THE QUIET MANの感想・考察・残された謎(ネタバレ満載につき要注意)

 私は普段「TOPIC GAME」さんで【ゲームで勉強したいんです。】という時流を無視しまくったゲーム記事を書かせていただいていますが、この「THE QUIET MAN」に関してはそちらでは取りあげないため、どこかに書いておきたいと思いここに辿り着きました。

 かなりネタバレ満載の記事になりますので、少しでも興味があって未プレイのかたは、極力読まないようにお願いいたします。

※本記事は、本当に興味のあるかたにだけ読んでいただければよいと思っているところがあり、あえて記事を分けずに長々と書いております(約15000字)。ご了承ください。



●宣伝の仕方はあれでよかったのか?

 いきなり内容とは直接関係ないところから切りこみますが(笑)、私は正直宣伝の仕方に違和感を持ちました。(あ、THE QUIET MANがどんなゲームなのかは、ここまで読み進んでいるかたならすでに把握しているはずですので、説明しません)

 私が最初にこのゲームに興味を持ったのは「音のない1周目と、音のある2周目を体験できる」という触れこみがあったからでした。これがなければ、まず買わなかったと思います。そもそもアクションゲームが苦手ですし……。

 ですが、このゲームが実際に発売された際に、各ゲーム情報サイトに載った紹介文には、このことが一切載っていませんでした。そのため私は、自分が興味を持っていたゲームが果たしてこれだったのか、正確なタイトルを憶えていなかったため確信が持てず、公式サイトまで確認にいきました。

 ところが、公式サイトにも表立って書かれてはいませんでした。でも多分このゲームだったよなぁとしつこく丁寧に見ていったら、ようやく「DIRECTOR's LETTER」の項目で発見。しかも、「READ MORE」をクリックしたうえで、さらに「VOL.3」を選択する必要がありました。

 そこまでいくと、このゲームを紹介するときによく使われている、

言葉を捨てた一周目
言葉を宿した二周目

のくだりが出てきます。このゲームにおいてすごく大事なポイントであるにもかかわらず、です。

 おそらく製作者サイドとしては、音がついて2周目を遊べることよりも、1周目の音のないゲーム体験のほうに重きをおいていて、2周目はあくまでもおまけ的な扱いだったから、そうしたのかもしれません。

 しかしながら、ユーザーとしては台詞がないゲームを遊べるということよりも、そのあとでちゃんと答え合わせがあるということのほうが重要なのではないでしょうか? もし本当にこのゲームが1周目だけで終わる内容だったら、買わなかった人も多いのではないかと思います。(実際2周目が解禁されるまでの評価は、あまり芳しくありませんでした)

 ちなみに、発売されたあと実際にプレイした内容を紹介する「レビュー記事」では、どこのサイトでも約1週間後に音がつく無料アップデートがあることが書かれていました。というのも、1周目の最後にアップデートまでのカウントダウンが表示されるからですね。もしかしたら、それがなければどこも書かなかったかもしれません(笑)。

 レビューに書かれてたならええやん、と思われるかもしれませんが、レビューまで見るのはすでに興味を持っている人(買う気がある人)だと思います。発売情報を見るのはその前段階の人だと思うので、そこでしっかりアピールしておいたらよかったのにな、と勝手に思ったしだいです。

 また、アップデートの日時を最後まではっきりさせなかったのも、個人的には悪手だと思いました。どこを見ても「約1週間後」としか書かれていないのです。カウントダウンから逆算すればよかったのかもしれませんが(それを期待されていたのかもしれませんが)、正直プレイ後にそんな余裕はありませんでした。なにしろ、ストーリーがどういうことなのか頭のなかがハテナでいっぱいだったので(笑)。

 しかし、わからないことだらけだからこそ、早く2周目をやりたーいという気持ちが強く、いつアップデートされるのか知りたくて仕方ありませんでした。結局最後までわからなかったんですけどね……(笑)。

 公式のアップデート記念の生放送が8日に設定されていたので、確かに1週間後だし8日なんだろうなというのは察しましたが、時間まではわかりません。おそらく23時だった?ようで、アップデートが実際に実施されたあとであちこちから「アップデートしました!」という過去形の情報が出てきました。

 そのときの私の正直な気持ちを書くと、楽しみに待っていた人をバカにしてるのかな?とちょっとだけ思いました(笑)。ちゃんと事前発表をしなかった理由がわかりません。やはり最後に出るカウントダウンから逆算してほしかったのでしょうか? チャプター選択がないので、一度見逃してしまったら最初からやるしかないのですが……。

