④悪魔の囁き「矯正したら美人になるよ。」
「すごく美人になるよ」、「綺麗になるよ。」
矯正歯科に説明の際に言われた言葉だった。大学1年生当時の18歳、それまで勉強しかしてこなかった。男の人と付き合ったことも無かった。そんな私にとって、それらの言葉を言われれば、心は色めき立つように華やいだ。
それまで、嫌で嫌で仕方が無くて断り続けた矯正治療だったけど、やっても良いかなと思ってしまった。1,2年口の金具を我慢するくらいなら、いいのかな。そう思ってしまった。
矯正にどんなリスクがあるかなんてすっ飛ばされていた。まだそれが許された時代だったのだ。10代で教科書と参考書しか見つめてこなかったガキに、そこを突っ込む世間ずれした聡明さは無かった。
ならば母親に突っ込んで欲しかった。大人になった今は他力本願丸出しの憎しみが過ぎる。
しかし当時歯医者から受けた説明で、今から思うとそのリスクを全く説明しなかったのは信じられなと感じてしまうことがある。
「健康な歯を抜くこと」
それを言われたとき、さすがに母は少し驚いて躊躇した様子を見せた。最初は4本も抜くと説明を受けた。
私は周囲の友達も矯正している人は皆歯を抜いていたので、そういうものかと思い込んでしまっていた。健康な歯を抜いていい訳ないのに。当時の愚かさを思うと後悔しきりだ。
それでも当時は「美人になるよ」という言葉に色めき立った。そして何をやっても褒めてくれなかった母に認めて欲しかった。
次の説明では、噛み合わせの関係で上の歯を2本抜くだけで良いという説明に変わった。尚更母も前向きになってしまった。
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