良いKPIを作るための7つのルール【10,000字】|#BtoB事業開発アドカレ
KPI(Key Performance Indicator)・・・BizDev にとっては日々向き合う身近な存在であり、悩ましくも頼りになるヤツですね。この記事では、ワンメディアで実践した2年間の経験をもとにして、「どのように良いKPI を作っていくのか」をテーマに7つのルールを紹介していきます。
事業開発 / BizDev の皆さんや、チームマネジメントを行うマネージャー職の方にぜひ読んでいただきたいです!
✅ この記事のまとめ
2024/01/20追記
こちらのnote記事について「ぜひ勉強会をしてほしい」というお声をいただきまして、その際に記事内容をスライド化しました。だいたい同じ内容です
📝 #BtoB事業開発アドカレ 10日目を担当しています!
🙋♀️ かんたんな自己紹介
良いKPI とはなんぞや
まず「良いKPI」とはなんでしょうか?
これに関しては、データアナリスト・樫田光さんの定義が的確なのでそのまま引用させてもらいます。
目標に直結していて(1)、机上の空論ではなく実際に日常で使える(2)ものが「良いKPI」です。BizDev やマネージャーにとってKPI は、事業のヘルスチェックと的確な打ち手につながりますし、メンバーにとっては担当業務の羅針盤になります。
逆に悪いKPI を設定してしまうと、チームに悪影響を及ぼしますし、一度浸透してしまうとなかなかスイッチできないので非常にやっかいな存在になります。
2年間で変わった、私のKPI マネジメント Before / After
なぜ今回「KPI」をテーマにしたかというと、今年初めて現場で運用できる「良いKPI」を設定することができたから。
10つのルールに移る前に、私がワンメディアにBizDev としてジョイン後、どのようにKPI マネジメントが変わったか?を実際のシートで見てもらいたいと思います。
✨ KPIマネジメントシートのBefore / After
←KPIシート(エクセル) KPIツリー(Miro)→
後述のルール#4 “KPIのインフレ化” を避けるため、エクセルシートではなく「Miro」上のKPI ツリーでの可視化・予実管理にたどり着きました。
何か事業数字に変化が起きたときに、このMiro 上で説明できる必要最低限の内容になっています。かつ、各メンバーが見て自分のKPI がどこにあるか分かるシンプルな内容になっています。
正しく・使いやすい「良いKPI」は、このようなKPI ツリーでモデル化できます。もちろん事業計画立案のためにはエクセルシートは必要だと思いますが、【KPI ツリー】と【事業計画】を分け、前者は毎日の実運用に特化してみるのがおすすめです。
KPI についての勘違いと失敗😕
KPI のよくないところは、とりあえず「KPI っぽいもの」を設定できちゃうところです。因数分解された数字が並ぶエクセルシートは、とても美しく、完成した瞬間は「なんだか、かっこいい仕事をした」感に包まれます。
「KPI っぽいもの」は作った側(BizDev)からすると、非常に満足度は高いのですが、現場で全く機能しないのですね。
- - - - - - - - - -
👩「(評価面談で)私のKPI って何だったんですか?」(制作プロデューサー)
🧑💻「商談件数ばっかり追ってるの、つまらないです」(ビジネスプロデューサー)
🕶️「それで今、何にフォーカスしたらいいんだっけ?」(代表)
- - - - - - - - - -
たくさんのフィードバックをもらい、代表の明石と夜な夜な「うーん」と唸りながら、合計30枚以上KPI シートを作り替えたと思います。そんなこんなで、自分たちの事業にフィットするKPI を見つけるのに2年かかりました。
さて、ここからがそんな経験から学んだ「良いKPI をつくるための7つのルール」です。
1. ビジネスフローの範囲を決める
まず、対象事業の範囲となる「はじまり」と「終わり」を設定しましょう。
最初どんなことからビジネスがはじまり、最後の目標に辿り着くのか? そのビジネスフローの間に必ず「良いKPI」が潜んでいます。
例えば、ワンメディアは広告クリエイティブ制作事業なので、
【はじまり】クライアントである企業に初回接点を持つ
【終わり】利益が出る
です。
はじめて顧客接点を持ってから会社に利益が出るまでが、ビジネスフローであり、このフローを短く設定しても長く設定しても「良いKPI」をつくることから遠ざかります。
「はじまり」→「終わり」の一部がループ構造になることもありますし、会社全体を見るといくらでも範囲を拡げることもできると思います。
が、ここで重要なのが頑張りすぎないことです。
とにかくシンプルに、ビジネスフローの「はじまり」と「終わり」の2点を設定してみます。
ついつい頭のなかに「これで説明できるじゃん」という方程式やフレームワークが浮かんでくるのですが、まずはシンプルを優先して無視してください。
2. データ集めは自分でやる
データ収集と分析は、とてもタフな作業です。「良いKPI」を見つけ、KPI ツリーに構造化するために、設定したビジネスフローのなかで、関わるデータをとにかく集めていきます。
💎 対象となるデータは?