※この記事を書いてから知ったのですが、ただのムービー集みたいに見えるものが実はチャプター選択だったらしいです。わかんねーよ!(笑) これ以外にも、ネットで調べないと知りようのないものが多いので、その部分もどうにかしてほしかった……。

 というわけで、私はプレイする前から若干モヤっとしたものを抱えて2周目を始めました。これで面白くなかったら許さねーぞ的なノリです(笑)。それだけ本気で楽しもうとしていたのです。

●2周目に期待されていたこと

 2周目の話に入る前に、そもそも2周目にどんなことを期待していたのかを書いておこうと思います。前提として、私は普段ストーリーを考える仕事もしている人間ですので、ややつくり手目線であることをご理解いただければと思います。

 まず注目したいのは、やはりプロデューサーのお言葉でしょう。(前述のとおり、「DIRECTOR's LETTER」のところにあります)

物語は真の姿を現し
解けたはずの謎が根底から覆るかも知れません
「何もわかっていなかった」と

 ここに書かれているとおり、1周目の体験が2周目でひっくり返ることを、誰もが期待したと思います。もし私が同じ仕組みでストーリーをつくるとしても、同じことを考えたでしょう。

 もっと具体的に言うならば、1周目の最後にいかにも黒幕っぽく登場したアッシュは、実は黒幕じゃないのでは?とそこまで期待しました(笑)。(ある意味それは当たっていたような気もするのですが、詳しくは後述します)

 ところが、実際に2周目をプレイしてみると、残念ながらそこまでの衝撃はありませんでした。各キャラへの印象は確かにひっくり返ったのですが、多くの人が望んでいたのはストーリーのどんでん返しだったと思うんですよね。

 ララの誘拐事件が自作自演だった、というのは台詞が聞こえなければわかりえない部分だったので、確かに驚きはしたのですが、残念ながらその部分は物語が始まるきっかけにすぎません。それよりも、多くのプレイヤーが置いてけぼりにされたと思われるラストをひっくり返してほしかった!(笑)

 結局のところ、2周目の効果は「各キャラの立ち位置が判明した」「それによって黒幕の動機が理解できた」のふたつで、多くの人が抱いたであろう期待値には届かなかったことが、低評価の一因になっていると思います。

●ストーリーよりも問題視されている部分

 またまたちょっとだけ脇道に逸れますが(笑)、一応こちらにも触れておこうと思います。私自身はストーリー以外は評価の対象にするつもりがないというか、グラフィックは別に荒くてもいいと思っているし、前述のとおりアクションゲームが苦手なので評価する権利などないと思っています。

 そんな私でも、ララのCGは酷いと思いました(笑)。ララを迎えに行ったシーンで、完全に別人だと思っていましたが、どうやらみんなそうらしいですね……。あまりにも似ても似つかないのと、どう見てもジャケットがダサいのが気になって仕方ありませんでした。

 また、戦闘に関してもやっぱり酷いとは思います。カメラが変な位置で固定されていることもあり、非常に戦いづらかったです。基本的に乱戦ですしね。ただ、コツさえ掴めばスルッといけるのは助かりました。1周目は何回も死にましたが、コツを習得した2周目はテイ戦で1回死んだだけでいけましたので。

 この2点が、ストーリーよりも先によく槍玉にあげられるポイントですが、私的には許容範囲です。ちょっと酷いことを言うと、ストーリー以外は最初からあまり興味がなかったので(笑)。そもそも私はこのゲームをアドベンチャーだと思っていて、友人に「戦闘が難しいらしいけど大丈夫?」と心配されてから初めてアクションゲームだと知ったクチなんです。おそらく少数派ですね(笑)。

●1周目から予想したこと

 かなり外れていた私の予想を、まずは見てほしいと思います(笑)。

 いちばん大きく外れていたのは、ララについてのことでした。物語の序盤ではデインの姉だと思っていたんです。母にしては若すぎるかと思って(笑)。しかし、デインが死んだあとに出てくる映像が、どう見ても赤ちゃんデインをあやしているふうだったので、途中でやっぱり母親かな、と思いなおしました。

 つまりですね、ララがデインの回想に出てくる人物と別人だとは思っていなかったのです。別人と気づいたのは、2周目のアプデを待っているときに何気なく「CREDIT」を見たからでした。ララのところにもうひとり名前が載っていたので、そこでようやく一人二役に気づいたのです。

 ではなぜ同じ人物だと思っていたかというと、理由はいくつかあります。いちばん大きな理由はもちろん、顔が同じだからですが(笑)。

 デインの回想のなかの母・ロレインは、揉みあったテイとアイザックに撃たれて倒れます。多くのプレイヤーはそこでいったん彼女は死んだと思うわけですが、その後なぜかパッと目を開けるんですよね。それを見た私は、ガチで蘇ったのだと思ったのです(笑)。でなかったらあんな演出しないのではないかと。

