吟醸もろみ管理のポイント

1 酵母の性質を知ろう 

 通常吟醸醪では、低温での酵母の増殖を考慮して、留時標準で135%の汲水歩合とします。また泡なし酵母を使用する場合は、やや汲水歩合を詰めた方が前急にならず良いと思います。
 セルレニン耐性株(協会1601、1801、スーパー明利、アルプス等)が使用されていますが、この酵母は低温での増殖が遅いため、留汲水歩合をややのばして138~140%、留温度も8℃程度とし、酵母の増殖を促す必要があります。最高温度に達する前及びアルコール11%位(地になる頃)で追い水もしたほうが良いでしょう。最高温度もやや高め10℃~11℃として下さい。また、14号は、酵母が死滅しやすいため、使用酵母量を増やすことが必要と言われています。

2 吟醸もろみ管理の理論

 通常のもろみは、留後4日もすると、グルコース濃度は1.5%以下となり、発酵速度はグルコースの製成によってきまり、この関係自体は温度を上げても下げても変わらず上槽まで推移するいわゆるグルコース律速という状態になります。
 これに対して、吟醸醪は、留め後10日ぐらいまで、グルコース濃度が3%を超える(もろみが甘い)状態を作りだします。これにより、グルクアミラーゼ活性の維持による淡麗な味、エステラーゼ等の安定による香気成分製成能力の上昇が期待できますが、この環境を作るためには酵母増殖をゆっくり行うこと(踊り状態の調整、低い留温度、最高温度到達日数7日~10日)と高いグルコアミラーゼ力価(吟醸麹)が必要です。
 また、低温発酵は、淡麗な酒をつくるために必須であり、ビールはもとより白ワインでも以前より低温で発酵されています。清酒の場合、並行復発酵ですから低温で発酵を進めるとどうしても粕は多くなります。
 なお、酒母の使用量を減らし極端に前半低温経過をとり、酵母の増殖を押さえると、酵母数が減少し、苦味等の欠点が出てきます。吟醸酒母では、活性酵母を多量に添加して、きれいな味の酒母を作っているのですから、酒母の使用量を押さえるより、添桶をたて、踊りの状態(踊夕方ろ液が採取できる程度、仲の水汲み前に全面泡。踊酸度は1.8~2)を制御することをまず考えて下さい。

(注)初発酵母数を押さえ、極低温で発酵速度を押さえると、酵母はカプロン酸やカプリル酸等の脂肪酸を生産します(ビールで研究されている)。これらは、脂肪酸エステルとなり吟醸香の成分となるので、以前は吟醸づくりのテクニックであったと思います。しかし、セルレニン耐性株や、耐性株以外でもカプロン酸エチル含量に注目した酵母選抜が行われるようになると、過剰な脂肪酸は油臭の原因となり、また、淡麗化したことで苦味等の欠点を感じるため、極端な例は少なくなっています。

3 櫂入れ 

 清酒の場合、酵母の増殖に必要な酸素量は、仕込み時に櫂を入れる程度で十分です。仕込み時に全体が均一になるよう櫂を入れておけば、留後5日目くらいまで固い状態でしょうが、櫂入れは特に必要ありません。もろみが流動をはじめたら櫂入れを行いますが10日目くらいまで酵母の増殖は続くので過度な櫂入れは避けます。その後も分析の時に、一日一回混ぜてやれば十分です。従来型のタンクの場合対流が悪いので、底板面の隅からよく混ぜて下さい。

4 追い水

 750kgの仕込みで40L程度の追い水を持っているとしましょう。
もろみ前半:最高ボーメが7を超える場合。アルファアミラーゼ濃度を下げるため、その時点で30L程度追い水をします。溶解に与える影響は、 追い水より温度の影響が大きいため、最高温度は低め(例えば9℃)に押さえます(早めの低めの最高温度)。
もろみ中半:吟醸では、地の状ぼうがよくわかりませんが、アルコールが11%(ボーメ3.5~2.5)程度で地になると思えばよいでしょう。このころから温度を下げていく必要があります。ちょっと酵母を元気にするため、20L程度追い水をして、温度を下げ始めます。下げ始めは、1日1℃以上下げると、きれが鈍くなるので細心の注意が必要です。3日に1℃くらいの割合で7℃まではとりあえず下げましょう。きれないからと、温度を下げない人がいますが、酵母数が一定で元気であれば温度を下げた方が溶解が押さえられ、きれていきます。
 もろみ後半:地になった日数の2倍が上槽日の目安になります。A-B曲線により傾向を早めに把握し、上槽の目標成分にあわせ追い水で調整します。

5 上槽 

 上槽前には十分温度を下げ、5℃以下まで落とします。アルコールが16%以上出てピルビン酸が少ない状態(50ppm以下)であれば、上槽前1~2日で急激に冷やしても支障はありません。アルコール添加を行う場合は、温度差により酵母にストレスがないようにして下さい。アルコールは、粕に吸着する香気成分をできるだけ回収するためタンクの底に届くように入れ、しばらくおいてから攪拌して上槽します。

6 修正措置その他

 麹がうまくできてない場合、泡持ちが長い、もろみをなめても甘くない、メーターの切れに対しアルコールの生成(吟醸の標準では、0.18度/日本酒度)が悪い。といった状態になります。。
 もろみ日数が短くアルコールが16%以内でアル添し搾ると、ピルビン酸が多く、木香様臭やジアセチル臭が出やすくなります。この場合は、上槽した酒に3~5%程度おり(もろみ一部を笊こしするか斗瓶にとる前の濁ったの)からませ、5℃以下の低温で2週間程度おいて、ジアセチルの前駆物質を充分分解します。2~3日に1度かるく攪拌してください。(ジアセチルは酸化によってでるため、ワイングラスに1/3程度いれ、室温でしばらく放置するとわかりやすい。)
 吟醸醪で、酸やアミノ酸が多くなるという癖がある蔵は、麹が野生酵母や細菌に汚染されている場合が多いようです。また、冷えるからといって槽場の近くで仕込むのは衛生環境からおすすめしません。衛生管理には十分注意して下さい。 


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