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"メリットしかない"発酵食を広めたい

シリーズ 「発酵」の魅力を"伝える"人々①

知れば知るほど奥が深い「発酵」の世界。発酵の道を極め、ワークショップや講座を開催するなど"発酵の伝道師"としてご自身で活動を始められた方にスポットを当てます。第一回は麹作りの技術指導と発酵食文化の普及に取り組む上級麹士の山本茜さんです。


山本茜(やまもと・あかね)

1991年愛知県生まれ。大学卒業後、大手メーカーに就職するも自由なキャリアを求め3年で退職。上級麹士の資格を取得し、2020年に合同会社Amazake Lab.を立ち上げる。2022年にAmazake Lab.を事業譲渡し、現在はall.about.kojiとして発酵食品を使った食事会などを主催。

現在は発酵ワークショップや食事会を主宰するall.about.kojiの代表として、麹作りをはじめとした発酵に関するさまざまな活動をされています。実は、筆者と茜さんは「世界青年の船」という国際交流事業で1ヶ月船上で共に過ごした旅仲間。船を下りてから発酵の活動を始められた茜さんですが、試行錯誤を重ねて今に至ります。じっくりとお話を伺うと、活動の軸や挑戦心溢れる茜さんの将来像が見えてきました。

インスタグラム:@akane.50285

離れて気づいた日本食の素晴らしさ

ー茜さんが発酵に興味を持たれたのは船を下りられてからだった気がします。きっかけはなんだったのでしょうか?
1つには、やっぱり船の事業が理由にあって。元々すごく和食が好きで日本に興味があってっていうわけでもなく、海外に旅行したことも何度もあったし、海外の食事を食べる機会もあったんですけど、1ヶ月近く船で過ごして、改めて日本食って美味しいなって気づいたんです。事業のなかで色々な食を楽しみました。でも、正直、味覚が日本人の感覚ではびっくりするようなものもあって、例えば10種類ぐらい並べられたお菓子を、「これがこう違ってね」っていう説明を聞きながら食べても全部一緒にしか感じなくて(笑)ただただ甘い。すごく失礼かもしれないけど、中身がちょっと違うとかはあっても、甘いか辛いかでしか表現できないものが海外には多いなって。そんなことを思って帰国して、コロナ禍に入り、日本のことをもう少し知りたいな、日本食って改めて素晴らしいなって思うようになりました。日本食の要になっているのはなんだろう?と考えた時に、発酵食品、特に麹を使った発酵食品だということに気づいて。「麹というカビがいなければ日本酒も味噌も醤油も作れないなんて、麹菌ってすごい!」と思い、麹の作り方を習いに行ったのが2020年の5月です。

ーそれは対面ですか?
対面で教えていただける、かつ毎日の食事に使える実践的な技術・知識が得られるところを探しました。(京都市内から)兵庫県にある教室までマスクをして誰もいない阪急電車に乗って通いましたね(笑)それから自分でいろんなものを作るようになったんですが、中でも一番衝撃を受けたのが麹の甘酒。これで何かやりたいなって思って、その講座が終わった6月に甘酒の事業で起業することを決め、一気に準備を進めて9月に甘酒の商品を発売しました。

ーすごい勢いですね!
はい。でも去年(2022年)の春に事業譲渡という形で一区切りをつけることにしました。

ーそうだったんですね。甘酒に衝撃を受けたとのことですが、起業する決め手はなんだったのでしょう?
私がそれまで知っていた甘酒は、酒粕を使っている方の"甘ったるい"お酒みたいな、美味しくないものというイメージがあったんですが、全然違っていたことに気づいて。ジェラートみたいに食べられる美容スイーツみたいなものなんだということに気づいてから、本当は、20代や30代の健康に意識がある女性が「可愛い」「美味しい」という感覚から買う、街中のジューススタンドをやりたかったんですが、コロナ禍の外出控えというのもあり通販型で販売を始めました。一旦は甘酒の事業をやめてしまったんですけど、ゆくゆくはまたチャレンジできたらいいなと考えています。海外にも出せたらな〜なんて。

ーなるほど!ジューススタンドは確かに人気が出そうですね。甘酒の事業を辞められてからはどのような活動に移行されたんですか?
麹作りを3年半前に習いに行ったときから自分の仕事や活動にするつもりで、誰かに教えるとか、料理をするとかを念頭に置いていました。なので、発酵の活動を始めた最初から今もずっと食事会をやっています。初めは酒屋さんにお酒の解説をしてもらいながら、それに合いそうな発酵食品を使ったおつまみ(注1)を出していたんですが、去年からは、新居に引っ越したこともあり、自宅で月に1回テーマを決めて、5~6品のそれぞれ全てに発酵食品を使った料理を出すコーススタイルで食事会を行っていました。今年からはシェアキッチンなどを間借りして居酒屋スタイルで発酵食品を取り入れた料理を提供する機会を設けたり、試行錯誤しながら活動を続けています。