 また、終盤テイに撃たれたアッシュも、同じように目を見開いて、その後デインの前に登場しました。まったく同じ演出だったので、なおさらロレインが生きている=ララになっていると思ったのです。

 ですが、普通の人間がそう簡単に蘇るわけがありません。そこで私は、ロレインが死んだあとに何者かが意識を乗っ取ったのではないかと考えました。終盤のアッシュも、同じ者に意識を乗っ取られたからデインを襲ったのではないかと。クワイエットマンの仮面は、その存在を示しているのではないか?

 というふうに、このストーリーをもっと超常的な内容に捉えていたのですね。実際にデインが変身しちゃっているわけですし(笑)、そう考えてもあまり違和感はありませんでした。

 ところが、2周目を見てびっくり。ララはあたりまえにロレインとは別人ですし、私が同一人物説を考えるきっかけになったロレインが目を見開くシーンも、なにを表現しているシーンなのか意味がわかりませんでした。

 おそらくあれは、私と同じような勘違いをさせるために挿入された演出で、実際には起こっていないことなんじゃないかなぁ、と思います。だって、死に際でパッと意識が戻って、「失敗したわ」でしたっけ、普通そんなこと呟かないですよね?(笑) 傍にいる息子のことを考えると思いませんか??

 あれがもし、たんにミスリードのために入れられた演出であるのなら、いくらプレイヤーを騙すためとはいえ絶対にやっちゃいけないことじゃないかと感じました。それとも、デインがそうなってほしいと望んでいる風景だったのか……ちゃんとした意味があるのなら、ぜひ知りたいポイントです。

 それともうひとつ。製作側が本当にララ=ロレインだと思わせようとしたとしましょう。それによって得られる効果って「同一人物だと思っていたら、たんによく似ている別人だった!」という驚きですよね。これ、個人的にはマイナスの効果だと思うんですよ。突然ご都合主義感がものすごくアップしますもん(笑)。そりゃあ恋愛漫画などでは、亡くなった恋人とそっくりな人が現れて心が揺れるなどありますが、そういった場合は大抵親族だったりすることが多いです。(もちろんそうでないケースもありますが) 他人のそら似だと、どうしてもつくりもの感が出てしまうからだと思います。

 逆に、「別人だと思っていたら実は同一人物だった!」という驚きならどうでしょう? 私はこっちのほうが驚きの種類としてはいいのではないかと感じました。それならあの目が開いたシーンにも意味が出ますしね(笑)。つまり、製作側が用意しようとした驚きの要素自体が、最初からまずかったのではないかな、と思ったのです。

 話を戻しまして――本当に製作者の計画どおりかはわかりませんが、ララをずっと母親だと思っていた私には、ラストの流れがわりと意味不明でした(笑)。そもそもアッシュを父親だなんて思っていなかったので、よけいになぜアッシュが黒幕なのかわけがわからなかったです。だからこそ本人の意思とは関係のない何者かが鍵を握っているのかな?と考えた節もありますが……ものの見事に外れていましたね!

●1周目→2周目で大きく変わったキャラの印象

 蓋を開けてみたら、これがいちばんこのゲームのキモだと思いましたので、キャラごとに細かく見ていきたいと思います。

【デイン】

 1周目をプレイしはじめて、まず思ったこと。「あれ? 耳が聞こえないって設定じゃなかったっけ?」←これです(笑)。

 なぜなら、冒頭は普通に台詞の字幕がありますし、屋台のおっちゃんの言葉もわかっている様子でした。マルセロたちとやりあう前に「耳が聞こえないんだぜ」的なジェスチャーをするので、ああやっぱりと思うのですが、情報をまったく入れずにプレイするユーザーに対しては不親切だな、と感じました。

 また、耳は聞こえないと言いつつも、相手がなにを言っているかは大体把握できているふうでしたし、自分もちゃんと発言していました。この時点で「デインを追体験できる」というのはちょっと違うな、と感じました。

 本当にデインの状態を追体験できるなら、デインが理解できている台詞は最初からすべて字幕を出すべきだったと思うのです。逆に、プレイヤーに見せたくない台詞は口もとを隠したりして言わせれば回避できるわけで……。

 なぜそんなことを思ったかというと、1周目はあまりにも情報が少なすぎて(笑)、考察しようにも限度があり、多くの部分がただの推察になってしまったからです。それが製作者側の狙いだと言われたら納得するしかないのですが……。

