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映画『犬も食わねどチャーリーは笑う』 言葉にする大切さ

Amazon Primeで見放題配信が始まったので視聴しました。

作品情報

タイトル 犬も食わねどチャーリーは笑う
キャスト 香取慎吾 岸井ゆきの
監督 市井昌秀
製作年 2022年
配給 キノフィルムズ
上映時間 117分

映画は、郊外のホームセンターで客の日和(岸井ゆきの)が店員の裕次郎(香取慎吾)に声をかけるところから始まる。日和は「突っ張り棒」を探していて、彼に商品の詳細を尋ねる。出会いのシーンだ。7年後、ふたりは夫婦となって同じ寝室で眠っていた。
日和は裕次郎のうんちくを笑顔で聞き、裕次郎は転職が上手くいかずに落ち込む日和を励ます。 普通の出会いをして普通に結婚したふたりは、普通に幸せなカップルだった。・・・表向きは。
ある日、裕次郎は「旦那デスノート」の存在を知る。職場の同僚から見せられた「旦那デスノート」には「チャーリー」のニックネームで旦那の悪口が書き込まれていた。日和が投稿したものだった。

物語は、「旦那デスノート」をきっかけに拗れた関係が表面化していく裕次郎と日和を軸に、ふたりの出会いから結婚までの回想シーンを交えながら進む。

映画のあらすじ紹介には「夫婦喧嘩」と書かれているが、ふたりの場合、言い合いや掴み合いのようなわかりやすい「喧嘩」ばかりではない。
日和は裕次郎の何気ない言動に苛立ち、溜め込んだストレスを「旦那デスノート」に吐き出すことで解消している。一方の裕次郎に悪気はなく、鈍感で日和の本心に気づいていない。
本音を言えなかったり、不本意に伝わってしまったり。少し分かり合えたと思ったらまた些細なことからすれ違う。「旦那デスノート」というパンチのあるアイテムこそ登場するが、ここで描かれるのはきっと誰もが共感できるよくある夫婦の距離感だ。
好きなシーンは、同僚の結婚式に出席して帰宅すると、散らかった部屋を無言で片付け始めるふたり。言葉を交わさなくても、妙に息は合う。帰りのタクシーの中ではお互いに何か言いたげで、結局何も言えなくて、でも、一緒に掃除をする(笑)喧嘩中とも仲良しとも言えない、中間の関係。結婚をしている人は、こんな経験に心当たりがあるのではないだろうか。(私にもある。笑)

ところで、この夫婦は一見、お似合いとは言えない。実年齢差もあってか、アンバランス感は否めない。しかし、それが逆にリアルだ。案外、夫婦って、あ、この人とこの人が?みたいなことがある。現実は、王道の恋愛ドラマのように美男美女のお似合いカップルばかりじゃない。そして劇的な困難を乗り越えて幸せに結ばれるわけでもない。他愛もない日々の中に、ささやかな幸せや許せない怒り、飲み込むストレス、また穏やかな日常、そんなことの繰り返しと積み重ねだ。

この映画のメッセージが何かと考えれば、”言葉にして伝えることの大切さ”だろうか。…なんだか言葉にしてしまうとチープだ。
クライマックスで先に感情を爆発させるのは裕次郎だ。彼は、日和の辛い過去(ここではネタバレになるため伏せておく)から逃げていた。もしかしたら、彼は鈍感なのではなく、わずかな違和感くらい見て見ぬふりをしていたのかもしれない。裕次郎に感化されて、日和もまた、正直な気持ちを吐き出す。
ここはある種あり得ないシチュエーションではあるのだが、軽快な音楽に乗って、気持ちが高揚するラストだ。

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