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まだまだやる気なおばあちゃん

おばあちゃん、1人で東京に来る


数ヶ月前、70代後半のおばあちゃんが遠路はるばる東京にやってきた。田舎に住んでいて、飛行機も電車も最後に乗ったのがいつかというくらい、地元で生活している。

おばあちゃん、飛行機に1人で乗るのでも大変だったらしい。おかんには「このバスで行けば着くから」と指示されていたが、不安だったのでタクシーを使ったとか。

そして羽田に着くと、先に来ていたおかんと合流して慣れない電車を乗り継ぎ上野の美術館に行き、夜はお姉ちゃんちに泊まった。

次の日はみんなでハトバスのツアーに、さらに次の日は帝国劇場に歌舞伎を見に行った。

おじいちゃんが生きていた間はよく夫婦で旅行に行っていた。船の仕事をしていたこともあり、海が見えるところを中心にたくさんの観光地を巡っていた。

でも、おじいちゃんの体調が悪くなってからは一緒に行けなくなった。かといって1人で家事ができないおじいちゃんを置いていくこともできないからと、おばあちゃんはずっと旅行に行けないでいた。

それを乗り越えて、独り身になって初めての旅行。かなり遠くて大変だったが、地元にはないものばっかりで、私から見たおばあちゃんは、全てのものにびっくりしたり感心したりしっぱなしで、とにかく心が動いていた。


それなら、と私たちはおばあちゃんに「また東京おいでねー」と誘った。でも、「もう無理無理」って強めに断られた。もう歳やからとか足痛いとか飛行機難しいとか、色々言われたけどとにかくもう来たくはなさそうだった。

おばあちゃんにもっといろんな景色を、と思って呼んだけど、あんまりやったか。

おばあちゃんが帰った後も、不発に終わったことがちょっと残念だった。


でもまだまだやる気なおばあちゃん

数日経って、おかんと電話をした。その後のおばあちゃんの様子を聞くと、どうやらツアーで行ったところのパンフレットを見返したり、乗った電車の復習をしたりしているらしい。

電車の復習?

聞いた時ははてなが浮かんだ。電車の復習とは、初めて聞いた。覚えずとも乗り換え検索ですぐ調べる私たちにとっては不思議な行為だが、たしかに田舎のおばあちゃんにとっては頭に叩き込んでおかないといけないのかもしれない。

なにはともあれ、あれだけを否定していたのに、本当はもう一度来たいと思っていることは確かだった。

よかった、それに尽きる。いつか「これが最後の旅行かも」と思いながらおばあちゃんを連れる日が来ると思う。その時まで、そしてその後も根気よく新しい景色、テレビでしか見たことがなかった世界に連れて行こうと思う。

達者でな。おばあちゃん。

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