ここでいうデータは必ずしも会計データだけではなく、ユーザー行動データや、ワークフローを行うメンバーが日々どのようなプロセスで業務をしているのか?といった社内の情報も含まれます。
ここで大事なのは、ビジネスフローに関わるのかどうか。
データ収集は無限にできるので、ビジネスフローに関わらないが、普段データは貯まっている領域:下記の右上を頭のなかで設定し、どんどん無視してよいものを切り捨てていきます。
一方で、ビジネスフローに関わるが、まだデータがない(存在しない or 収集していない)領域:左下の内容は、必死になって集めましょう。
👩💻 自分の手を動かして、土地勘をつくる
これらのデータ収集の作業を、KPI を策定したいと思っている本人が自分の手で実行することが大事です。もちろんデータを扱う専門部署や、部署ごとに情報が分かれているケースが多いと思いますが、誰かに「これ集めてまとめといて!」と頼んでしまうのは「良いKPI」を見つける確率を下げる行為だと思います。
しっかり自分で手を動かしていくことで、「この領域のデータがすっぽり抜けているな」「このチームではこの項目がマストなんだな」など、土地勘を作っていくことができます。非常に大変な作業なのですが、ここで踏ん張ることでその後の作業スピードが速くなり、結果、効率よくKPI を発見することにつながります。
3. 複雑な構造は複雑なままに “桶屋理論”
SaaS ビジネスの「ARR」など、世の中で知られているKPI とその計算式はとてもシンプルです。
手元にあるデータをビジネスフロー上に並べてみます。そうすると、ついついすぐにシンプルな計算式にしてしまったり、知っているフレームワークに落としていきがちです。
でも本当に世の中のビジネスが、すべて同じ計算式に落とし込めるのでしょうか?
「風が吹けば、桶屋が儲かる」ということわざがあります。一見関係のないようなことが実は結果に影響していた、という内容です。
この話のロジックはこのようになっています(真偽はともかく)
- - - - - 🐭 - - - - - 🐭- - - - - 🐭 - - - - -
風が吹くと砂埃が舞う
砂埃が舞うと、目を傷める人が増える
目の不自由な人は三味線の演奏を生業にすることが多く、三味線の需要が増える
三味線には猫の皮が必要なので、猫が減る
猫が減るとネズミが増える
ネズミが桶をかじる
桶の需要が増える
桶屋が儲かる
- - - - - 🐭 - - - - - 🐭- - - - - 🐭 - - - - -
「風が吹くと」→「桶屋が儲かる」のですが、上にあげた8つの要素がすべて揃っていないと、なんで儲かるのかピンとこないですよね?
