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SCフライブルク 今季の総括

波乱のシーズンに幕が閉ざされた。
COVID-19により長期の中断期間があったものの、ドイツ・ブンデスリーガは政府やドイツサッカー協会の迅速かつ丁寧な対応により他のリーグより早くシーズンを完遂する事が出来た。

そのブンデスリーガは開幕から混戦状態が続き、ボルシアMG、ライプツィヒが首位に君臨する事となる。さらに第10節では絶対王者バイエルン・ミュンヘンがフランクフルトに1-5の大敗。8連覇の雲行きが怪しくなってきていた。
しかしそこからバイエルンは監督をニコ・コバチからハンジ・フリックに交代し復活。圧倒的な強さを見せつけ前人未到の8連覇を成し遂げた。

今シーズンのブンデスリーガは最終的には「やはり」バイエルンの一強で幕を閉じた。
しかし先述の通り序盤は混戦状態であり、その中でも有名な選手は全くおらず、資金も下から数える方が早い程の財力しかないクラブが予想外の番狂わせを演じた。(序盤のみ)
それがドイツ南西部の町クラブ、「SCフライブルク」だ。何故この小さな町クラブが下馬評を覆すような活躍をしたのか、ここに記す。

1.在籍8年を迎えた老将の存在

SCフライブルクは一言で表せば「エレベータークラブ」である。良い結果を残したシーズンの次のシーズンは、チームの主力をドイツの上位クラブや資金力があるクラブに引き抜かれ残留争いを強いられるのは当たり前。           そんなチームを2012年から率いているのが老将「クリスチャン・シュトライヒ監督」だ。

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©️ scfreiburg.com

彼の異名は「ブライスガウの火山
試合の時はとにかく熱い!ピッチラインギリギリに立ち選手を鼓舞し続け、試合に勝った時は全身で喜び選手、コーチ陣を熱く抱擁する。時には喜びのあまりロッカールームに走って戻る途中につまづいて転倒したり、アシスタントコーチに対して平手打ちをしてしまう事も。まさに火山のように情熱あふれる監督である。

ただ、試合相手の分析は欠かさず戦術も現実的であり、かつブレないサッカーを展開している。勿論、今話題の日本の某監督のような気持ちサッカーをする訳では無い。選手にも勝利後は必ず熱い抱擁をするが、監督が求める事(ハードワークなど)をしない選手はスカッドから外し、監督が求める事をしても試合に出れない選手には的確なアドバイスを投げかけ、奮起を促すことが出来る監督だ。

そしてシュトライヒはドイツA代表の次期監督の候補の1人でもあり、これまでの手腕が国内において高く評価されてる事が伺える。また、ドイツサッカー界のご意見番としても知られておりメディアから助言など求められることもしばしばある。

(シュトライヒといえば、第11節のフランクフルト戦で相手の主将のアブラームからラリアットを食らった動画が記憶に新しい方も多いでしょう…)

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©️@scfreiburg on Twitter

特に今シーズンだけではなく直近のシーズンは彼無しでは語れない。2014年の最終節に14位から17位に転げ落ちて降格し(2018年のジュビロ磐田より悲惨…)主力も多く移籍した中、残った若手中心のチームをまとめ上げ1年で昇格。       そこから7位、15位、13位とアップダウンが続いたが、彼がチームをまとめ上げなければ今頃は2部で彷徨っていただろう。それだけ彼の存在はフライブルクにとって重要であり、信頼の厚い監督なのだ。

2. 堅実でかつ洗練された戦術

今シーズンは序盤に下位相手との試合が続いたが第7節のドルトムント戦で殊勲の引き分け。第9節のライプツィヒ戦で勝利を飾りジャイアントキリングを達成するなど強豪との戦いでも臆する事なくプレーをし、着実に勝ち点を獲得した。
   
具体的な戦術に移る。            今シーズンの長所は両サイドの攻撃力、短所はボランチの展開力。シュトライヒ監督は長所を武器とし短所を上手くカバーする戦術を取った。

システムは3-4-34-4-2
【3-4-3】

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【4-4-2】

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まず3-4-3から。
今季のフライブルクは基本的にボランチが攻撃の組み立てをしない。CBが組み立ての大部分を担う。攻撃時は4-1-5に変化。左右のCBはSBの様な位置になり、左右のCBはWBと連携してサイドから攻める。                 また、最終ラインに落ちたボランチ1枚と真ん中のCBからは単純に前線にロングボールを入れるか左右CBにボールを供給する。左右のWBは相手のSBまたはWBをピン留めし、ボールが来れば3枚のFWと連携しながらゴールに迫る。       単純に言えば中央からの攻めは皆無、サイド攻撃に特化した攻撃戦術である。

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当然、攻撃時はボランチが1人であり中盤に大きなスペースがあるので、カウンターを食らえば毎度失点覚悟のピンチに陥る。          そしてこの時、FWは素早くボール保持者にプラスをかけ、その間にWBは素早く戻りCBと共に守備のブロックを形成する。そして帰陣が完了すれば5-4-1の分厚いブロックを形成し相手の攻撃を許さない。                   ネガトラがこのサッカーの出来を分けるが、先述のとおりシュトライヒはハードワークをしない選手は使わない。被カウンター時は前線はしっかりプレスをかけ、WBは即刻戻るスタイルが開幕から確立しており、選手は首尾一貫して行っていたのだ。

