東方小説「雰囲気と文脈を味わう短編」十選

なんで「東方小説おすすめ」で出てくるのが殆ど長いのなんですか(拗ね顔)


概要

昨日のnoteで「短編もいいぞ」と言ったので、併せて最近のおすすめ短編の紹介などをしてみます。そのついでに、各作品に含まれている短編らしい要素とか、或いはそこにある文脈だとか、そういったものにも考えを軽く馳せてみたり。

作品は全て東方創想話より。1作者につき1作品で、全てここ一年の間(2019年以降)に投稿されたものです。10KB(5000字)未満のもののみ対象です。
それと、ちょこちょこ微妙にネタバレがありますのでご了承ください。短編をネタバレなしに紹介するのは難しいのです……。


それでは、どうぞ。


[同じこと]作者:こしょ

http://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/225/1567572740

投稿:19/09/04 サイズ:6.54KB

多々良小傘がいろんなひとを驚かそうとする短編です。小傘の可愛らしさと彼女の周りのひとびとの生き生きとした姿がとても魅力的な作品です。

小傘の「驚きを食べる」設定と「傘」のイメージから話を膨らませ、そこに早苗の「外の一般人であった」過去と、幽香の「強者らしい」性格、そして魔理沙の「収集癖」と「泥棒」の文脈を絡めるその構成は、非常に短編らしい短編と呼んで良いでしょう。


[*の腹の中] 作者:東風谷アオイ

http://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/227/1577552795

投稿:19/12/29 サイズ:7.75KB

「ねぇ、妖精って、どんな味がすると思う?」というメリーの言葉から始まる、古寂れたレストランでの不思議な食事の一幕を描いた短編です。奇妙で異常で綺麗な情景から目が離せなくなるような、ぞっとする味わいの魅力的な作品です。

秘封俱楽部の魅力の一つには、奇譚的な文脈との強い親和性が挙げられるでしょう。本作もその奇譚文脈を用いた作品であると考えられます。
「秘封俱楽部の二人がカフェやレストランで益体もない話をする」という、秘封の正道のフォーマットにも則っており、様々な意味で「秘封の文脈」を踏襲した「秘封らしい短編」であると呼べるでしょう。


[此処にひこうきぐもは無い] 作者:ヘンプ

http://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/227/1581256880

投稿:20/02/09 サイズ:6.28KB

幻想郷の空にひとつ、違和感を感じた早苗さんの短編です。彼女の瞳に、そして脳裏に映った情景のとても美しい、心洗われる作品です。

外で暮らして「いた」東風谷早苗と、外で暮らして「いる」宇佐見菫子。
対比的な関係の二人は、原作でこそ交流がほぼないとはいえ、そこに関係性の文脈を感じるひとは決して少なくないでしょう。そういった幻覚的な文脈を利用するのも、また二次創作の醍醐味であると思うのです。


[くたかちゃんと紅楼夢を破滅と追いやらんとした台風] 作者:封筒おとした

http://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/226/1570723598

投稿:19/10/11 サイズ:3.13KB

仕事したくない久侘歌ちゃんと吹き荒れる台風のコメディ短編です。3KBに笑いと喜びと無念の詰まったたいへん愉快な作品です。

庭渡久侘歌とその周りのひとびとに含まれた文脈もさることながら、本作を際立たせているのはやはり「時事ネタ」であると言っていいでしょう。
大阪最大の東方オンリーこと紅楼夢が台風に愛されていることは相応に周知の事実ですが、それでもやはり紅楼夢の直前、丁度台風が来た頃に合わせてこういった軽快な時事ネタを投げ込むというその手法は、まさに一発ネタの正道と呼べるのではないでしょうか。


[おくうのあい] 作者:イヤハート

http://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/226/1572184495

投稿:19/10/27 サイズ:7.78KB

「愛されさとりん」「みんななかよし地霊殿」との概要の裏にぶちまけられるあまりに不穏なシーンの数々。思わず悲鳴まで漏れかかるような恐ろしさの溢れる見事な作品です。

文脈というものは、ときに逆張りにも用いられます。その場合、多くの作品では初めに「文脈に沿っていそうな話」を持ってきて、そこから一気に「文脈と相反する話」を展開する手法が用いられることが多いです。
今作でも、「地霊殿組の面々は仲が良い」という文脈を「さとりとお空の中の良いシーン」によって幻視させ、そこから真逆のシーンを展開しているわけですから、上記の手法を用いていることがよく分かりますね。