 とにかく、台詞がなにもない状態では、デインはかわいそうな子だな、という印象しかありませんでした。なんだかみんなに振りまわされていろんなところに行って戦っているふうに見えたので。

 ところがですね……2周目をやったあとは、評価がガラリと変わりました。私が抱いた感情は「いつまでも悲劇のヒロインを気取ってるんじゃない!」だったんです(笑)。

 確かにかわいそうなのはかわいそうなのですが、終始母親を重ねて見ているララのことしか考えておらず、自分を心配してくれる人の気持ちには見向きもしない姿を見て、これじゃあ耳が聞こえないのも仕方ない、と思ってしまいました。辛辣ですみません……。

 「どうして耳が聞こえないんだ」みたいな台詞を言うシーンもありましたが、あれも実はララ(母)に対しての言葉でしかないですよね。ララの歌声が聴きたいだけで、他はどうでもいいように感じました。そもそもが、心を病んで耳が聞こえなくなっている(原因はおそらく母の死)と思うので、仕方ないことなのかもしれませんが、そういう意味で最後まで成長が見られなかったのも、ストーリーとして残念でした。アッシュとの和解もデインが変わったからでなくて、アッシュが変わったからですもんね……。

 なぜそこまでララ――というか母親に執着するのかといえば、間違いなくアッシュが「おまえのせいで母が死んだ」と強く責任を押しつけたせいで、それによってデインが「自分がもっと強かったら母を救えた」と考え、クワイエットマンをつくりだすわけですが……それにしたって、全編にわたって強すぎませんか?(笑)

 本当に強くなったからこそ、今度こそ母親――ララを救いたいという思いが強くなるのは理解できますが、本当に視野が狭すぎて。まだ若そうだから仕方がないのだろうけど、だからこそ精神的に成長するシーンが見たかったなぁと思ってしまったのでした。

 あと、最後の最後にひとつ気づいたことがありまして。デインにとって耳が聞こえないことはハンデかもしれませんが、実はメリットもあるよね?と。どういうことかというと、大抵の人はどんなに聞きたくない話でも、目の前で話されたら聞こえてしまいます。耳を塞いでも、完全にはシャットアウトできません。

 しかしデインの場合は、聞きたくない――知りたくないと思ったら、目を逸らせばいいのです。あるいは目をつむるだけで、完全に情報をシャットアウトできます。現にデインは、アッシュと車に乗っているとき、アッシュがなにかを言っているのがわかっていて無視しているようにも見えました。

 それ以外にも、デインが実際に理解しているのかどうかが疑わしい台詞がかなりあって(デインが本当に発言者を見ているのか、カメラワークのせいでわからないという意味です)、実はデインはプレイヤーが知っている多くのことをほとんど知らないのでは?という可能性さえあります。

 前のほうでも少し書きましたが、他の人の声を聞こうとしていないのはデイン自身であって、明らかに現実から目を背けているように見えるんですよね。本当に知りたいのなら、目を逸らしてはいけないのに。都合の悪いことは見ないようにして、ただただララのことを考えているように思えました。それはアッシュの洗脳(自分のなかのクワイエットマンに乗っ取られているみたいな)によるところが大きいのかもしれませんが……。

 デインの本心がまったく見えてこないし、葛藤も特に感じられないので、最後にいきなり泣き出したりしてもちょっとついていけない……となってしまったのだと思います。

【テイ】

 私のなかで最も株をあげたのは、テイでした。1周目は完全に悪役と思っていましたが、2周目で彼の強い友情に感動するとともに、そんな友の話にもまったく聞く耳を持たないデインにがっかりしました(笑)。

 テイは確かに、デインの母を撃ってしまいました。が、あれはどう見ても事故です。アイザックが絡んでこなかったら100%起きなかった出来事です。撃ってしまった恐怖から一度は逃げ出すものの、もしアイザックが勝手に自首をしなかったら、テイはちゃんと自首したんじゃないかなと感じました。

 自分が殺してしまった相手と同じ顔のララを傍に置いているのも、罪滅ぼしのためだと思います。今度こそこの人を守ろう、という気持ちが働いているのでしょう。そういう意味では、テイもデインも根っこは同じなのかもしれない。

 ただ、ララの楽屋に貼ってあった写真を見る限りでは、ララに対する愛情も本物で、二重の意味でララを守りたいと思っているからこそララを縛りつけてしまい、ララがそれを重荷に感じてしまっているのだと思いました。(そのあたりの事情はまったく言及がなかったので想像ですが……)

