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【詩】なつかしいきもち

なつかしい
きもちが突然

いつもとおなじ部屋の中

汗にまみれる労働のさなか

集積場へゴミを運びながら

驚いたのは
初めてきみを抱いた夜にも

なつかしい
きもちが突然に
満ちたのだ

ずっと
まだまだずっとむかしから時々
急に湧き上がるあの
ぞくぞくするような
逆毛立つようなあの
幻触

悲しくはない
寂しくはない
嬉しくもなければ楽しくもない
だが

あの陽気で
騒々しくおぼつかない足取りと
爛れて動かぬ脳の端から全身へ

揺らめく視界を閉じて
そのまま幽閉されるかのごとく
ただそこにとどめておきたい気持ち

いつもの部屋ではじめてのきみを

いつもの部屋ではじめてのきみが

はじめて

私の胸を覆う   きみの
私の胸を掃き撫でるきみの髪が
これほどやわらかかったのかと
これほどあたたかかったのかと嬉しくて
いっそこのやわらかい髪が
いっそこのあたたかい髪が

狭く汚れたこの部屋を埋め尽くしてくれればいい

きみはうすく笑い寝返りをうった

はじめてのきみがなつかしく
終わったあとにもなつかしくなつかしく

ぬくいこの肌
凍えた昨日
鳩尾から腰の下を抜けて吹き抜ける
あの季節

またいつかまたいつか

しらぬ場所しらぬ人そして

なつかしいきもち

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