そして4-4-2。
こちらは30年ほど使われているフライブルクにとっては代名詞となるフォーメーションだ。
以前はCB2枚とボランチ2枚によるビルドアップが中心であったが、そこから発展。
攻撃時はボランチ1枚を落とし左右CBが広がって3-1-6の様に変化し、SHやFWが降りてビルドアップをサポートしながら前進していく。
その後の攻撃と守備時は3-4-3と同様。

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そして今シーズンは選手の引き抜きの阻止に成功。主力を残しつつウィークポイントのポジションの補強にも成功したのだ。注目はされていなかったが、完成されたサッカーをする為の準備は完了していたのである。

3.ヤングスターへの招待状

フライブルクの過去最大のサプライズは今季の躍進だけに留まらない。なんとこの小さな町クラブからドイツA代表の選手が2選手も選ばれた上にドイツA代表デビューを飾ったのだ!(負傷した選手に代わってなどラッキー要素もありましたが…) ドイツA代表監督のレーヴから招待されたこの2人を紹介する。

1人はFWのルカ・ヴァルトシュミット

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©️@DFB_Team_EN on Twitter

もう1人はCBとボランチを担うロビン・コッホ

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©️@RobinKoch25 on Twitter

1人目はルカ・ヴァルトシュミット。彼の特徴は一言で表せば「天性の左足」。ブンデスリーガマニアであり解説のお仕事もされている鈴木良平さんも仰っていたが、とにかく振りが速く、コンパクトであり狭いスペースでも鋭いシュートが打てる。
そしてシュートが弾丸のように速いのだ。ヴァルトシュミットはフライブルクで任されたPKは全てゴールに沈めている。それもコースがほぼ同じであり(ゴール左隅)、コースを読まれようと何のその。速すぎてGK大国のドイツで活躍するブンデスのGKでさえ手に掠るのがやっとなのだ。   そして彼はシュートだけが上手いのでは無い。バイタルエリアでの繋ぎ、味方へのチャンスとなるパス、裏への抜け出しも出来る上に守備もサボらない。                   フライブルクに来てから2年で53試合16ゴール。(今シーズンはA代表で顔面骨折をしてしまい出場した試合数は少なめ)そして何より彼の存在が知れ渡ったのは2019年のEURO U-21での活躍だ。 5試合で7ゴールを記録し「ゴールデンブーツ賞(得点王)」に輝いた。           ブンデスリーガのサポの中でも認知度は高くなっており、夏の移籍でも人気銘柄になる事は間違い無いだろう。

↑ヴァルトシュミットのゴール集

もう1人はロビン・コッホ。父は元ドイツ代表のハリー・コッホであり、今回のサプライズ召集により親子共にA代表に選ばれる事となった。
ポジションは主にCB。ドイツ代表でもCBでプレーをしたが守備的ボランチとしてもプレーが出来る選手だ。190cmの長身を生かした迫力満点の「エアバトル」が持ち味でありながら、カバーリング能力に優れ、さらに足元も卓越しており相手FWの逆をつくフェイント、味方の欲しい所に届く「正確なフィード」、そしてゴルフのチップインのような浮いたパスも出せる。
古豪カイザースラウテルンから2016年に引き抜かれてやってきたが、その時にはフライブルクのサポーターもコッホの獲得に疑問符を抱いていた。(実際自分もそうでした…)          当時は容姿、プレー共に若々しさがあったが急成長。今では凛々しい顔立ちになり冷静沈着かつ円熟味がある選手に生まれ変わった。そして今シーズンはフライブルクの攻撃の舵取りと守備の要として見事な活躍をしてくれた。        残り契約が1年となり今年の夏の移籍がほぼ確実な状態。昨シーズンの冬にライプツィヒへの移籍が決まりかけたがフライブルク側が拒否。夏の移籍ではライプツィヒは獲得する目処は立っておらず、国内外から熱い視線が集められているのが現状である。

↑コッホのプレー集(10分と長めですが…)

4.終わりに

結果論だがフライブルクは序盤は躍進したものの中盤以降は失速。とにかく下位相手に勝ち点を相次いで取りこぼした事が大きく、それが無ければ久しぶりのヨーロッパの舞台にも手が届いたかもしれない。
しかし、残留を達成し今年の想像の斜め上をゆく出来に酔いしれている暇は無い。主力の引き抜きは確実であり来シーズンは降格争いに巻き込まれる事は避けられないだろう。
ただしかし、前を向いて戦い続けるしか無い。 いつか訪れるかもしれない更なる高みを目指して…

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5.宣伝

最後まで読んで下さりありがとうございました。来シーズンは遠藤航、遠藤渓太などJリーグで活躍した選手が新たに参戦し、昨年より一層注目を浴びるリーグになる事は間違いないですし、自分もとても楽しみであります。
バリバリの宣伝になりますが…
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5月のブンデスリーガ再開時のものとなりますが、こちらのブログがとても纏まっており、分かりやすかったので、ご検討される方は是非ご一読を。

また、今回は緩めの戦術や選手、監督をメインに書きましたが、フライブルクに在住しておりSCフライブルクの下部組織のチームの監督を務めながらライターとしても活躍している中野吉之伴さんが書かれた記事が、SCフライブルクの歴史などを取り入れ自分とは別の視点から書かれていますので、もしSCフライブルクについてもっと知りたい方がいれば是非ご一読を。

〈その他の情報〉

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