 じゃあデインとの仲はどうだったというと、あの事件が起きる前にはすでに友だち同士で、母と一緒に歩いていたデインはテイの姿を見つけて駆け寄っているんですよね。そうしてあの事件が起きたことによって、テイはなおさらデインに負い目を感じるようになり、デインのいちばんの親友であろうと誓ったのだと思います。

 ここですごいなと思うのは、テイがデインの傍にいることを選んだことです。普通だったら、嫌でも事件のことを思い出すから、逆に疎遠になりそうじゃないですか? でもテイは、たとえ自分が苦しんででもデインを支えることを選んだ……そう考えるだけでも勝手にグッときます(笑)。

 台詞がない1周目だと、テイはデインを襲ってくる役柄なので、どうしても印象が悪くなります。テイの事務所にララの血塗れドレスが置いてあったのは、さすがに引っかけだとすぐわかりましたが(笑)、ララのこと以外はどうでもいいデインはあっさり引っかかってしまいましたもんね……。

 2周目、台詞があることによって、テイのなかでは間違いなく「デイン>>>>>ララ」なのに、デインにとっては「ララ>>>>>|越えられない壁|>>>>>テイ」なのがわかり、見ていて本当につらかったです。デインにいくら訴えてもまったくわかってもらえないし、自分がデインの母を撃ってしまった事実は変わらないし、テイも本当につらかったと思います。

 正直、このストーリーでいちばん大変な思いをしたのはテイだったのでは?と私は思いました(笑)。殺人犯に同情するなよって言われそうですが、本当にかわいそうなんですもん……。終盤にアッシュを撃ったのだって、アッシュがデインにとってろくでもない父親だと知っていたからで、自分とは一緒にいてくれないのに父親とは一緒に行動するデインが憎かったのでしょう。

 そう考えると、テイはデインに友情よりも複雑な感情を抱いていたのだと感じます。実際普通に告白もしていましたよね?(あれが恋愛的な意味かどうかはさておくとして・笑)

【アッシュ】

 1周目のアッシュは、幼い頃からデインのことを案じている気のいい警部補(昔は巡査?)みたいに映りました。前述のとおり、私は彼が父親だとは思っていなかったので、黒幕として最後に復活したときには???となったものです(笑)。

 彼を父親と思わなかったのも、ちゃんと理由がありまして。虐待シーンの父親に顔が映らなかったのと、幼少期のデインを慰めている(ように見える)シーンの服装が警察官のものだったからです。てっきり、かわいそうな境遇にいるデインを案じている第三者的な存在だと思っていました。

 おそらくそれは製作者の目論見どおりで、このアッシュというキャラについては、1周目と2周目のギャップがとても上手くハマっていると思います。特に、みんなが驚いたと思いますが、慰めているように見えていたシーンが、実は静かに罵倒していたなんて、誰が想像できたでしょう(笑)。

 終始穏やかな表情で登場するだけに、そんな酷い父親だったなんて、台詞がつかなければまったくわかりませんでした。すべてのキャラをこのアッシュのようにひっくり返せたら、もう少しゲームとしての評価があがったのかなぁと感じるくらいには、とても自然なひっくり返しかたでした。

 キャラとしても、実はデインなんかどうでもよくてロレイン一筋だった、というのはわかりやすくていいのではないかと思います。ロレインを愛するあまり、デイン(のなかのクワイエットマン)を利用してテイとアイザックを陥れようとする――そう考えると、ララを大事に思うあまり他のことを顧みないデインは、まさにアッシュの血を引いてるんだなと納得です(笑)。

 実は私、2周目の開始前に冒頭で流れたムービー部分の字幕が出なくて、内容がさっぱりわからないまま2周目を始めたんです。なので、ララの誘拐が自作自演だというのは作中でわかりましたが、もともと言い出したのはアッシュだと思っていました。アッシュが自らの復讐のためにララをも利用したのだと。

 ところが、プレイ後にその部分が「THE QUIET MAN -ANSWERED-」のPVと同じだということに気づき確認したところ、自分を誘拐してほしいと頼んだのはララのほうだったとわかりました。(実は作中でもララが「自分が計画した」と言うシーンはあるのですが、自作自演なんだからそうだよね、と軽く捉えていました・笑)

 それを知ったあと、まず疑問に思ったのは、アッシュとララの関係です。アッシュは復讐の機会を狙ってデインやテイをずっとマークしていたので、テイのクラブに所属しているララのことも当然知っていました。「ララを初めて見たときは驚いた」的なことも話していたと思います。

 でも、個人的になにかやりとりがあったのか?と考えると、残念ながら作中にはそういったことを匂わせるシーンがなにもなくてですね……。ララは自分が死んだロレインに似ていることは知っているようだったので、夫だったアッシュのことも知っていたとは思いますが。

 ただ、考えてみてください。どこの世界に警察官に自分を誘拐しろと言う人がいますか?(笑) よっぽど親しくないと無理ですよね? まずケータイ番号を知らないわ。つまり、ふたりはある程度親しかったと考えるしかありません。接点はさっぱりわからないけど!

