日本酒のおいしさ 5 香りとその由来

食品をおいしいと感じる大部分は香りによる。風邪などで鼻がつまると、口の中にある食べ物の香りが咽喉から鼻に抜けなくなり口中香(含み香)を感じることができなくなる。このとき舌で味を感じることはできても、おいしさはほとんど感じられない。
 日本酒には200種類以上の揮発性化学成分が含まれている。ガスクロマトグラフという機械を使って成分を分離しそのひとつひとつを人間が嗅いでいくと、そのうち約50成分に何らかのにおいが感じられる。バナナや砂糖の焦げたようなにおいもあれば、正露丸、納豆、たくあんを連想させる臭いにおいもあり、これらのにおい成分が混じり合って全体として日本酒の香りになっている。
 また、濃度が高くなければにおいを感じない成分と極めて微量でも感じる成分がある。熟れたりんご様の香りがするカプロン酸エチルは清酒中で0.2 mg/L程度から感じられるが、カビ臭の原因物質である2,4,6-トリクロロアニソールは、その10万分の1の量で商品価値を損ねてしまう。
 日本酒の香りの由来は、①米や麹に由来する香り、②微生物が発酵中に生成する香り、③発酵後の酵素反応や化学反応による香り(熟成による香り)、④木製容器や環境から移行する香りの大きく4つに分けることができる。①は、白米やご飯の香り、麹のキノコ様の香りである。②発酵中には、熟れたりんごやバナナなどのフルーティな香り、ヨーグルトや酢っぱい香りが生じる。③発酵後の生酒期間には酵素反応により木の実様の香りが生じる。火入れ後は化学反応により醤油やカラメルを連想する甘く焦げた香り、たくあん様の香りが増加していく。④には樽酒の香り、カビ臭などがある。

原料米と成分

図1 原料米と酵母の発酵による香味成分の関係

熟成改

図2 火入れ後の糖とアミノ酸の化学反応による香気成分の変化

初出 醸界協力新聞社 2013

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