おれの星、どこだ

世の中には星の数ほど職業がある。
その職業に就くための道筋や経緯も、人間の数ほどある。
普通に生きていたら一生知らないような分野に、あらぬ角度から手を伸ばし、それで金を稼いでいるわけわからんすごい人間もいる。

昨日、母についてとあるツアーに参加した。コロナ後の地域振興をテーマにした、とある企業主催のもの。その企業が関わった製品を利用している施設や地域をまわり、その場所にまつわる歴史や産業を紐解く、みたいな内容。

企業主催とあれば、集まるのは間違いなくその企業や社長とある程度関わりのある大人ばかりだ。もちろん自己紹介の内容だって、自らの仕事やそのPR、社長との普段の関わり方などビジネスめいたものになってくる。
一介の休学中ニート私、母から「なんかお茶会やるみたいだから咲ちゃんも行こうね〜」としか聞いていなかったので(なんか他にも言ってたけど忘れた)、自己紹介の一人目が自らの経歴に触れた瞬間ビジネスめいた空気を悟り死ぬほど冷や汗をかいたものの、大学通ってた頃に勉強してたことを脚色しつつ、親のコネも最大限に借りて事なきを得た。

ちなみにお茶会は最後のほう、農家さんの小難しい経営戦略みたいな話を聞きながらおちょこ二杯くらいの感じで行われた。話違くないか。

他者が欲しがる要素を三つ持っていれば稀有な人間になれるらしい。
要は組み合わせだ。一つ一つは凡庸な要素でも、幾つかを見たことない混ぜ方にすれば、もしかしたら世界で一人になれるかもしれないってわけ。

昨日のツアーには、中学校の職業体験で来校するような「一般職」の大人はひとりも来ていなかった。母のまわりには元々そういう大人はいないのだ。なんつーか、コミュニティが違うんだろうな。医者の息子は医者の息子とばかり友達になるしかないみたいに。
幼い頃から母の気まぐれでちょっと癖のある仕事をしている大人たちにばかり引き合わされてきたので、私はあんまり「一般職」に就いている大人を知らない。
だから、世界にはこんなに沢山職業があるのに、わざわざ教科書やマイナビ(見たことないけど)に載るような職業に無理して就かなきゃいけない理由がなんだか見当たらないような気がしてしまう。探せてないだけっていうか。
父はサラリーマンだけど、会社に内緒でアマチュアのカメラマンをしているから例外だ。

「一つだけでのし上がれ」って言われたら心許ないようで苦しいけど、「三つ以上いいよ」って言われたらちょっと楽な気がする。
それらを存分に磨いていける、しこたま甘やかしてくれる環境があってよかった。

恵まれていることは、自分を卑下する材料ではない。だって人権は最初から幸せになるためにあるんだもの。

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