書籍:宗教の本性

こんにちは。
3人娘を育てている、ベンチャー企業のCTOです。


宗教の本性

佐々木閑さんの著書、「宗教の本性」を拝読しました。

著者について

佐々木閑さんは、仏教学者であり、仏教系大学の花園大学で教授をされています。
仏教に関連した書籍を多数出版されている他、NHK100分de名著の仏教経典をテーマとした回にもご出演されています。

佐々木さんの書籍は、難解な仏教関連書籍の中でも、非常に読みやすい内容となっている印象があります。

本書について

本書は、サピエンス全史(ユヴァル・ノア・ハラリ著)の内容を引用しながら、「宗教は何か」について解説している書籍です。

宗教全般を俯瞰して見やすい内容となっており、宗教について学ぶ際の入門としてオススメできます。

宗教を理解するには、客観と主観の二つの視点が必要です。

客観的な視点として、宗教の種類ごとに大まかな歴史や背景をなぞっていきます。
そして、主観的な視点として「死」と向き合うエピソードを紹介してくださっています。

それらを通じて、宗教への理解を深めていくことが出来ます。

本書では、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教といった一神教、そして仏教など、古代・中世から存在している宗教を主に扱っています。

今回、客観的な視点としての、歴史的背景をピックアップして紹介いたします。

人類の歴史

統一へと向かう

サピエンス全史にて、「人類の歴史は統一に向かう傾向を持っていて、違いを乗り越えて一つになろうとするベクトルが働いている」と、ハラリさんは述べています。

元々、ホモ・サピエンスは部族や血族といった小さな集団に別れて暮らしていました。
その後、その集団は領土争いを経て、統合され、拡大していき、やがて国家という大きな集団となっています。

そして現在では、国家という形を維持しながら、経済的・政治的に繋がりを持っているグローバルな社会となっています。

過去においても、現在に追いても、様々な社会的な分断はあります。
それでも、大きな流れとしては、人類は統一の方向へ向かってきたと言えます。

ハラリさんは、この統一への流れの中で重要な役割を担った要素として、「貨幣」「帝国」「宗教」を挙げました。

※「貨幣」と「帝国」については割愛します。

統一への宗教の寄与

ここでの「宗教」は、キリスト教、イスラム教、仏教といった、グローバルでの広がりを見せた宗教を指しています。

人々は、共通の神や、普遍的な秩序を、多くの人たちの間で共有しました。
そして同じ宗教を信じた人々は、見知らぬ人同士であっても、互いに協力できるようになります。

そして、宗教における秩序は、「神が作った秩序だから正しい」といったような、絶対的・超人間的な正当性を持ちます。
これは世俗で運用されているルールに比べて、強固に働きます。

虚構を作り信じる力

「貨幣」「帝国」「宗教」のいずれも、虚構です。
いずれも、人々が信じていることで成立していますが、共通の認識が失われた途端に消滅します。

貨幣の価値は、日々、変化しています。
帝国の国境線は、戦争を経て変わります。

宗教においても、古代ローマは元々は多神教でしたが、キリスト教がローマにおいて国教化された以降、キリスト教一色となりました。
それまで、キリスト教徒はローマにおいて迫害されていたにも関わらず。

これらは間違いなく虚構ではありますが、この虚構を信じた者たち同士で協力関係が生じ、集団行動が可能となります。

ホモ・サピエンスは、いつからか、この虚構を信じる力を獲得しました。
これを「認知革命」と呼びます。

宗教の歴史

ハラリさんは、「宗教は、超人間的な秩序の信奉に基づく、人間の規範と価値観の制度」であると、サピエンス全史の中で述べました。

これは、いわゆる「神」の存在がないものであっても、「超人間的な秩序」があるものを宗教と言うことができます。

その上で、古代から発生してきた宗教の歴史を見ていきます。

※なお、発祥が古いもの=遅れたもの・劣ったものというコトではない。

アニミズム・トーテミズム

もともと宗教の歴史は、狩猟採集をしている部族の小集団が、自然界の動植物を「神」として崇めるところからスタートしました。

野生動物のパワーに対して畏敬の念を持ち、神とします。
漫画「ゴールデンカムイ」では、アイヌの人々がヒグマを神とみなしている様子が描かれます。

狩猟生活の中では、狩猟対象の動物を仕留めることもあれば、逆に襲われて命を落とすこともあります。
力関係の中では、上下の無い、同等の権利と力を持っている関係性と言えます。

多神教

やがて、狩猟採集から農耕に生活スタイルが変わると、それにあわせて人間の信仰対象も変わります。

農耕民は、動植物を所有し、支配し、操作します。
アニミズムの中では、人と動物は同列であったのに対し、農耕社会の中での動物は支配対象として格下げされました。

そして、人間は、人間がコントロールできない力を神とみなすようになります。
より具体的には、太陽、月、雨、などの自然現象や気候が、神として崇められます。

そして、それらの神の中にもヒエラルキーが存在し、最高神が置かれるようになります。

日本神話、ギリシア神話、インド神話などでも、自然現象を模した神々がいて、さらにその中に最高神が存在しています。

一神教

多神教の時代の中で、やがて「我々が信じる神こそが唯一絶対で、かつ、自分たちだけを救ってくれる」という、唯一神と選民思想を併せ持った一神教、ユダヤ教が誕生します。

そして、ユダヤ教からキリスト教が派生します。
キリスト教は教義の内容として、選民思想的ではなく、救済対象を広げているという属性もあり、世界的宗教として広がっていきます。

二元論宗教

古代ペルシアでは、二元論宗教と呼ばれるゾロアスター教が誕生しました。

これは「善と悪」や「光と闇」といった相反する二つの概念がせめぎ合う世界観を持ちます。

善の神が優勢のときは、人間社会には良いことが起き、悪の神が優勢のときは、人間社会に悪いことが起きるといった関係性を持ちます。

一神教の世界観においては、「全知全能の神がいながらなぜ争いや飢饉が亡くならないのか」といった「悪の問題」が知られています。
二元論宗教は、この問題に対する一つの解であるとも言えます。

一方、二元論宗教においては、「この世界の秩序や法則を執行しているのは誰か」という「秩序の問題」に対しては、一神教ほどの強力さは持ち合わせていません。

法則を信じる宗教

神を持たない宗教も、世界中に存在します。
それらは、「自然法則を信奉する宗教」といえるものでもあります。

中国で誕生した儒教や道教がこれにあたります。
初期仏教も、超常的な存在が登場しないことから、法則を信じる宗教の代表となります。

※日本における大乗仏教の一派、浄土真宗などでは、阿弥陀如来が神のような存在として登場するため、初期仏教とは大きく異なります。

イデオロギー

ハラリさんは、イデオロギーを信奉することも、一種の宗教であると見なしています。
例えば、資本主義や共産主義も、法則に対する信奉があるため、宗教と呼べるとしています。


本書では、ここまでのような客観的な情報を提示した後、主観的な視点、特に「死」に関する話を踏まえて、宗教についてより深く考えていきます。

日本では宗教教育が行われていないことと、カルトや新興宗教が起こした社会問題に注目があつまることが相まって、宗教そのものを忌避する傾向があるそうです。

実際、私も宗教についての知識が乏しく、20歳を超えたころから少しずつ世界宗教の学習を始めた程度でしかありません。

しかしながら、グローバル化が進むにつれ、多様なバックグランドを持つ人と関わり合いを持つ機会は増えていきます。
その際に、宗教に対する理解を深めておくことは、重要なことに思えます。

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