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ハッピー・焼肉・バースデー

先日、Bさんのお誕生日だった。

出会ってからもうすぐ1年、ほぼ毎日会うようになってからは5ヶ月ぐらい。この期間を通じて分かってきたのだが、彼はイベントに関してかなり無頓着である。自分のも他人のも。
「お祝いしたがり」な私は、Bさんのテンションのままお誕生日が流れていってしまうことを危惧し、3週間ほど前から
「お誕生日なに食べたい?」
「お寿司?せっかくやから高級なとこ行く?」
「どこ行きたい?」
と毎日のように畳みかけ(怖い)、お誕生日はいつもと違うところで食事をしよう!アピールをしていた。
私がこの話題を出すたびに
「お寿司なー。お寿司かー」
と、気持ちが乗ってるのか乗ってないのか分からない返事をしていたBさんだが、1週間前くらいにようやく
「あ!あそこ行ってみたいかも」
と、具体的な店名が出てきた。
そこは焼肉店だった。Bさんも行ったことがないそうだが、地元では少し有名なお店らしい。
「焼肉ね!わかった!」
やっとBさんの希望を聞けたことに満足して、私は翌日早速予約を取った。

「お誕生日、19時に焼肉予約したから」
と言うと、Bさんも数日前から楽しみにしてくれていて、この日ちゃんと帰れるように仕事の調整などをしてくれている様子だった。

当日の朝、目を覚ましてすぐBさんのほっぺたにキスを浴びせ、「お誕生日おめでとう」と伝える。
いつも私がこうやってキスを連打すると「うわ、出た!チュッチュ攻撃」と言われるのだが、そう言いつつ満更でもなさそうなので懲りずにやっている。きょうはそのお誕生日バージョン。

夜、二人とも定時で仕事を終え、Bさんの車で一緒にお店へ。
まずはビールと塩タン。
きょうは私がホストなので、焼くのも私である。

「え、うまい!!!」
一口食べて、Bさんが歓声をあげた。
「何これ!めっちゃうまいやん!」
たしかに、お肉が新鮮で柔らかく、脂が甘くてすごく美味しい。
塩タンに始まって、タン刺し、ハツ刺し、ハラミ、塩カルビ、ミスジ、ホルモン盛り合わせ、薄切りロースを焼いて生卵につけて食べるやつ。それからチャプチェとたまごスープ。
全部とても美味しかった。
どれを食べても、Bさんが
「やばい。うますぎる!!」
「こんなの食べ慣れたら、ほかの焼肉たべれんくなる!!」
「いくらでも食える!!」
と、中学生男子ぐらいのテンションでばくばく食べてくれるので嬉しい。おごり甲斐がありすぎる。
最初にビールを飲み、そのあとはハイボールをチェイサーにして赤ワインを飲んだ。ふだんワインを飲まないBさんだが、
「お肉にはワインが合うなー」
と美味しそうに飲んでいてそれも嬉しかった。

最後に、ずっと気になっていた「シャトーブリアン」を食べることにした。100グラム4,400円、このお店のメニューの中では群を抜いて高級なお値段。
注文してほどなく、分厚いステーキのような美しいお肉(よく見ると食べやすいサイズにカットされている)が運ばれてくる。
どの面にもごく軽く焼き色がついたところで、
「このくらいでいけるかな。食べてみて」
と一切れをBさんの皿に入れた。
塩とわさびで一口食べたBさんが叫ぶ。
「あ、このくらいがベスト!!ほかのお肉ももう引き上げて!!!」

レアに焼いたシャトーブリアン、ほんとうに美味しかった…。すでにかなりお腹いっぱいだったけれど、脂があっさりしているからぺろりと食べられてしまった。

食べ終わって吐息をついたBさん、
「これは…おまえの誕生日は、◯◯連れていかなあかんやん」
と呟く。
◯◯は地元にある星付きの有名イタリアンで、高いというよりも予約が取りにくいため私が行きたい行きたいと連呼しているお店である。

「ほんま!?楽しみやな」
と私が言うと、Bさんはその場でスマホを出し、お店に電話をかけ始めた。
「もしもし。9月◯日なんですけど、2名で予約できます?…あ、そうなんですね。じゃあ8月◯日にまたかけたらいいですかね。はーい」
電話を切り、
「1ヶ月前からじゃないと予約できへんらしいわ。いま8月◯日のタスクに入れたけど、もし取れんかったらごめんな」
と言う。

電話してくれたこともだけど、9月まで一緒にいて私の誕生日を祝ってくれるつもりなんだ、ということが単純に嬉しかった。

私がお会計して、代行でBさんの家に帰る。
珍しく、お腹いっぱいすぎてもうお酒も飲めない状態だったので、アイスを食べながらなんとなくTVを見た。

私はBさんの誕生日プレゼントに迷っていた。

少し前まで「スーツを買ってあげる」「ほんま?やったー」などというやり取りをしていたのだが、数日前に私が「スーツいつ買いに行く?」と言ったら、Bさんが
「いや、スーツはいいわ。焼肉連れてってくれるんやったらそれで十分やわ。っていうか、そんなにしてもらったら俺、おまえの誕生日に何したらいいん!?ってなるから怖い(笑)」
と言ったのである。
Bさんを怖がらせるのもアレなので素直に引き下がったが、だからといって何も渡さないのでは私の気が済まない。
しかしBさんはあまり物欲があるタイプではないし、半端なものを渡しても使ってくれなさそうだ。
服は趣味に合わなかったら困るし、食器や生活用品はちょっと相手に介入しすぎる感じがする。

悩みに悩んだ結果「場所を取らない、あってもまず困らないもの」として、ポロラルフローレンの熊ちゃんがついたボクサーパンツとタオルハンカチを選んだ。熊ちゃんの可愛らしさも相まってなんだか親戚のおばさんからの入学祝いみたいなセレクトになってしまったが、Bさんはポロ好きだし、ちょっと良いパンツって自分では買わないし邪魔にもならないだろう。

…というような言い訳をしつつ、アイスを食べながらプレゼントを渡した。

「え、ポロのパンツなんてあるん!?知らんかった。ハンカチもアイロンいらんから最高やん!かわいいし」
と喜んでもらえて、とりあえず一安心。
「ありがとうな。俺はほんまにこういうの選べへんから、おまえのときは一緒に行こう」
と言われて、また嬉しかった。

大したことはできなかったけど、私のお祝いしたい気持ちは伝わったと思う。たぶん。

翌朝、目を覚ましてまた「チュッチュ攻撃」を仕掛けたら、Bさんがお返しにキスしてくれた。

特別な日も、そうじゃない日も、こんなふうにささやかに積み重ねていけたらいい。


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