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【奇声を上げる夫10】 公団住宅と人生の決断

彼の家を掃除しているうちに、
3年あまりの時間が経過していた。

その間、いわゆる男女のデートらしいデートや、
付き合うとか付き合わないとかという話は一切なかった。

ただ、誰かが彼を気にかけていれば、
生きたい気持ちも出てくるだろう。

自分の未熟さを棚に上げ、
日々その気持ちがでてきていた。
最近は、家庭教師の彼のことを
考える時間が減ってくるので、
私には、没頭する対象が必要だったのかもしれない。

家庭教師の彼との恋愛で、
自分が「その程度の人間」だとわかった。

いっそのこと、彼が私の存在によって
自ら命を絶つことが回避できるなら、
少なくとも私は生きている意味があかもしれない。
そう考えるようになった。

そうこうしているうち、実家の母から連絡があった。
私の住居を心配して、東京都住宅公団に応募をしていてくれたそう。
どうやら、その抽選にあたったらしい。

公団住宅とは、日本住宅公団が建設して供給した集合住宅のことをいいます。日本住宅公団は現在、独立行政法人都市再生機構(UR都市機構)と名称を変え、公団住宅は「UR賃貸住宅」などと呼ばれています。公団住宅を購入、または借りる場合のメリットは、住宅は販売価格や家賃が周辺の住宅と比べて低く設定されていることにあります。

ホームズより https://www.homes.co.jp/words/k5/525003929/

しかもその住宅公団は、新築だし、今の会社にも通えるし、とても良い条件に思えた。周りの同条件の一般住宅に比べると、3~4万円は安い。

ただ、入居のためには1つだけ問題があった。
「入居者は婚姻関係にある夫婦」である必要がある。

悩んだ!

結婚は考えていない訳ではなかった。
でも、特に結婚したい気持ちもなくもっと先のことだと思っていた。

せっかくデザインの仕事に就くことができたので、
もっとキャリアアップして、転職もしたい。

ただ、当時のデザイン業界は
有名なデザイン会社=不夜城 となる図式が多かった。

当時は父親も東京で働いていたので、
私はほぼ父親の監視下にいたのだ。

仕事の帰りが遅かったり、休日出勤になると、
ひどく父親から怒られるのがとても嫌だった。

父親は、基本的には寛容であるが、
インフラ系の会社で働いていたこともあり、
労働基準にはとてもうるさかった。

なかなか業界の傾向を理解してもらえず、
労働基準の口出しは、
自分のキャリアの足枷になると考えていた。

そこから抜け出せば、
自分の力が発揮できるのではないかと思った。

それに、私は命という鎖につながれて、
彼と一緒にお互いのを改善ができれば、
過去の恋愛に引っ張られることも無くなるだろう。


ただ、懸念として、日々死を考える人に、
自分の相談ができない。

その時は、治療院の先生に相談すれば、解決策が見出せる。

彼との共通点の少なさ、繊細さに、
どこまで自分を保つことができるか、それは正直不安であった。

それは、私からの働きかけでどうにかなるかもしれない。

旦那さんになる人の仕事を支えていきたい。
贅沢は言えないけど、それが同業であれば、なお嬉しい。

でも、彼だってやろうと思えば、それはできるかもしれない。

なかなか、心を通じ合わせることができないけど、
それも子どもが生まれればどうにかなるかもしれない。

もし、彼が変わらなかったら、
自分は好きな人ができてしまうかもしれないけど、
きっとこの人なら、それは理解してくれるだろう。

そんな心配なんかしなくても、
治療院の先生が生きている間に、私が自分の道を突き進んでいけば、きっと彼も良くなっていくだろう。

そう自分に言い聞かせた。

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