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詩 愛よりも透明な

恋をする、色彩が足りないことに気づき、
世界が全くもって足りなくなる、
世界が雪で濡れる、熱くなる、
次のたましいに生まれ変わるまで、
愛してる、まぶたに触れる雪、
沈黙する、わたしの体温、雪が溶ける、
溶けることも溶かすことも、痛くはない、
痛みさえ足りない、
どうしてこんなに足りないのだろう、
足りないから、せめて。

わすれたくないのだ、でもそれは孤独で、
わすれたくないのは、わすれないでほしいから。
でもいつか、すべてはわすれられる、
あなたにも、わたしにも。
できるならずっと、抱きしめていてほしかった、
いつまでもずっと、それならわすれようもなかった。
離れた瞬間、抱きしめられていた感覚は、
たちまち遠のいていった、おもいだしても、
たえず離れて、引き延ばされる、
遠のいていくなかで、おもいだす、
おもいだすたび、遠くなる。
おもいださないほうが、もうこれ以上、
遠くならずに済むのかもしれなかった、
でも、わすれるのがいやだった。

おもいだすことをやめられずに、
わたしはそれをわすれてしまうのだろう。
抱きしめられていた感覚は、
おもいだす手ごたえと虚無感に替わって、
もう、どこにもなかった。

手放すことが、
わすれないでいるための、唯一の方法で、
そのときそのときの感情を、
そのときそのとき手放していけば、
わたしたちは何も失くさずに済むのかもしれない。
愛される場合の愛と、愛する場合の愛が、
同じだとおもってしまうのは、それはきっとエゴだ、
愛されているとおもえるのは、
自分が自分のどこか一部分を、
愛せないでいるからだと、
未完成なまま生きているからだと、おもう。
手放したうえで手放せなかったものに、
愛なんてみないで。
離れた腕の感触は、触れられなかったものの感触で、
触れられなかったものをわたしたちは、
焚き火のように燃やすことで受け止める現実があるから。
わすれないでいることと、
わすれたくないという気持ちは、
共存できずに、今日も燃えてゆく。
そうしてひとつ、愛は消えてゆく。
だけど、愛のあとに残るものが、
あったっていいでしょう。
きっとなにか、愛よりも透明な。

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