母親がドアを開ける朝
まだ実家で暮らしていた頃。
わたしは滅多に母に起こされることのない、寝起きの良い娘だったのだけれど、
春のこの季節だけ、何日か例外の日があった。
「○○さんがね、亡くなったって」
母が私を起こしに来る時は、きまって緊急性の高いニュースと一緒だ。
そう、としか答えられない私と、うららかな春の日差しと沈黙。
ドアが開く瞬間の気配や、少し沈んだ私の名前を呼ぶ声。今も生々しく覚えている。
母親とは比較的仲の良い親子だけれど、私はいまだに母親が朝部屋のドアを開けるのが好きじゃない。
あの、朝のなんとも言えない無力感を思い出すから。
人はなんで、春に死ぬんだろうな。
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