私の見た目と、いろんな人生と、最高のレモンケーキ

待ちに待った美容院の日だ。顔にはしっかりメイクを施して髪はすっぴんのままハットをかぶって家を出た。じわじわ照りつける太陽とむわっと湿度を含む空気で一瞬にして汗が背中を滴り落ちた。

電車に小一時間揺られ、目的の駅に辿り着き、私はサロンへ走った。

担当美容師さんは完全プライベートサロンを運営していて、一対一で対応してくれる。私が19歳のころからお世話になっている、絶大な信頼をおける人。

好きな人がショートが好きなんだってと相談してロングだった髪をバッサリ短くしてもらって、就活では髪を黒くしてもらって、妊娠中も子育て中もずっと髪を切ってもらって、アパレル店員時代にはブリーチして金髪にもしてもらった。その間いろんなことをお互い話して、私の人生をまるまる10年間見てきてくれている人だ。

「先月末、離婚しちゃいました」
「おー、まじかぁ、そっかぁ〜」

職業柄、お客様としていろんな、本当に多様な女性と接してきた美容師さんが「いやぁ〜、30年も生きてりゃそんなこともあるよなぁ〜」と受け止めてくれたことで、なんだかほっとした。


私の髪は無事、イメージ通りの明るい茶色に染まり、伸び切った襟足は生え癖を考慮しながらすっきりと整えられ、前髪は眉毛の少し上におさまった。

嬉しくなってプライベートのInstagramに写真を載せたら何個かハートがついて嬉しかった。

ここ数日は、朝起きて鏡を見るたびにテンションが下がっていた。髪の毛がボサボサでどう頑張ってもキマらなかったからだ。

私は自分自身のために自分の身なりを自分なりに納得いく形に整えるのが好きだ。
回りくどい書き方をしてしまったが、つまるところメイクやファッションが好きで自分なりのこだわりがあり、その一環としてヘアスタイルもかなり重要であると考えている。

凝ったヘアアレンジは不器用なためできないが、少なくとも根元が黒くなっていたり、だらしなく伸ばしっぱなしになったりしている状態は耐え難い。

見た目を整えることは私にとって生きる力になる。
納得できる程度の見た目に自分が整っていると、鏡を見て「よし今日も頑張ろう」と思えるし、リモート会議中の画面を見て「大丈夫、自信を持って話そう」と思えるからだ。

これまでは2ヶ月に一回に控えていた美容院の予約を、今回から1.5ヶ月に一回に増やすことにした。

次回はヘッドスパも予約した。
これできっと、次の予約まで私は頑張れる。
こうやって楽しみを少し先に作りながら、どうにかこうにか日々を乗り越えてゆくのだ。


せっかく美容院にも行ってこんなにいいお天気で、そのまま家に帰るのは寂しいと思っていたら友人が会ってくれることになった。

代々木上原の「BOLT」というカフェへ行った。
お昼を抜いていたので、生ハムとクリームチーズのホットサンドを頼んだ。やさしいクリームチーズと生ハムの塩気が絶妙で、とても美味しかった。お目当てのレモンケーキは想像以上に私の好みですっぱいグレーズに頬が緩み、ホットチャイは温かく体内に染み込んだ。

友人とは、お互いの近況から始まり、家族や親戚の話やら、人生の話やら、トラウマの話やら、色々と脈絡なく語り合った。

「わかるよ」「そんなこともあるよな」そんなふうに相槌を打ってもらえるだけでずいぶん楽になるものだなと思った。

友人の話もまた面白く、いろんな人生があるなぁ、いろんな人がいるなぁ、私も私でいいのだろうなぁ、と思った。

またレモンケーキが食べたい。

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