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詩「祝祭の日を待ちわびて。」


生きると死ぬのあいだに
いつだって暮らしがあり
生きてさえいればなんて、とても嘘だった。
「じゃあ元気でね」
それからの日々を数えるために
わたしは指を水に浸し、鼻をすんと伸ばし、
かかとを真っすぐ地面に降ろす。

華やいだテレビを消し
冷え切った布団にからだを潜り込ませる。
眠りたいのに浮ついた気分が
目の裏から剥がれずに眠れず、
さっきまで見ていた世界の色が
暗闇でくりかえす。
「寂しい」と口に出してみれば、
宙に浮かんで切り離された祈りが
ぼんやりと揺らいで灯る。
温もりはわたしを裏切り勝手に温かくなる。
知らぬ間に、わたしは眠っていて
知らぬ間に、空は明けてゆく。

カレンダーの四角い箱のようなマス目に
閉じ込められてわたしは、生活を続ける。
朝が来れば火をつけて
食べ物を温めるだろう。
わたしたちの火は続く。
会ったこともないだれかの温もりでも
わたしたちは思い描くことができる。
世界中で次々と年が明けてゆく。
眠り続けるだれかの火と、歌い続けるだれかの火。
生きていく手つきが、
冷たいかかとが、
明日も滞りなく続く。
ひきとった息の届け先を
ずっと探していたんだ。
眠るたびわからなくなるよ。
わたしはあなただったかもしれないね。
何度も何度もそう思うのに、
目覚めればわたしはわたしの意識を得ていた。
じぶんとからだが結びついた証の
温もりをそっと運んでゆく。
祝祭の日を待ちわびて、
わたしはわたしの火を起こす。



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