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ポジドラ思考 - デザインや広告のコンテストで優勝したときにやっていたポジティブにドライな13のこと

はじめまして。デザイナーの迫 健太郎(サコケン)です。福岡出身の33歳、1児のパパです。普段は家電メーカーで働いています。専門はアイデア発想、プロダクト(製品)デザイン、広告クリエイティブの3本柱で「考える→作る→伝える」の一連のフローを得意としています。最近は一橋大学や京都芸術大学、母校の九州大学、宣伝会議などでもクリエイティブに関する講演の機会をいただいています。

いきなり結論:ポジティブにドライ=ポジドラになろう

今回のnoteの結論ですが、僕がデザインや広告のコンテスト(以下コンペ)で結果を出すために特に大事だと思っているのは、コンペに取り組む中で「ちょっぴりドライに見えるけど、チームとして成果を出すためにはやらなきゃいけないことを、ポジティブに実践する」です。こうしたやり方を「ポジティブにドライ」(以下ポジドラ思考)と勝手に呼んでいます。何だか新しいドラゴンみたいだな…ということでサムネイル画像はドラゴンにしました。(Adobe Fireflyで生成したもので、僕のイラストではありません)

このnoteでは、これまであまり言語化されていなかった(と思う)ポジドラ思考について、自身の100回以上のコンペの応募と約20回の受賞経験をベースに編み出した内容を整理し、主にコンペのビギナーのみなさまに向けてまとめたものです。全部で13個あり、①コンペ選び篇、②チーム編成篇、③アイデア出し篇、④仕上げ篇の4章構成になっています。有志活動のコンペだけでなく、普段の会社での仕事に活かせる内容もあるかもしれません。言わずもがな、こうしたメソッドは人によって適正や賛否あることは承知の上で、ひとつの例として刺激を受けてもらえると幸いです。


ちょっとだけ自己紹介

そもそもお前誰やねん…という方も多いと思います。本業は会社でインハウスデザイナーをやりつつ、個人活動でデザインコンテスト(以下コンペ)に応募を10年ほど続けていて、業界で規模の大きそうなものだと、販促コンペ グランプリ東京ミッドタウンアワード グランプリコクヨデザインアワードシヤチハタ・ニュープロダクト・デザイン・コンペティションなどでチームとして入賞や優勝(グランプリ)の経験があります。もしこの中でどれか「お、挑戦したいと思っていた!」というものがあれば、このnoteが役に立つかもしれません。(それ以外の受賞歴についても下にリストを載せています)

「黄金比箱」東京ミッドタウンアワード 2018 デザイン部門 グランプリ
共同制作者:広川楽馬・中塩屋祥平
「オセリポ!」第14回 販促会議企画コンペティション グランプリ
共同制作者:松沢洋祐・久松葵

【これまでの受賞歴】※会社業務での受賞は除いています
京都デザイン賞 2023 / 大賞(グランプリ)&京都新聞賞 ダブル受賞
京都デザイン賞 2022 / 京都市長賞&京の和文具賞 ダブル受賞
第14回 販促会議企画コンペティション / グランプリ
第4回 香十 香皿デザインコンテスト2021 / 優秀賞
第19回 奈良新聞 クリエイティブ・アド キャッチコピー部門 / 最優秀作品
第7回 医美同源デザインアワード / 優秀賞
京都デザイン賞 2021 / 入選
14th シヤチハタ・ニュープロダクト・デザイン・コンペティション / 審査員賞
第12回 奈良新聞 クリエイティブ・アド キャッチコピー部門 / 最優秀作品
Metro Ad Creative Award 2020 / デザイン部門 審査員特別賞
h concept DESIGN COMPETITION 2020 / 審査員特別賞
京都デザイン賞 2019 / 京の和文具賞
富山デザインコンペティション 2019 / 佳作
東京ミッドタウンアワード 2018 / デザイン部門 グランプリ
Plastic Design & Story Award 2018 / 入選
HAPTIC DESIGN AWARD 2016 / アイデア部門 最優秀賞
コクヨデザインアワード 2012 / 優秀賞