社内のメンバーや投資家などのステークホルダーに説明するときに、ついつい「ARR」「LTV」などの分かりやすいKPI や計算式で表しがちです。
本当にそれが「良いKPI」であればよいのですが、分かりやすさを追求した結果、なぜ目標に辿り着くのか?を説明できないと本末転倒です。
もし複雑だったり、数が多かったりしても、勇気を持ってそのままの構造を可視化することのほうが「正しい」「使いやすい」につながると思っています。
4. 「KPI のインフレ化」を避ける
KGI・KPI・サブKPI・中間KPI・・・ 「KPI」とは便利なもので、要は「この指標常に見ときたいよね」という設計者側の思いを「〇〇KPI」という名前にして託しがちです。
この現象を、私の友人は「KPI のインフレ化」と呼んでいました笑
#3「複雑な構造は複雑なままに」と真逆のことを言っているようなのですが、ビジネスフロー上の指標が増えるとすべてを「KPI」として大事にしがちです。
「KPI がインフレ化」すると一つの「KPI」の価値が下がるため、結果としてフォーカスされなくなり「KPI」ではなくなってしまうということがよく起こります。
そのため、KPI 設計者としては「KPI」という言葉を安易に扱わず、「KPI」以外のものには別の言葉をあてることがおすすめです。(自分自身では「KPI」に序列が付いていたとしても、周りのメンバーからすると「KPI」と聞いただけで全てが大事だと勘違いしてしまいます)
5. 「悪意のないウソ」が全てを水の泡にする
「悪意のないウソ」とは、エクセルシート上での「数字あそび」「エイヤでやる」「鉛筆なめなめ」とも言われる数字合わせ作業のことです。
KPIにつながる指標同士の関連性が見えてきて、「さぁ目標を作るぞ」という段階。目標を達成するために必要な数字がどうしても合わない。
「ここの数字さえ合えば、キレイにKPI ツリーが完成するな」という道筋が見えた瞬間、一部の数字で帳尻をあわせてしまいます。
「このくらいはいけるだろう」という希望的観測で数字を入れる
何かのアクションの結果となる指標(受注率や成長率など)について、その指標が上がる/下がる根拠がないのに「実態と異なる」数字を入れてしまう など
こう書いてしまうととても嫌なんですが、本当にこれ、やりがちです(じゃないですか?)私はこの2年間「推測」を入れてしまう癖が抜けませんでした。
ある日代表から
🕶️「根拠のない計画は、社外に出しちゃうと “ウソ” と一緒だよ」
と言われてハッと気づくまで、事業計画を作るときの「あるある」だと思っていました。
現在私は、ワンメディアで経営や採用にも関わっているので、トップラインの売上を支えるためのコストやリソースについても制限があることを知っています。
なので、例えば「MoM(月次成長率)が毎月110% で続く」といった予測だけをすることはありません。もし110% で続くのであれば、裏側のリソースも同じだけ増えていないとおかしいからです。(労働集約型ビジネスの場合ですが)
せっかく作っても、全てが水の泡に・・・🫥
「悪意」はないんですが、このような根拠のないウソが一つでも混じってしまうと、KPI 目標自体が「正しくない」設計になります。
実際に運用できたとしても目標が正しくないですから、仮説が合っていたのかレビューができず、打ち手がズレていくわけです。
このような「悪意のないウソ」で合わせた架空の数字には意味がないので、自戒を込めてですが、一つも妥協せずに根拠ある数字でKPI を立てましょう。
「ウソ」にならないためのデータの考えかた✅
このような事態を避けるために、下記のデータの種別を知っておくとよいです。
例えば上記で出したMoM(月次成長率)は、チームメンバーが頑張って件数を増やしたり単価を増やしたりした結果の【目的変数】です。
KPI に【目的変数】を設定してしまうと、なぜその数字になっているのか?に根拠が作れません。
【目的変数】の原因となる【説明変数】を分解していきましょう。また、KPI は【説明変数】で構成するようにしましょう。
※トラッキングする指標として目的変数を置いていることはあります
6. KPI選定では、チームを動かす「エモさ」も考慮
「悪意のないウソ」を避けるには、とにかく自分のなかの“希望的観測”を排除していきます。「こういう事業にしたいな〜」といった熱い想いもここでは不要。
ただこれは設計時点での話で、KPIを絞るときにはドライ+多少の「エモさ」も大事だなと思います。
実際にKPIに向かって動いていくのは誰でしょうか?