[リップ・サービス・モンスター] 作者:灯眼

http://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/227/1575976753

投稿:19/12/10 サイズ:7.88KB

レミリアが様々な知人友人と言葉を交わす短編です。レミリアの多面的な魅力がぎっしりと詰まった素晴らしい作品です。

[おくうのあい]と同じく、文脈を逆張りに用いた作品です。最初のシーンで「狂気に呑まれたフランと苦悩する姉」という定型を示しつつ、直後にそれをロールプレイであると明かして文脈から外れたわけですね。そこからレミリアの様々な側面を矢継ぎ早に示していくことで、彼女の持っている文脈が実に多岐へと渡っていることを表現しているこの作品は、ある種のメタ視点を取り入れた非常に興味深い作品であると言えるでしょう。


[Never say twice] 作者:ひとなつ

http://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/223/1555165879

投稿:19/04/13 サイズ: 6.14KB

春の神社にて、霊夢と魔理沙の和やかな一幕を描いた短編です。二人の軽口の生き生きとした様子に甘々な関係性、そして圧倒的な美しい描写。どこを切りとってみても見事な、素晴らしい作品です。

この作品は文脈的には非常にシンプルです。宴会好きな幻想郷の人妖どもの性質と、他にはレイマリの関係性だけですから。そしてそんな風に味付けを絞りに絞ったからこそ、この作品はこの味わいであるのでしょうし、そしてこの長さが最も丁度いいのでしょう。


[雨中を泳ぐ魚] 作者:レッドウッド

http://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/224/1561208736

投稿:19/06/22 サイズ:6.56KB

霖之助がナズーリン相手にいつもの与太話を披露するだけの短編です。打てば響くような掛け合いと非常に香霖堂らしい与太話的な考察の楽しい、大変に良い作品です。

原作の文脈もさることながら、本作の特色はやはり「必然性」でしょう。
子、丑、寅に、そして辰。およそ作中の殆どの要素にきっちり必然性を埋め込むことで、決して何かを加えることも引くこともできない洗練された作品を作る、という手法がこの作品には用いられています。こういった高度な仕掛けというのは、なかなか長編には用いることができませんから、これもまた非常に短編らしい短編と言えるでしょう。


[Midnight with the stars and You] 作者:ピュゼロ

http://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/225/1570562990

投稿:19/10/09 サイズ:8.91KB

美鈴とフランドールのお喋りの、ほんの一幕を切り取った短編です。美鈴ののんびりした様とフランドールのちょっと乱暴な様が上手く噛み合っていてとても素敵な雰囲気を生んでいる作品です。

短編というものは往々にして「物語がない、雰囲気しかない」と文句を言われることがあるのですが、けれどもむしろ、それもひとつの短編の良さだと思うのですね。「彼女の日常の様子がもっと読みたい」「彼女が彼と話しているシーンを想像したい」えとせとら。そういった願望からまず二次創作というものは始まったわけなのですから、その原始的で純粋な思いの詰まった作品というのも、決して悪いものではないのです。


[昨日死んだ私へ、明日生まれる私へ] 作者:モブ

http://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/226/1572963211

投稿:19/11/05 サイズ:5.88KB

眠りと覚醒、死と再生。眠ることを恐れていた早苗の、美しくて、けれどもちょっぴり怖い、夜と朝の小噺です。

物語と呼ぶにはちょっと断片的が過ぎるような、そういったシーンを繋ぎ合わせて一つのテーマを描くというこの手法は、規模を変えて長編においても用いられるものです。そういう意味ではこの作品は少し短編らしくないといえるのかもしれませんが、それでもこのテーマを美しく弛みなく描くには、この長さしかないのでしょう。そういう意味ではこの作品も、正しく短編的であるのだと思われます。


終わりに

お気に入りの小説の話をすると、得てしてそこでは長編、しかも5年以上も前のものについての話題が中心となるように思います。実際に、「東方 小説 おすすめ」などと検索すると、ここ2-3年の短編の話題などというものは数えるほどしか出てきません。
決してそれは悪いことではないでしょう。昔から残ってきた名作というのはそれだけ埋もれる可能性を回避してきたという事実を背中に負っています。長編の方が語られる余地が広いというのもまた一つの観点でしょう。けれどだからといって、最近の短編が詰まらないわけでは決してないのです。漁っているひとが少ないだけで、そこには素敵な作品が数多く埋もれているのです。
このブログを読んで、幾らかのひとが、最近の短編の作者さんにも興味を持ってもらえたらなあと思っています。



――ここから宣伝――

というわけで、筆者の書いた短編も二本ほど紹介しておきます。

http://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/225/1567090064

こちらなんだかんだで初の2000点を達成させて頂きました。
読んで頂きありがとうございます。

http://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/226/1573007428

こちら比較的新しいこいフラ短編です。
自信作なので読んで頂けると嬉しいです。


それでは。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?