タップすると各コンテストの公式サイトに飛んで応募&受賞した内容が見られます

早いもので社会人デザイナーも10年目になりそうなこのタイミングで、自身のスキルの新陳代謝も兼ねて、これまでに積み上げたノウハウを整理して言語化するためにnoteで筆を取ることにしました。また、僕も学生や新入社員の頃に先輩方の編み出したノウハウを本やネットでありがたく学ばせてもらったように、せっかくなので自分より若いクリエイターの方々の刺激になればと思って公開しています。

なお、今回は「具体的なアイデアやデザインの発想法」には触れていません。(応募するコンペによって発想法は大きくは変わってくるので、今回はさまざまなコンペに応用できそうな普遍的な内容に絞っています)よって、既に実力のある方にとっては基本的で物足りない内容かもしれません。一方で学生さんやコンペ初心者の方には何かのきっかけを掴むヒント集になるようにしたためた記事となっていますので、ぜひ読んでいただければと思います。それではどうぞ、お楽しみください!


【ポジドラ思考 第1章:コンペ選び篇】

(1)応募は10回を1クールと捉えて臨む

マインドセットの話。よくあるのは、最初の1回か2回は熱心にコンペに取り組んでいたけど、すぐに結果が出ないので諦めてしまうパターン。そうではなく、コンペは運の要素が多いので複数回チャレンジの長期戦を前提としましょう。ドラマが約10話で1クールのように、コンペも10回の応募を最小単位と考えて長期戦を想定して取り組むとよいです。そして10回の応募の中で、少しずつ取り組み方を軌道修正していきましょう。1回や2回の落選で一喜一憂するような取り組み方はおすすめできません。

やはりコンペは審査員や主催者や世の中のトレンドとの相性もあるし、そもそも受賞できる枠が狭いもの。1,000点の応募に対して受賞は多くて10点とか。惜しくも11番目に評価された提案も、きっとかなりレベルが高くて魅力的な内容だと思いますが、容赦なく落選になってしまいます。自分がギリギリで落ちたかどうかは教えてもらえない場合がほとんどです。

結局は商店街のガラポンと似ていて、チャレンジする回数が増えると当たる可能性が高まります。1回や2回の応募で結果が出ることは、ほとんどないと思って取り組むようにしています。もちろん初回の応募でグランプリ!みたいなすごい人は時々いますが、なかなか狙ってできるものではありません。

もちろん120%の力で全身全霊で取り組むことも大事なのですが、その1回で燃え尽きてしまってはもったいない。であれば90%の力で10回の応募を無理なく継続できる体制の方が、トータルでの成功率は高まるのではないかと考えています。これは決して手を抜くということではなく「長期戦を見据えた中で最高のパフォーマンスを発揮しよう」ということです。僕も学生時代や社会人になりたての頃は毎回のコンペを120%でやっていましたが、やはり体力や気持ちが続きませんし、ストイックにやりすぎたことでチームが不穏な空気に包まれたことも何度かあります。

これまで100回以上の応募を続けてこれたのは、長期戦を前提とした無理のない取り組み方に数年前からシフトしたからだと思いますし、それ以降の方が受賞する確率は高くなっています。(時間と共にスキルが習熟してきたという要因もあると思います)

(2)コンペ作業期間は土日に予定を入れない

時間の捻出の話。デザインやクリエイティブに関わる仕事をしていると、展示会に行ったり美術館に行ったり、インプット活動が趣味の人もいると思います。

何の捻りもないメソッドですが、僕はコンペをやる時期は土日にほとんど予定を意図的に入れません。飲み会とか気になる展示会も、心を鬼にして断つ。特に社会人になると平日はなかなかコンペの作業に時間が割けません。そもそも日中フルタイムで働いた後だと、頭も疲れています。やはり土日にまとまった時間を確保することが重要です。細切れの時間ではなかなか思考を深めにくいこともあります。

もちろん土日のどちらか1日だけでもよいのですが、やはり「日をまたぐと思考が整理されていいアイデアを思いつく」ということが結構あるので2日連続がベストです。土曜日にアイデアを考えて、日曜日にざっくり模型やビジュアルを描いてみる…といった時間の使い方もおすすめです。

