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汝、ジョージ・バランシンの唯一無二の傑作『セレナーデ』を見ずして生きることなかれ-----『セレナーデ』公演前日メモランダム

スターダンサーズ・バレエ団『セレナーデ』公演前日メモ
『緑のテーブル』と同時上演される巡り合わせ

(2022年3月25日記)

 2022年3月26日と27日、スターダンサーズ・バレエ団が「Dance Speaks」と銘打った公演を行い、バレエ団初演となるカィェターノ・ソト振付『マラサングレ』と共に、バランシン振付『セレナーデ』とクルト・ヨース振付『緑のテーブル』を上演する。ほぼ同時期に誕生した『セレナーデ』と『緑のテーブル』が一堂に会することに、感慨もひとしおだ。

 『緑のテーブル』は、奇しくも、ヒトラーに率いられたナチ党が選挙でドイツの第一政党に躍進した1932年7月に発表された、真っ向から反戦を掲げる作品である。
 振付者のクルト・ヨース(1901〜1979)は、翌33年、政権を獲得したナチの迫害を受け、同年、亡命を余儀なくされた。

 スターダンサーズ・バレエ団のこの公演から先立つこと1ヶ月、2022年2月24日に、バランシンの母国ロシアは、「ナチ化された」隣国ウクライナの「非ナチ化」という根拠のない理由を掲げて同国に侵攻した。
 90年の時を経て、『緑のテーブル』は、国際社会がウクライナ支持を表明ながら、未だ止める術を見出せずにいるロシア・ウクライナ戦争を映し出す作品として上演されることとなった。

 バランシンの父親メリトン・バランチワーゼの母国ジョージアもまたロシアと国境を接し、度重なる干渉を受けてきた国である。
 19世紀にロシア帝国に併合され、ロシア革命後はソビエトに侵攻され、ソビエト連邦に組み入れられた。ソビエト崩壊後に独立を取り戻すも、2008年にロシアはまたも根拠のない理由を掲げてジョージアに侵攻した。ジョージアは国土の約2割を失い、今日に至っている。

 ロシア・ウクライナ戦争の構図に、既視感をおぼえ、心を痛めているのはわたしだけではないだろう。
 「Dance Speaks」公演の開幕を間近に控え、ロシアとジョージアとナチとウクライナが一本の線で繋がる巡り合わせに、動揺を抑えられずにいる。

 『セレナーデ』と『緑のテーブル』は、果たして、わたしに、そしてこの公演を見た観客に何を語りかけるのだろうか。


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