 また、ララが最初からアッシュの復讐心を知っているケースでなければ、誘拐なんて頼まないんじゃないかな?という気もします。だってアッシュにメリットがないじゃないですか(笑)。

 こんな感じで、狂言の言い出しっぺがアッシュだったら流れが自然だったのに、実はララだったとわかったおかげでかなり不自然な流れになってしまうのです。理由は簡単、ララに関する情報があまりにも少なすぎるから。

【ララ】

 というわけで、問題のララについて。このゲーム、前述のとおり2周目をやると黒幕が誰かも、動機がなにかもはっきりとするのですが、なぜかモヤッとしたものが残ります。原因は間違いなくこのララです。

 1周目、私は彼女を何者かに取り憑かれた母親だと思っていたので(笑)、特別な印象は抱いていませんでした。やたらさらわれまくるのは、ヒロインならよくあることですしね。一応母親なのですから、デインに対する態度もそりゃそうだよねって感じで見ていました。

 なので、歌姫なのに歌わずにピアノを弾いていることも、特に疑問に思わなかったんですね。デインの記憶のなかの母親はピアノを弾いていましたから、そのせいもあると思います。……そう考えると、ララが歌えなくなっているという状況自体も、ただのミスリードなのかもしれませんねと、今書いていて思いました。ピアノをたくさん弾かせるために?(笑)

 話を戻しまして、私は2周目をやる直前に彼女とロレインが別人だったと気づき、だったらデインに対するあの態度は一体なんだったのかと、どことなく気持ち悪いものを感じていました。そして実際に2周目をプレイしてみて、よけいにその気持ち悪さが増幅されました(笑)。 

 繰り返しになってしまいますが、彼女についての情報があまりにもなさすぎるんです。断片的な情報だけを集めていくと、周囲を巻きこんでいるただのはた迷惑な女性でしかありません。そう思った理由を、詳しく説明していきたいと思います。

 まず、彼女が歌えなくなっていた理由。これもはっきりとした答えはないのですが、彼女は自分を籠のなかの鳥にたとえていて、窮屈さを感じていたようでした。「誰も私の歌を聴いてくれない」みたいなことも言っていましたね。

 そこから察することができるのはふたつあって、ひとつにはテイが彼女にロレインを投影しすぎていたこと。テイのところでも書きましたが、テイはロレインの分までララを守ろうとしていたので、全体的に扱いが過剰になっていたのでしょう。過保護というか。それをララが負担に感じた、というのはあると思います。

 もうひとつは、やっぱりデインなんじゃないでしょうか。デインもララを完全に母親と重ねていますから、ララは自分の歌を聴いてもらえている気がしなかったのかもしれません。(そもそもデインには歌も聞こえませんしね)

 ただね……ちょっと冷静に考えてみてください。ララは自分がデインの母親に似ていることをもとより知っている様子でした。テイとは恋人同士なのですから、テイもロレインを知っているということは当然知っていたと思います。ロレインがすでに亡くなっているということも。あ、もちろんアッシュのこともですね。

 そんな状況で、なぜララはムーンライズに残ろうと思ったのか? 私はそこがいちばん不思議でなりませんでした。どうしてそんなにロレインと顔が似ているのか?という点については、似ているからしょうがない以上の理由がないと思うのでスルーするとしても(笑)、自分に他の人物を重ねて見ている人たちの傍にいることを選んだのは、ララ自身ではないかと思うのです。

 テイから声をかけたのか、ララが自分から営業に行ったのかはわかりませんが、初対面の時点でテイやデインはあからさまに驚いたのではないかと推測できます。特にデインは精神的にまだ子どもっぽいところがありますから、表情を隠せなかったのではないでしょうか。

 その時点でおそらく、ララに似た別の人を知っている的な話が出たと思うんですよね。全部想像でしかありませんが、自然な流れをつくろうとするとそうなります。もしテイがスカウトしたとすれば、ララに似ていたから強引に連れてきた――という可能性もないわけではないでしょうが。本当に嫌がっていたら、楽屋にあったような写真は存在しないと思うんですよ。(その写真自体がフェイクだと言われたらおしまいですが……)