自分のスケジュール帳の土日に入っている予定は、本当に自分が参加しないといけないものか?と見直してもいいかもしれません。

(3)過去受賞作を見て共感できるコンペを選ぶ

コンペ選びの話。賞金が高いとか好きなデザイナーさんが審査員をやっているとかコンペを選ぶ理由は色々あると思いますし、それも素敵な選び方だと思います。僕が選ぶ基準のひとつは、過去受賞作を見て「なるほど!素敵!」と思えるかどうか。つまり「自分の中でGOODだと感じるものとコンペ側(審査員)がGOODだと評価したものが一致してるか」を大事にしています。そうじゃないと応募するアイデアを適切に選べないし、ここがズレているといつまで経っても受賞できないからです。コンペによってアートっぽいものが評価されたり、大喜利っぽいものが評価されたり、一見すると地味なんだけど機能的に役に立つものが評価されたりと個性があります。

一方で、「なぜこのデザインが受賞なんだ…?」と感じるコンペにあえて取り組んで攻略を試みる…という上級者向けのストイックな楽しみ方もあるのですが、最初は素直に自分の選球眼と一致するコンペから始めるとよいです。

(4)審査員が交代した時を狙う

コンペ選びの話。過去に何度か挑戦して落選したコンペを「自分とは相性が悪いな….」とそのまま諦めたことはないですか?過去に何度かトライしてダメで諦めていたコンペでも審査員が変われば、僕は「別のコンペに生まれ変わった!チャンス!」と捉えて再チャレンジするようにしています。審査員が変われば選ばれるアイデアやデザインも変化します。もちろんそのコンペが築いてきた方向性も継承されると思うのですが、やはり選ぶ人が変わるというのは大きな変化です。

実際に2018年にミッドタウンアワードでグランプリをいただいた時は、審査員が新しい方々に変わった最初の年でした。それまでに何度か応募していましたがすべて落選で、少し諦め気味でした。そしてミッドタウンアワードも今年から審査員がまた新しいメンバーに変わったので、きっと選ばれる作品のテイストも少し進化していくと思います。(それも楽しみだったりしますよね)審査員だけでなく、テーマの方向性が大きく変わったりした年も狙い目だと思います。また、僕が2012年に受賞したコクヨデザインアワードも、10年以上前の当時と今とでは結構選ばれる作品の雰囲気が変わったなという印象です。


【ポジドラ思考 第2章:チーム編成篇】

(5)チームは3人で組む

チーム編成の話。スキルがあって慣れている人は1人でもよいと思いますが、1人だと発想が煮詰まった時にブレイクスルーしにくいのと、すべてのデザイン作業を1人でやり切らないといけないので応募点数を増やしにくいことがあります。

2人もコンパクトで悪くないですが、アイデアの方向性で揉めた時に収束しにくい恐れがあります。長年一緒にやってきて、きちんと議論や合意形成ができる関係性だったり、最初から明確に意思決定者が決まったりしていれば2人でも問題ないです。

4人以上だとスケジュール調整が急にしにくくなるのと、仕上げフェーズに入ると誰か1人が手持ち無沙汰になりやすくなります。あとスキル的な役割が被ってきやすいので、作業分担がしにくくなります。あと若干せこい視点ですが、4人以上で受賞すると貢献度や手柄も分散して見えるので、就職活動などで受賞歴をアピールしても、自分の貢献度を証明しにくいな…と個人的には考えています。

さまざまな人数でのチーム編成を試してきた結果、僕としては3人があらゆる面でバランスがよい数だと思いますし、僕も多くの場合は3人のチームで取り組むようにしています。遊戯王で言えばゲート・ガーディアンですね。

もちろん人によってやりやすい人数は変わると思います。1人で黙々とやりたい人や、大人数でワイワイやる方がパワーが出るチームもあるはず。なので「自分は何人チームが合うのだろうか?」という視点で、コンペの度にあえて人数を変えて挑戦してみるとよいです。

(6) 「とりあえず同級生や同期と組む」はやめる

チーム編成の話。これだけ読むと友達が少ない嫌なやつになってしまうのですが、とりあえず同級生や同期に声をかけてチームを組む人は多いと思います。お互いにキャリアのステージも似ていて、コンペの受賞を通して一旗あげたい!という目的も合致しやすいです。

