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賞味期限が切れないうちに

気持ちには賞味期限がある。

たいていのものはすぐに期限切れになってしまうので私たちはそれを残しておくのに急ぐ必要がある。


期限が切れてしまうときって、確かにそこにあるのはわかるのに、においや触感や色が感じ取れなくなってしまう感覚になってしまって寂しい。

鏡のマジックで宙に浮かびあがったリンゴを触ろうとするときのように、何の感触も得られなくなってしまう。

そしてそれを悔しいと思えないのが一番悲しくなる。なぜならそれがどんな感触をしていたか忘れちゃうんだから、自分にとって惜しいものだったかどうかさえ分からなくなっちゃうからね。


何も忘れたくなかった。

美しい、愛しいと思った出来事を自分の中にとどめておきたくて、逃がしたくなかった。

私が世界の中の「それ」を美しいと感じることを「それ」から赦されたということが、私を世界に繋ぎとめてくれたような気がした。

自分がこの世界で息をしているということを確かに感じたい。私が感じた「美しいこと」を一つ一つ記録して積み上げたい。それが私を確かな存在にしてくれそうな気がするから。今日も何も消えないうちに残しておかなければ。賞味期限が切れないうちに。

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