髪を染めた日
「やっぱり白髪や」
「嘘やろ。子供やのに、なんで?」
小学校6年生のころ、進学塾で後席にいた男子たちに髪を触られ、騒がれて笑われました。とても苦い、嫌な思い出です。私はいわゆる若白髪だったのですが、平気なふりをしつつ、気にしていたのでつらかった。毎日毎夜、髪のことで悩んでいました。
ある学校の帰り道。今どきのドラッグストアではなくて薬局という響きの商店で、これまたヘアカラーやヘアマニキュアではなくいわゆる白髪染めをこっそり購入して、洗面台で染めた覚えがあります。焦っていて、うまくいかなくて。
親には、笑われたり、叱られたりしたように思います。その日の記憶は全然心に残っていません。残念ながら、美しく変身できた、うれしい! という気分ではなかった。自暴自棄でネガティブな、孤独な行動だったからでしょう。
その後、時間が経ってふと気付くと、髪を染めることはメイクと同様に、自宅でできるごくありふれたファッションの一環になっていきました。ワンレングスの黒髪をゆるふわの明るい茶髪にするのも当たり前だし、白髪染めをしつつヘアトリートメントもできる。生まれつきのきれいな黒髪を脱色、ブリーチしてもいいし、差し色でピンクや青も簡単に入る。手袋もブラシもどんどん進化していって。
私もだんだんポジティブなおしゃれとして髪色を楽しむようになっていきました。白髪を隠すというよりは、髪色を変えるだけ。こそこそしなくてもいい。髪を巻いたりアイロンで伸ばすのと同じく、老若男女、思い思いに髪色を楽しんでいるわけです。肩の荷が下りたようでした。
とはいえ、今ももちろん若白髪で「なんで私ばっかり」とつらく悩んでいる方が、必ずいると思います。髪色だけでなく、肌の調子もそうですし、目の色も、くせ毛も猫っ毛も剛毛も、自分の外見に満足いかないのが思春期前後のお年ごろ。うじうじと悩むのは当たり前です。悩みがピークに達したら、ある日思い切って決断する。
「自分で染めてみようかな?」
そして、最初はきっと失敗してしまう。あちゃ~……という気分になるかも。それでいい。失敗を繰り返しているうちに、もっと明るくしようかな? と気楽な気持ちになっていき、友達にも話せるようになり、あるとき急に髪を染めることが、遊びやご褒美、娯楽になっていきます。
最初の1日は苦い思い出かもしれないけれど、ぜひ決断してもらいたい。白髪仲間として、そんなふうに思います。小学6年生だったころの私にも、教えてあげたいな。
「大人になったら、いいヘアカラーが安く売ってるよ」
「美容院でもやってもらえるんだよ」
「だから大丈夫。大丈夫だよ!」
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