ここで大事なのは「AかBか、どちらが最適か確信が持てないような究極の判断をしないといけない時に、誰が決めるか?」という視点と、「その決定に、他のメンバーは心から納得してくれるか?」という視点です。同級生や同期の場合だと、元からフラットな関係ゆえに、大胆な判断がしにくいことがあると考えています。(お互いの友人としての人間関係を気にするあまり、中途半端な折衷案に着地させてしまったことも)

また、みなさんが声をかける or かけられる同級生や同期はある意味でライバルでありスキルやパワーバランスが拮抗していると思うので、「それは面白くないな」とか「それダサいよ」といった耳の痛い意見を、お互いが素直に聞き入れられないこともあるのではないかなと個人的には思います。(そこを乗り越えていく醍醐味もありますが、短期決戦のコンペだとチームが破綻する要因にもなります)

これまで同級生や同期と組んでいた人には、後輩か先輩と組むやり方も一度おすすめします。後輩と組む場合は自分がリーダーを率先して務める。先輩と組む場合は先輩にリーダーの役割を託すとよいです。もし、「全員が社長」の会社があったら意思決定が大変なことになるように、最初からパワーバランスに差があるメンバー編成の方が、限られた時間の中でチームが上手く機能すると思います。

また、後輩や先輩と組むことで適度な緊張が生まれます。後輩は「先輩と組んでいるからちゃんとやらないと!」と思えるし、先輩は「後輩にえらそうに指示している手前、ちゃんと自分も頑張らないと!」と思いやすいです。

こんなことを言いながらも僕は仲のいい同級生とコンペに出すことも多いので言動不一致なのですが…お互いのスキルや性格を分かり合っている深い関係性であれば同級生や同期でもよいチームが生まれると思います。

(7)言葉づくりが得意な人をチームに入れる

チーム編成の話。広告系のコンペだと最初からコピーライターがいる場合が多いのでこれは当てはまりませんが、プロダクト(製品)系のコンペでたまに感じるのは「製品そのもののアイデアやデザインは素敵なのに、ネーミングとか説明文がちょっと分かりにくいな…」というパターンがあります。そりゃプロダクトデザイナーはコピーライターではないので、仕方ないとも言えます。

ネーミングや説明文を書くのが得意な人がいると、同じアイデアやデザインでも通過率は大きく変わると思います。僕もコンペの際はネーミングや説明文は、アイデアを考えるのと同じくらい時間をかけて練り込みます。なのでプロダクト(製品)系のコンペであっても、コピーライターのメンバーを入れると大きなメリットがあると思います。また、多くのコンペでは1次審査は現物ではなくA3サイズのパネル(平面)審査なので、言葉による伝達は大きく評価に影響を与えるはずです。

そしてここ数年の傾向ですが、プロダクト(製品)デザイン系のコンペに広告代理店の方々の入賞が増えてきた印象です。(ただ、一方でアイデアとしては面白いけどプロダクトデザインとしての完成度が高まっていない点を審査員に指摘されているケースも時々あるので、どちらも必要なスキルだと思います)

(8)チームの解散条件を決めておく

チーム編成の話。みなさん既にチームを組まれているかもしれませんが、そのチームに「解散条件」はありますか?「何て冷たい話を…」と思われるかもしれませんが、わりと大事なポイントです。何も言わなくても本気で取り組む空気感が出せるチームなら特に定めなくてもいいのですが、多くのチームでは「何となく結成」されて始まることも多いと思います。しかし、その解散についてまで最初から決めることはあまりないと思います。

当たり前の話ですが、誰かと新たにチームを組む時は「初回から本気でやる」ことが大事です。初回で受賞していい結果が出ると「このチームで次もやろう!」とポジティブな流れが生まれます。成功体験がないチームは、なかなかモチベーションを継続させることが難しいです。もちろん初回じゃなくて「応募3回」とか「結成1年以内」でもいいのですが、期限を設定するとよいです。高校3年生で臨む高校野球の予選じゃないですが、「今回でダメならもう俺たち最後だね…」という前提は、そのチームをよりいっそう真剣にさせます。

