私だけの心のありか

話がうまいね。と褒めてもらうことがよくある。
あなたがいると会議がスムーズに進むし、後輩たちもよく育つと。

完全に誤解である。私は何でもかんでも言葉にできる方ではない。
ただ、状況をフレーズに落とすのがそこそこ上手いだけである。

元々、鉄道員という仕事をしていたこともあって「起きている事象」「対処方法」を言語化して正しくチームに伝達するという技術が体に叩き込まれている。
事故の事象、現在の状況、復旧見込み。
一分一秒ごとに変わる状況を眺めながら、先輩といかに安全に顧客を動かすかをよく考えた。
もともと、少ない人数で沢山の人間を動かすことでお金をもらっていたのである。夢の国のお仕事もそうだ。

夢の国も鉄道員の仕事もそうだが、基本的に目の前にいる顧客は10秒話を聞いてくれたら気が長いなと思うレベルである。
「トイレどこ?」に対しては「突き当たり左です」を即座に返す必要があり、「お手洗いは、この廊下の突き当たりを左に曲がって手前から多目的トイレ・男性用・1番奥が女性用です」なんて言わない。その間に高確率で相手は歩いて行ってしまう。
5秒で対応しよう。もしくは5秒で話を聞いてもらえる状態に場を整えよう。
顧客と向かい合う時、よくそんなことを考えていたのを覚えている。

仕事では、自分のことを語る機会はなかった。
私が語る言葉は、すべて状況だ。いま、なにが起きているか。これからなにが起こるか。あなたはなにをすべきか。私はこれからなにをするか。
そんな事象にばかりかまけていたら、社会人になって干支がぐるっと一周する頃には自分のことを語る言葉を無くしていた。
心のありかがわからない。私は一体どんなかたちをしていた?いま、なにが欲しくて、なにが苦しいのだろう。

このnoteを始めたのは、形を失っていく自分を言葉という形でなんとか形取る、いわゆるリハビリをした方がいいのではないかと、そう思ったからだ。
シナリオライターという目に見える事象だけでなく、心を語る仕事をしているのだから、
キャラクターだけではなく、自分の気持ちをもう少しつぶさに見つめていこうと。

ああ、嫌だな。
でも、何かを探すための冒険って、いつもワクワクと同じだけおっくうだから。
きっとこの旅もそうなるのだろう。

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