(注1)発酵食品を使ったおつまみ: 微生物たちの働きによって醸し出される食品の事。味噌、醤油、納豆、漬物など。

ーそれが「醗酵キッチン」?
そうです。ザワークラウトや野菜の塩麹づくりなどのワークショップを開催したり、形を変えながら新しいことにも取り組んでいます。

食事会のメニューも手作り。
ビオワインと合わせるのはサーモンとアボカドの洋なめろう

麹を学び直して再出発

ー発酵キッチン、いつか参加してみたいです!今後はどのように活動していく予定ですか?
今年の3月から7月まで、「麹の学校」に入り、改めて麹の作り方や麹の基本的な考え方を学び直しました。麹が身近になる機会をつくったり、手軽に麹を作れるようになりたい方へお伝えしていきたいと思っています。あとは、料理を教えてほしい、発酵調味料の活用方法が分からないという声もいただくので、そういった機会も設けていきたいです。また、10月に京都に引っ越すので、日本を訪れる外国の方に、日本でしか飲めないまだ外に出ていないお酒や、想いを持って丁寧に作られたお酒をカジュアルに飲んでもらう場を作れたらなと考えています。

ー英語が話せるのは強みですよね!最近興味がある発酵食品や発酵ドリンクなどはありますか?
コンブチャはいいですよ!自分でも作っていますが、なかなか納得いく味にならなくて。国内にあるコンブチャブルワリーさんのものが、すごくスッキリとしていておいしいので、コンブチャが初めての方でもおすすめです。ノンアルコールですが、微発泡なので、アルコールが飲めない方はもちろん、アルコールを控えたい時にもワイングラスで飲むと、スパークリングワインのような雰囲気で楽しめます。

コンブチャって"健康のためにセレブが飲む飲み物"みたいなイメージがあるかもしれないんですけど、実はそうではなくていろんなシーンで使えるんですよね(笑)

ー便利ですね!個人的にコンブチャって結構酸っぱいイメージがあるのですが…?
酸度は調整できます。甘み適度に残して作ったり、飲む際にフルーツジュースやハチミツなどを加えたり、好みの甘さ・酸っぱさに仕上げると飲みやすいです。ノンアルコールやノンカフェインなど、周りに妊婦さんが増えてきたのもあって、その人のライフステージとか健康意識に合わせて提案できる飲み物もあると面白いなと思って。コンブチャも基本的にはお茶をベースに作りますが、お茶の種類を変えることでディカフェにもできるのが良いですね。

ー他におすすめはありますか?
コンブチャは酢酸菌が関係しているのですが、酢酸菌繋がりで言うと、にごり酢にはまっています。

ーにごり酢!?
はい。今までのお酢はなんだったんだろうってぐらい旨味がすごいんです。一般的に流通しているお酢は、フィルターでろ過されているから透明ですが、にごり酢はろ過していないのでにごり酒みたいな見た目をしています。ろ過しないため、にごり酢には酢酸菌などの微生物が含まれていて、体にメリットがあると言われています。


茜さんの手で醸された麹

長生きして死ぬまで美味しいものを食べたい

ー普段から、毎日少しの筋トレをされているとお聞きしましたが、なぜ健康に気をつかうようになったのでしょうか?
やっぱり長生きして死ぬまでずっと美味しいもの食べたいじゃないですか?(笑)いろんなところへ行きたいし。そのためには、心と体を整えておくことがとても大切だなと思います。年上の方と仕事でご一緒することもありますが、気持ちが若く体も健康な方の共通点として、心と体の健康を大事にされていることがあると感じますね。

発酵食を意識することで何か変わったことはありますか?
一番大きく変わったと感じるのは、味覚と食べたいと思うものの変化です。昔は食べるのがやめられないほど好きだった、砂糖や人工甘味料をたくさん使ったお菓子や飲み物がまずく感じて、あまり体に入れたいと思わなくなりました。
あとは、旅行中で自分で料理できないとか、思ったように発酵食品が摂取できない時は腸の調子がいまいちだったりしますね。

ーそうなんですね!旅行に行く時はどうされているんですか?
朝食に納豆や味噌汁を買ったり、外食時に消化の負担になるような食事を避けるなどの工夫をしています。

ーそんな発酵にどっぷりな茜さんですが、どういったところが魅力だと思いますか?
そうですね。やっぱり最初に私がハマった時からなぜ発酵に関する活動を続けているかに繋がることなんですが、メリットしかないこと、だと思っています。お料理が簡単に美味しくなるのに体にいい。体が元気になると心も元気になってハッピーになるので、心も体も整っていくなとすごく思います。旨みが加わっておいしいのはもちろん、色味があるものは目でも楽しめたり、お料理にもいっぱい使えるので、身近で簡単だよ、いっぱい魅力があるんだよっていうのをもっとたくさんの方に知ってほしいですね。


発酵に関するセミナーや酒蔵・味噌蔵見学などに積極的に参加し、たくさんのことを吸収されている勉強家の茜さん。日々インプットとアウトプットを繰り返し、前向きに活動されており、12月の「SAKE Spring 2023 大感謝祭」ではなんとワークショップ講師として参加してくださいます!ぜひそちらもお楽しみに!

★SAKE Spring 2023 大感謝祭 「サケスプラボ」ワークショップマルシェ
ザワークラウトを仕込み、”発酵ホットドッグ”を作ろう!』
開催日時:12月1日(金)10:00 - 11:30
講師:山本茜さん(all.about.koji代表)
参加費:4,500円(税込)
参加費に含まれるもの:
・ザワークラウト2種(緑・紫)
・ホットドッグ用のパンやソーセージ、発酵調味料
・クラフトビール1杯

ワークショップの詳細情報やお申し込みはSAKE Spring 公式サイトよりご確認ください!


written by Kaho Domae

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