僕も色々な人とチームを組ませてもらいましたが「一定の期間で結果が出ない=チームとして相乗効果が出ていない」ということで、発展的に解散することもありました。(これはどちらかが力不足とかそういう話ではなく、相性や時の運の問題なので仕方ない側面があります)もちろん時間が経って再結成!みたいなこともよくあります。要は惰性でそのチームを継続せず、解散条件を決めておく。その1回の応募にきちんとチームとして真摯に取り組むマインドセットを全員と共有することが大事です。

こう書くと「あれ?長期戦で10回で1クールと捉えよ…の話と矛盾しない?」と思う人もいるかもしれません。要は10回は続けるつもりでいながらも、毎回きちんと結果を狙いにいく!というバランス感覚が大事だと考えています。


【ポジドラ思考 第3章:アイデア出し篇】

(9)アイデア出しは過去の自分とも壁打ちする

アイデア出しの話。これまでに皆さんも大なり小なり、アイデアをたくさん出してきたと思います。それらをきちんと記録・保管していますか?「10回の応募で1クール」の話にも通ずるのですが「Aのコンペの時に考えていて当時はボツにしたアイデアが、実はBのコンペに使えそうだ」ということはよくあります。なので10回のコンペをひと続きのものだと捉えて、過去に出したアイデアはすぐに参照できるようにアーカイブしておくとよいです。たとえその時はしょうもないと思うようなメモ書きでも、コンペが変われば何かの役にきっと立ちます。

僕はアーカイブしやすいように、どんなコンペでも同じサイズの付箋(75mm×50mm)を使ってアイデアを出し、A4ファイルで整理して2,000案くらいのアイデア(のかけら)をストックしています。このサイズだと、A4の紙1枚にちょうど付箋が10枚貼れるので、数をカウントしやすいので気に入っています。(最近はオンラインで打ち合わせをすることが増えたので、Miroのようなデジタルツールで発想することも増えました)

そしてアイデアに煮詰まった時は、その付箋たちをパラパラ眺めて、過去の自分と壁打ちするようにして新しいアイデアを考えるようにしています。遊戯王で言えば闇遊戯ですね。自分でも忘れたような変なアイデアもたくさんあります。学生時代(10年以上前)に書いたボロボロの付箋に助けられたことも何度かあります。もちろん他の人に壁打ちの相手になってもらうことも有効ですが、いつも誰かがそばにいるわけではないと思います。

あと気持ちの問題ですが「過去に自分が書いたアイデア」を参考にするのと、「ネットで検索した他の誰かのアイデア」を参考にするのとでは、その後の制作のモチベーションが変わってくる気がしています。(後者はどことなく「人のアイデアを真似したかも」という感覚を覚えてしまう)

(10)いきなりチームで集合してアイデアを出さない

アイデア出しの話。3人のチームを想定した方法です。「手ぶらの3人がいきなり集まってゼロからブレストしてアイデアを出す」のではなく「1人ずつが個別に考えたアイデアを3人で持ち寄って、そのアイデアを進化させるためにブレストする」やり方がおすすめです。

この方法だと「今回の迫の持ってきたアイデアはしょぼいな…もっと頑張れよ!」とか「お!今日の迫のアイデアは面白いな…負けてられん!」とチーム内でお互いを刺激し合うことができます。このよい緊張感を作ることが大事。僕の場合は毎回アイデア(のかけら)を20案ずつを3人が持ち寄ってテーブルの上に60案を並べ、それを見ながら3人でブレストすることが多いです。やはり優れたアイデアは、最初は誰か個人の頭の中から飛び出てくると思いますし、その最初のゼロイチを生み出した人は称賛に値します。

似た例として「1人で応募しているんだけど、同じコンペに出している人同士で途中経過を見せ合ってアドバイスし合う」というやり方があると思いますが、個人的にはおすすめしません。やはりお互いにライバルですし、似たようなことをお互いに考えていた時に揉める要因になります。