 とにかく私は、自分がテイやデインの大切な相手に似ているとわかっているのに、それでも傍に居つづけたララの気持ちがまったく理解できませんでした。自分のせいでふたりがロレインを忘れられない可能性は考えなかったのでしょうか。あるいはテイに一目惚れしたとか?(笑) 歌姫としてはかなり人気があるようですから、別によそのクラブに行ったってよかったと思うんです。それでも傍にいることを選んだのは、やっぱりララ自身ではないのかなぁと。

 この問題は、もし違うのだというのなら、作中でしっかり描いておかなければならなかった部分だと思います。それをやらなかったのは、たんにララの個人的な部分を描くとロレインじゃないことがすぐにバレるから、という理由しかないのでは? そのせいで、ララ個人に関することはなにも描かれていないので、ララが一体なにを考えて行動しているのか、ストーリーからはさっぱり読み取ることができませんでした。

 さて、ララが自ら望んでテイやデインの傍にいたとすると、「過保護」や「自分を通してロレインを見ている」ということを理由に逃げ出したいと考えることは、自分勝手と言うより他ありません。最初はそれでもいいと思っていたけれど、だんだん負担になってきたというのならば、その気持ちを素直に話せばよかったのではないでしょうか。恋人なんでしょ? どうして話せないの??

 ここでまた、じゃあ本当はテイとララは恋人同士でないのでは?という疑問が出てきます(笑)。やはりあの写真はフェイクじゃないか、という話ですね。しかし、実際にテイが花束を持ってララを迎えに行っているシーンがあるので、オーナーと歌姫という以上に深い関係なのではないかな?というのは感じました。それなのにララはデインに対しても特別な感情を抱いているようなシーンもあって(クラブに向かう車のなかで手を繋ごうとしたり)、でもそれも母親と見せかけるために入れているだけで本当は深い意味はないのかも?みたいにグルグル考えていくと、いつまで答えが出ません(笑)。

 プレイヤーを騙すためのフェイク情報は、どの程度入っているのか……ただでさえララについては情報が少ないのに、嘘も混じっている可能性があるとなると、考察以前になにを信じていいのかわからなくなるんですよね。そういう意味でも、あのロレインが目を見開くシーンは本当に罪が深いと思いました(笑)。あれがなければ、ここまでフェイク情報を疑うことはなかったと思うので……。

 まあ細かい理由は置いておくとして、テイの元から逃げ出したいと考えたララは、なぜかアッシュに助けを求めます。ここがすべての始まりで、そして最も謎なところです(笑)。単純に、死んだ妻と同じ顔をしている私のお願いなら聞いてくれるだろう、みたいに考えたのでしょうか? あと、アッシュがテイを憎んでいることは知っていたから、手を貸してくれるだろうという気持ちもあったでしょうね。

 でもやっぱり、現役の警部補に頼むのはないわーって思います(笑)。よっぽどの理由がなければ、他の人を選びますよ……っていうか、ファンがたくさんいそうだから、頼んだらやってくれるんじゃないかって気もして。ララ側の事情がなにひとつわからない以上、不自然としか言いようがないのです。

 それでいて、実はこのストーリー、ララの存在がすべての引き金になっています。ララがいなければ、起こるはずのなかった物語です。なぜなら、デインのなかのクワイエットマンを呼び覚ますのはララ(母親)への思いなので。ララがさらわれることによってデインが乗りこんでいくから、事態がどんどん悪化していきました。デイン自身も、ララ以外のことはほとんど考えられなくなっているくらいです。

 そういう意味で、ある意味本当の黒幕はララだったと言えるのではないかと思います。これは2周目を見ないとわからないことなので、やっぱりある意味どんでん返しに当たるのかな?とも思いますが、どうにも地味なんですよね……(笑)。なんらかの形でララのことを掘りさげてもらわないことには、ずっとモヤモヤが残る感じだと思います。(DLCに期待!)

 これも全部フェイクだったのかもしれませんが、ゲーム内のララはとにかく思わせぶりなことばかり言っていましたし。本心はどこにあるのか、最後までよくわかりませんでした。ララはどうしてあんなにデインのことを気にしていたのでしょうね??? いっそロレインの魂が乗り移っているとか言ってもらえたほうがすごくスッキリするんですけど……(笑)。

【まとめ】

 全員分こうして書き出してみて、気づいたことがひとつありました。それは、2周目になって印象が悪いほうにかわったキャラのほうが多かったということです。私のなかで印象がよくなったのはテイだけでした。また、人によってはテイの印象が悪いままの人もいらっしゃるようです。(テイが人殺しなのは間違いなく、後半の暴力的な面があるからだと思います。が、私は暴力的になったのも1周目でテイを悪役に仕立てあげるためのフェイクだったのではと思っている・笑)

