大丈夫。という意見もありそうですが、問題はそこにありません。
悠長に構えていられない理由
その理由は第1に、そうこう悠長なことを言っているうちに、どんどんAIが発展していく可能性があることです。
そもそもChatGPTも、急に人間に近いほどの回答ができるようになったそうで、しかもその理由は製作者側でもきちんと把握できていない、のだとか。
だから「まともな」レポート課題の回答をAIによってつくる事ができるようになるのは、今後あっという間かもしれません。
そしてこのことは、先の「大丈夫」が的はずれな理由の第2につながります。それは、AIで書かれたレポートを学生が提出してきても、「不正」だと見抜けなくなる可能性が今後高いことです。
著作権のある著作物を、大量に、あるいは引用とわからない形で引用した場合、それは盗作であり、著作権法違反になります。成績評価物にそれが行われていた場合、大学ではそうした盗用行為は「剽窃」(ひょうせつ)という言い方で、不正行為とみなしています。この剽窃を見抜けなくなる可能性が、チャットAIが進化すればするほど、今後高くなるのです。
そもそも今でも、ネット上の文章・記事・論文等からコピペして、作成されたレポートを学生が提出してくる可能性は少なくありません。それに対しては、「剽窃防止チェックツール」といって、ネット上の文章や、その他の著作物から盗用されているかどうかをチェックするクラウドやアプリケーションが存在しています。
剽窃防止チェックツールには無料のものも、有料のものもあります。いくつかを比較しているネット記事もありますね。ちなみに私が使っている、というか、大学で導入しているものは、有料のturnitin(ターニットイン)です。
しかしこうした剽窃防止チェックツールも、AIで生成された文章までは現在、追うことが出来ないと思います。いつか対応してくれることを祈りますが、いつになるかはわからない。こういう技術はイタチごっこでもありますね。
では、どうしようか…
とりあえず、オープンAIが使用される可能性が排除できないが、それを見抜くことは難しくなっている現状において、不正レポートを見逃さないにはどうしたらよいのでしょう。
実は私はそれほど心配はしておりません。それは、私がレポート課題を授業で全く出していないから、ということではありません。むしろ、担当するほとんどの授業ではレポート課題を課して、評価項目の重要部分としているくらいです。
心配していない理由は、私のレポート課題の「出し方」が、(現時点での)オープンAIの回答のコピペでは対応できないものにしているからです。つまり、オープンAIを使った不正レポートを見逃さない努力をするのではなく、最初からオープンAIを使っても(直接的には)書き上げられないレポートの課題を出しておけばよいのでは、と思うのです。
もちろん今まではオープンAIなど驚異ではなかったわけですから、その対策のために行っていたわけではありません。そうではないけれど、今までにも、剽窃のチェックはそれなりに大変でした。自分で見抜こうと思ったら、怪しい文章をそのままググって確認してみたり…といちいちしなければならないこともありました。その対策に悩んでいた経緯もあり、剽窃では書けない(剽窃がすぐわかる)レポート課題の出し方をあれこれ試していたのもあります。
しかしそれ以上に、そもそも、授業の目的を達成できるレポート課題の出し方とはどのようなものであるか、本質的なところで考えてきた結果ということでもあります。
AIに負けないレポート課題の出し方
では具体的にどのようなレポート課題の出し方であれば、オープンAIを使った回答の防止ができるのでしょうか。私が行っているレポート課題の出し方を以下にご紹介いたします。
それらの基本思想を一言で言えば、「受講者のAI利用可能性を織り込んだうえで、評価したい学力・能力を適切に測れるよう、入り口(レポート課題の設定)のところで適切に設計しておく」ということになります。
1.必ず引用箇所と、引用元・出典を明示させる
まず、対策の1番目として、レポートには必ず引用箇所と、引用元・出典を明示させることがあげられます。
引用の表記というのは、低学年の大学生が苦しむ(下手をすると高学年でも、卒論のときも)点です。しかし、学術的な文章を書く(アカデミック・ライティング)うえでは、非常に重要な点でもあります。
なかなか、適切な引用の表記ができない。それを練習させるために、私が出すレポート課題では多くの場合、必ず本文中に引用箇所を明示させ、図表は出典を明記させ、引用元は参考文献一覧として書かせています。
今のオープンAIはそもそも「剽窃」から成り立っている文章なわけで、そうすると出典を明示することはできません。学術的文章の基本ルールを習得するために、この決まりをレポート作成に設けていたのですが、従来からの剽窃防止のためだけでなく、とりあえずは今のオープンAI利用も防ぐことになるのではないかと思います。
2. 意見には必ず根拠を書かせる
対策の2番目です。私は学生がレポートにおいて意見を書くときには、必ず根拠を書かせるようにしています。これも、AI対策にもなっていると思われます。いま現在のChatGPTは、根拠なくふわっとしたことしかアウトプットしないので、それってどういう根拠で言えるのかを書いていなければアウト、あるいは減点にする対応方法です。
これももともと、剽窃対策でもありつつ、学術的な文章としては基本中の基本のルールなので、トレーニングで設けていたルールです。そして、低学年の大学生にはなかなかできないことでもありますね。これもまた。
「根拠」とは、既存データなどの資料、先行研究の調査分析結果などになります。個人的エピソードでも許される場合はありますが、それはあくまで導入的な部分に限り、そのレポートの根幹となる主張がそれである場合は、ちょっと弱い根拠となることが多いですね。
ただ、学問分野や、レポート課題の内容にもよると思うので、根拠資料は様々な種類が想定されてしかるべきだと思います。
3. 使用する資料を指定・限定する
3番目に、提出するレポートで使用する資料をあらかじめ指定してしまったり、限定する、というのもAIを使っては答えられなくする手です。
たとえば架空の課題として考えると、次のような感じ。
要はこれも、対策の2との関連していて、根拠を元にして書けるかどうかについて、学生のアカデミック・ライティング・スキルを確認するものになります。また、参考文献を授業で用いた資料・関連資料に限定することで、授業の内容を理解しているかも、同時にチェックすることも目的となります。
良質な資料を自分で探したり、選ぶことがまだ難しい学生に、あらかじめこちらで資料を指定してしまうことで、その手間を省いたり、良質な資料がどのようなものか理解をしてもらう、という意図もあります。
レポート課題の規定字数を少なく課す場合は、厳密に引用明記をさせることが難しく(字数が増えてしまう)なります。そうした場合に、引用明記をさせずとも、ネット記事コピペを見抜くことが容易になるというメリットもあります。これも、AI対応へと応用ができるかと。
あとがき
まあこれらの対策も、ひょっとしたら今後、オープンAIは超えてくるのかもしれません。なので、上記の対策も、暫定的なものに過ぎません。「オッケー〇〇、出典と引用元を明確にさせた文章で、△△について3千字で論じて!」と言えば、あっという間にレポートが完成する未来が…!?しかしその頃には、オープンAI対策で、剽窃防止チェックツールも追いついていることを、期待します。
しかし、そうなったら、もう、私も論文を書かなくていいかもな。少なくとも、先行研究のレビューとかは、支援ツールができそうだなあと思っています。それもあと5年ぐらいで。先行研究芸人としては、つらいところ。
AIが進化すると単純労働がほとんど無くなるのでは、と言われていますが、私は頭脳労働のほうが先になくなる気がしますね。イラストAIがかなりの衝撃であったように。
「AIに負けないレポート課題の出し方 その2」に続きます!
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