【ポジドラ思考 第4章:仕上げ篇】

(11)アイデア選びは誰かの個人的な判断で決める

アイデアの選び方の話。選び方に困ったら多数決で…ということもあるかと思いますが、おすすめできません。僕の基本ルールは、応募できる数に制限のないコンペの場合は「誰か1人でも”これは応募したい”と言ったものはチームで賛成した案として仕上げて応募する」としています。3人全員が評価するアイデアは優等生的で平凡なことが多いような印象です。

たった1人の個人的な感覚であっても「これは面白い!刺さる!」と思えるものは尖っている可能性が高く、ひょっとして審査員も同じように感じるかもしれません。(なので結果的に応募数が増えて作業が大変になりやすいのですが…)

(12)コンペが開催されたウラ事情を想像して案を選ぶ

アイデアの選び方の話。アイデアを選ぶ時に「面白いか」や「実際に人が動くか」みたいな視点は大事だと思います。もうひとつ大事な視点は、主催者側(お客さん)の視点です。僕はコンペを主催したことはないので一律でこうだとは言えませんが、メーカーが主催するコンペはわりと「何かの形で自社から商品化できるかどうか」がとても大事な基準になると思っています。(いや当たり前ですやん…と思われるかもですが結構この視点がコンペ初心者だと抜けていると思います)

基本的にデザインコンペは慈善事業ではないはずです。たくさんお金をかけて有名なクリエイターの先生に審査員になってもらって、たくさん広告を出して案を集めたけど、受賞したアイデアはちょっとSNSでバズっただけで、そのあとは何も事業に発展しませんでした…だと企業の活動として困っちゃいますよね。(受賞する数が10点だとしたら2点か3点は受賞内容の多様性を考慮して、「商品化は難しいけど面白いアイデア」も選ばれることはあると思います)

一方で主催がメーカーではないとか、メーカーであっても商品化がマストではなさそうなコンペでも他の目的が必ずあるはずです。適当なノリでコンペは開催されません。繰り返しますがデザインコンペは慈善事業ではないのです。主催する企業のブランディングに繋げたいとか、優秀な人材と繋がりたいとか、特定の地域を活性化したいとか、何かの活動を社会に周知したい…とか。コンペはどれも募集要項には「幅広い発想のデザインを募集します」とざっくりと書かれることが多いですが、その向こう側にある目的は少しずつ違います。主催者は今どんな状況なのか。儲かってるのか、そうじゃないのか。コンペは、なぜ今年も開催されるのか。なぜ、このテーマで募集しているのか。自分が主催側の社長だったら、どんな提案が集まれば嬉しいのか。逆にどんな提案は嬉しくないのか。(あまり傾向と対策に走るのはクリエイターとしてどうなんだという視点もありつつ)

これだ!という正解は導けませんが、アイデアを出したり選んだりする前に、そうした分析や議論をチーム内でするとよいです。ちなみに僕はコンペを開催する主催側のWebを探索して、プロジェクトの報告書や公開されている記事を読んで、コンペの狙いをリサーチすることがあります。

また、僕は普段は家電メーカーで働いているので「もし自分の会社でコンペを開催した場合、どんな提案が集まると嬉しいだろう?」とか「集まったアイデアを、コンペの事務局や担当者はどうやって社長に報告するんだろう?」と妄想することもあります。どんなにクリエイティブ的には斬新なアイデアやデザインでも、主催側の立場になると、さまざまな事情で採用できないものが存在するかもしれない…という視点を持って、応募するアイデアやデザインをブラッシュアップしています。

(13)アイデアの発案者にパネルや企画書の仕上げをさせない

アイデアをビジュアライズして仕上げる時の話。プロダクト(製品)系のコンペでは大きく分類すると①コピーライティング(ネーミングやコンセプト文章)と②プロダクトデザイン(CG)と③レイアウト(グラフィック)の作業になります。広告系も似たようなところはあると思います。3人のチームで、それぞれ得意なところは互いに手を貸しあって仕上げていくと思いますが、少しポイントがあります。

