日本酒のおいしさ 2 甘口と辛口

日本酒の甘口・辛口は、糖分と酸のバランスで約8割が決まる。糖分が多いと甘くなるが、酸が多ければ甘味と相殺される。清酒中の糖分には、ブドウ糖などの単糖と単糖が何個かつながったオリゴ糖があり、もろみを搾った直後の清酒にはオリゴ糖が多く含まれている。そのまま熱処理を行わず貯蔵すると、残存する酵素によりオリゴ糖はブドウ糖に分解されるとともに転移反応により別の形の糖質に変化する。つまり生酒では、日本酒度が変わらなくても構成する糖質が変化し甘くなっていく。10℃貯蔵でも50日後にはブドウ糖、α-エチルグルコシド、イソマルトースの3つの糖質が全構成糖の80~95%を占めるようになる。その内50%~90%を占めるブドウ糖が清酒の甘味を左右する*。

* 橋爪克己他: 清酒の品質に及ぼす製造要因の検討 製造方法と糖組成 (第2報), https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbrewsocjapan1915/77/10/77_10_670/_article/-char/ja

 そこで、ブドウ糖濃度と酸度を用いれば甘口辛口を判定することができる*。
   AV = G-A
   AV:甘辛度 、G:ブドウ糖 (g/dL) 、A:酸度 (mL)
   AVが0.2以下を辛口、0.3から1.0をやや辛口
   1.1から1.8をやや甘口、1.9以上を甘口

例えばブドウ糖が2.1g/dL 、酸度が1.2mLの清酒は、甘辛度0.9でやや辛口に該当する。純米酒は、酸度が高くブドウ糖が少ないものが多いため「辛口」及び「やや辛口」が多い。一般酒は「やや甘口」・「甘口」が多く、吟醸酒及び本醸造酒はその中間となる。

* 宇都宮仁他: 清酒の甘辛区分表示について, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbrewsocjapan1988/99/12/99_12_882/_article/-char/ja/

清酒のエキス分と直接還元糖

図1 市販清酒中のエキス分と直接還元糖の関係(上記文献に使用したデータより作図)

なお、国税庁全国市販酒類調査の直近3年分のデータを使って東北6県の一般酒を比較すると、山形県が最も辛口の県であった。

 さて、今度は酸をみてみよう。日本酒中の主な有機酸は、乳酸、コハク酸及びリンゴ酸である。清酒中の有機酸は、一般酒の場合73%がもろみ中で酵母により生成される。酒母に由来する酸は17%で残り10%が蒸米と麹に由来する*。

* 日本醸造協会編: 醸造物の成分 清酒編 第IX章 有機酸, 日本醸造協会, 東京(1999)

「速醸酒母」では醸造用乳酸を使うが、酒母の酸のうち添加した乳酸に由来するのは三分の一以下であり酵母がつくる方が多い。酵母は全発酵期間中に乳酸の半分以上、コハク酸及びリンゴ酸の大部分を生成する。なお、吟醸酒は低温で発酵させるため酵母が生成する有機酸は少なく酸度が低い。しかしリンゴ酸はあまり減少しないので相対的にリンゴ酸の比率が高い。

 一方、有機酸は、酸味とともに香味を有している。同じ酸の強さに調整して、乳酸、リンゴ酸、コハク酸、クエン酸、酢酸の識別試験を行うと、まず酢酸は刺激性のある匂いで識別され、次にコハク酸が貝汁様のうま味により容易に識別される。乳酸は刺激が穏やかでやや渋味があり、リンゴ酸とクエン酸は、どちらもすっきりとした酸味であり両者の識別は難しいがリンゴ酸の方がやや刺激が強い。日本酒の味には、乳酸の渋味やコハク酸のうま味が大きく関与している。最近、リンゴ酸を多く生成する酵母やクエン酸を作る白麹菌を使用して、従来と酸の量や構成を変えた日本酒が市販されている。
糖分や酸以外で甘辛に関係するのはエステルの甘い香りとアルコールによる刺激である。フルーティな香りを有する酒は甘く感じられる。一方、ピリピリとした口あたりのあらい酒は辛く感じられる。

初出 醸界協力新聞 2013

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