それは設計者である自分(BizDev やマネージャー)ではなく、チームメンバー個人個人です。
構造化した指標の候補を眺めて、KPI を絞っていくときには、
「数字上のインパクト」だけではなく「担当メンバーが追いかけていて、テンションが上がるかどうか」がという気持ちの想像も大事だと考えています。
KPI ツリーの全体像を把握し、各チームやメンバーにKPI を割り振っていく設計者からすると「なぜこのKPI が大事なのか?」が腹落ちしています。
一方で担当メンバー側からすると、日々の業務で大事なのは、
・目の前のお客さんが喜んでくれること
・自分のアクションでKPI にポジティブな変化が出ること
です。
一生懸命KPI を作った側にとっては、全部の構造を説明して一緒に追いかけたくなるのですが、
設計者以外は【KPI ツリー全体には興味がない】と思ったほうがいいです。
むしろ目の前のKPI が日々の業務で「テンションが上がる」瞬間と紐づいており、
個人個人が、自分のKPI を追いかけたくなる状態
→ 各チームのKPI が達成する
→ 事業全体のKPI が達成する
→ KGI の達成 という流れに“自然となっていく” 状態を意図して設計できると「良いKPI」だなと思います。OKR システムと近い考えかたですね。
7. 競合他社には言いたくない数字を発見せよ
競合他社には絶対言いたくない数字、それがあなたの事業の「良いKPI」です。
「KPI」を何とするか?は、たとえ同じ業態であっても、事業や組織のフェーズ、チームの状態によって変わります。KPI ツリー上で事業指標を構造化できたら、最も「正しく」「使いやすい」自社事業のKPIを選んでいきます。
私がよく「良いKPI」を見つけるためにやっているのは、
「この指標のなかで、競合にバレたくないものはどれか?」
と心のなかで聞いてみること。
だいたいこれでピンときた指標が「良いKPI」の候補になることが多いです。この質問の答えとなるのは、それを大事にすると事業が伸びていく、と分かっている指標だからです。これが仮に、売上・受注率・単価等のオーソドックスな指標じゃなかった場合も、ぜひ「なぜ気になったのだろう」と深堀りしてみてください。あなたの事業や組織だからこそドライバーになりうる、他の組織ではマネしにくい指標の可能性が高いです。
ちなみにワンメディアでは、「Miro」のKPI ツリーのなかに各チームのKPIを設定しており、売上・受注率・単価等のオーソドックスな指標ではないものが発見できています。数字の値自体は変わるかもしれませんが、今の事業モデルを継続するのであれば、ある程度の期間に耐久できるKPIではないかなと思っています。
おわりに
以上が、「良いKPI」をつくる7つのルールについての紹介でした。
ワンメディアのBizDev としてコア事業のビジネスフローにおけるKPI を2年かけて発見することができたのですが、コア事業以外にも「採用」「組織開発」「BtoB マーケティング」などのテーマでは、まだまだワークフローの整理からスタートです。特に”人”が関わるHR は、より複雑な構造で数値化しにくい領域なのではと思っていて、ここは経営側として着手してみたい気持ち。
BizDev 職やマネジメント職の方、特に既存のKPI モデルがないような非・SaaS サービスの会社のBizDev の方、「KPI」テーマでディスカッションしたいと思っています。
ぜひX(Twitter)にいますので、お声がけください! @sakiyogoro
お読みいただきありがとうございました。では👋
🗓️ #BtoB事業開発アドカレ とは
↓ こちらから一覧見れます。人気すぎて2つ走ってます。すごい。
(Slackコミュニティでも、LaryerXさんチームのプロジェクトの進め方もめちゃ参考にしてます笑)
ワンメディアではビジネスプロデューサーを大募集中です!
クリエイティブが生業の会社で、数字にコミットしてプロジェクトを推進していくビジネスプロデューサーを募集しています。
会社紹介資料もぜひご覧ください。
雑記:こんなことしています
■私のBizDevキャリア
新卒で入ったLINEでは、広告営業 → 営業企画 → 事業企画とビジネスサイドでキャリアを積んできました。事業企画では「LINE公式アカウント」というBtoBプロダクトを担当。
その後クリエイティブスタジオであるワンメディアにジョイン。TikTok等のショート動画事業を立ち上げ、取締役として広告制作事業を統括しています。営業 / 営業企画 / BizDev / マネジメントを横断していて、ビジネスサイドの何でも屋です。
3食のなかで1番朝ごはんが好き。渋谷・表参道・広尾エリアでよくパンケーキ食べています🥞 朝から意識高く「朝活」してくれる人募集中。
■最近頑張ったしごと
📕 参考にした記事や本
樫田さんのデータ・KPIシリーズは本当に何度も読んでいます
マネジメントテーマですが、KPIドリブンなチーム設計の鉄板。1番好きなマネジメント本です
新しもの好きの私は、いつも「あれもこれもやりたい!」とKPIが散漫になり、プロジェクトを複数同時進行しがちになります。。そんなときに読み返す本
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?