それは「アイデアの発案者から、あえて企画書やプレゼンテーションを作る作業を一時的に奪い、他のメンバーの手に委ねてみる」ということです。発案者がそのまま最後まで仕上げるケースも多いと思うのですが、アイデアの発案者はそのアイデアを冷静に見ることができなくなってしまうので、どんどん内容が複雑になる傾向があります。(これは僕でもそうなってしまいます)そのアイデアにそこまで思い入れのない冷静な人がチームにいることで、内容がシンプル化されて、強いものになると思います。

もちろん最終的な表現の方法などについてアイデアの発案者とディスカッションして合意していくことは必須ですが、フラットな目線で見た時に「ちゃんと魅力的に伝わるか」という点は、発案者にはなかなか担保できないことがあります。やはり自分の考えたアイデア(我が子)は、どんなにブサイクな状態でもかわいく見えてしまうもの。でも審査するのは親(発案者)ではなく、他人である審査員なのです。いい意味でそのアイデアに執着していないメンバーの冷静な視点を、効果的に取り入れましょう。

販促コンペでグランプリをいただいた時は、メンバーのAさんが企画の元ネタ(オセロの技の打ち方を宣伝する屋外広告キャンペーン)を考え、その元ネタを迫が実況アプリに路線変更して企画書の骨子をまとめ、企画書の細かいストーリーやネーミングをBさんが仕上げる…というバトンパス方式で仕上げました。3人の手を等しく渡っていったことで、最初の元ネタから大きく進化した例だと思います。

アイデア出しは個人戦で。アイデアを発展させたり、仕上げるのは団体戦で。この個人戦と団体戦のハイブリッドをとても大事にしています。


おわりに:最後にもうひとつ大事なこと

今回のnoteでお届けしたかった13のポジドラ思考は以上です。共通して大事だと思うのは「それ面白くないよ」とか「それ分かりにくいよ」とか「それどこかで見たことあるよ」とか「それかっこよくないよ」と真剣に言ってくれる人をチームの中に作ることです。要は「スベってますよ…我々」ということに、いかに早く正確に気づけるかどうか。しかし、コンペは実にスベりやすい競技であり、落選してもその理由は教えてもらえないので、なかなかスベっていることに気づきにくいのです。

そこでチームメンバーではない第三者に見せてヒアリングする…という手もありますが、応募の主体者ではない以上は「本当の感想や耳の痛いアドバイス」はなかなかしてくれないものです。だいたいは「おおー!かっこいいじゃん!」とか「面白いね!頑張って!」と何となく褒められて終わってしまうもの。でもそれじゃ審査員に響く提案には仕上がらないのです。厳しくいきましょう。「通るといいな…」程度のものは、ほぼ確実に落ちます。自分のかわいいアイデアやデザインが裸の王様にならないように、世の中で恥をかかないように冷静に見極めてブラッシュアップしたり、時には大胆に切り捨てる(考え直す)ことも大事です。

そのためにはチーム内の空気をいい状態に保ちつつ、戦略的にポジティブにドライになれる瞬間を設けることが重要で、それがポジドラ思考の効能だと思います。

このnoteを読んでいただいたみなさんが、ひとつでも多くの素敵なアイデアやデザインを世に送り出し、納得のいくキャリアを築いていくことを願っています!もしよければ本noteについての感想をSNSに投稿するか、XのDMでいただければ光栄です。(ポジティブはもちろん、ネガティブも歓迎です!)次回のnoteを書く機会があれば、参考にさせていただきます。

最後に、このnoteは学生時代から今日までの10年以上の中でさまざまなコンペで一緒にチームを組んでいただいたメンバーのみなさまのおかげで成り立っています。受賞できたチームもそうでないチームもありますが、ひとつひとつのトライアルから得た貴重なナレッジがベースになっています。全員のお名前をあげることは叶いませんが、本当にありがとうございます!

「次回はこういうトピックで書いてほしい!」というご要望、アイデアやデザインにまつわるお仕事のご相談、メソッドに関する講義依頼、飲み会のお誘いなどのお問い合わせもXのDMでお待ちしております。(本業はフルタイムで会社員をやっている身分ですので、内容や時期によってはお応えできない場合があることをご容赦ください)

それでは、またどこかでお会いしましょう!

迫 健太郎

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