 するとどうなるかというと、登場人物のほぼ全員が悪印象になるわけですから、必然的にゲーム全体の印象も悪くなってしまうんじゃないでしょうか。このストーリーを紡ぐためにはそうするしかなかったのかもしれませんが、プレイヤーの心情だけ考えたら、1周目は悪印象だったけど2周目で「なんだいい人じゃん!」と思えるようなキャラが多いほうが、クリア後の印象はいいんだろうなと思ったしだいです。結果論なのかもですが……。

●このゲームの面白いところ

 さて、ここまで私のとりとめのない文章を読んでくださったかた、ありがとうございます。何割のかたが途中で脱落したのか、非常に興味があるところです(笑)。

 最後に、このゲームのどこが面白かったのかを考えて終わりたいと思います。なにしろ、私がゲームをする理由の大きなポイントが、面白い部分を考えて自分の創作活動に生かす、ということですので。もう少しだけおつきあいください。

 まずいちばん面白いなと思ったのは、購入するきっかけともなった2周制度ですよね。その試みが成功していたかどうかはおいておいて、仕組み自体は非常に興味を惹きましたし、面白いと思いました。

 小説でもよく「二度読み必至」と帯に書かれるタイプの作品があります。大抵の場合は、最後の一行でそれまでの内容に隠されていたことが明らかになる――という感じですが、それをゲームで表現したらこんなふうになるんだろうな、と。

 あとは、いろいろ書いてきましたけど、台詞のありなしで印象を正反対にできているシーンがちゃんとあったのも好印象でした。アッシュの慰め(偽)シーンもそうですが、デインが最初に描いていたクワイエットマンの絵は、どう見ても正義のヒーローには見えず(笑)、母親を狙う悪者のように見えていました。仮面の男を追っていたときに壁に描かれていたものもそうですね。

 あ、この話で思い出しましたが、デインのクワイエットマンの存在を知っているのは、実はかなり少人数しかいないと思うんですよ。なによりも怪しいのは、自分を疎んでいる父親(アッシュ)です。それなのに、脅迫状を見た時点で疑うそぶりも見せなかったのが不思議でした。

 いえ、内心は疑っていたのかもしれないですが、このゲームは一応デイン視点ということで進むけれど、デインの本心は他のキャラ同様にまったくといっていいほどわからないので、よけいに感情移入しづらくなってしまったと思います。2周目はいっそ、暴露モードみたいに心の声も入れたらよかったのに(笑)。

 あとこうしたらよかったのにと思った点がもうひとつありまして。これはTwitterでも呟いたのですが、ラストのアッシュとのバトルはいらなかったのではないかなぁと。あれがあるせいで、1周目から黒幕がわかってしまいます。もしなければ、みんな黒幕はテイだと思っていたのではないでしょうか。

 台詞さえあれば、最後のバトルがなくとも黒幕はアッシュだったとわかるようになっているので、より驚きが増したのではないかと思ったのです。ないと思っていた追加シーンも結局ありましたし(笑)、どうせ入れるならそこでアッシュの反省シーンを入れればよかったのではないかと。

 そもそもあの最後のバトルだって、戦う理由はアッシュ側にしかないんですよね。自分がすっきり片をつけたいから戦う、みたいな感じに思えました。それなのに「いい父親になるため変わりたいんだ!」とか言われても、正直心に響きません……辛口でごめんなさい(笑)。

 ここまで読んできて、結局あのデインの超常的なパワーには触れないのか?と思っているかたもいるかもしれませんね。撃たれたあとに蘇ったあのパワーが一体なんなのか。しかもアッシュまで蘇っていましたしね(笑)。

 個人的には、あれはもうああいう力なのだと納得することにしました。変身したのは演出上のことで、実際はそのままだったんじゃないかと思いますし(そういう手を使うことは学習済みだ!)。他のかたの考察を読んだら、アッシュも復活していたから遺伝的な超パワーがあるのでは?と書いてあって、なるほどと思いました。その力を表に出すためには、なんらかの媒介が必要で、それがデインにとってのクワイエットマンだったのかもしれませんね。

 といい感じに締めたところで、終わりたいと思います(笑)。長すぎる文章をここまで読んでくださったかた、ありがとうございました。相変わらずモヤッと感は残るものの、1周目が終わったあとにいろいろ考えるのはとても楽しかったですし、2周目が終わったあともこのとおりいろいろ言いたくなるような内容ですので、プレイして本当によかったと思います。インディーサイズのゲームも個人的には大歓迎なので、今後とも野心的なゲームをつくっていただけたらと願うところです。

※2018/12/10追記 よろしければこちらの記事もご覧ください。

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