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遺言書保管制度で自筆証書遺言は増えるのか

1 はじめに
 遺言書の一つに,自分で作成する遺言である「自筆証書遺言」というものがあります。少し前には「エンディングノート」といったものが流行りを見せ,自分の財産の分け方について家族に遺言を遺しておきたいという人も少なくないようです。
 ですが,これまで自筆証書遺言はあまり普及してきませんでした。その原因としては,書き方が非常に厳格であり一つでも要件を満たさないと遺言が全部無効になってしまう,遺言を書いても保管方法をどうするかで悩む,他人による改ざんのおそれがある,そもそも自分が亡くなった後で自筆遺言があることすらわからないまま遺産分割手続が進んでしまうことがある,といったことが挙げられます。
 そこでさる7月10日,法務局における遺言書の保管等に関する法律が施行され,遺言書保管制度がスタートしました。法務省のウェブサイトにも制度に関するページができています。
 http://www.moj.go.jp/MINJI/minji03_00051.html
 今日はこの遺言書補完制度について一通り解説してみようと思います。以下,条文については断りのない限り「法務局における遺言書の保管等に関する法律」の条文となります。

2 制度の概要
(1)遺言を書いて保管する手続
 遺言書保管所は法務局とされ(2条),法務局の職員で指定された人が遺言書保管官となります(3条)。
 遺言書保管制度を利用したいと思う人は,まず自筆証書遺言を作成し,法務局に添付書類や手数料とともに提出して保管の申請をします(4条)。
 このときに,遺言の形式が法律に沿っているかどうかについては窓口でチェックを受けることができますが,遺言の内容についてはチェックを受けたりアドバイスを受けたりすることはできませんので,この点は注意が必要です。
 もちろん,後で保管する遺言を閲覧したり(6条2項),内容を変更したり,保管を撤回したり(8条)することもできます。
(2)相続人等の手続
 相続人,遺贈を受ける人(受遺者),遺言執行者となる人は,遺言者が亡くなった後で法務局に対し,遺言書が保管されているかどうかを確認したり(遺言書保管事実証明書,10条),遺言の内容がどのようなものであるかについて開示を求めたり(遺言書情報証明書,9条1項),遺言書を閲覧したりすることができます(9条3項)。
 遺言書情報証明書の交付,または遺言書の閲覧があった場合,遺言書保管官から他の相続人等に対して遺言を保管していることが通知されます(関係遺言書保管通知,9条5項)。このことによって関係者全員に遺言書の存在が明らかになり,速やかな手続が期待されるといわれています。逆にこれらの手続がとられないと関係相続人等に遺言を保管している事実が通知されることはありません。そこで運用上,遺言保管申請の際に遺言者が別途申請すれば,遺言者の死亡を遺言書保管官が知ったとき,あらかじめ指定された人に対して遺言書の保管の事実を通知することとされています。この運用については来年以降に本格的に開始される予定とのことです。
 遺言の内容開示で得られる「遺言書情報証明書」(9条1項)は登記や各種手続に使うことができ,自筆証書遺言について必要とされる家庭裁判所で確認する手続(検認,民法1004条1項)も必要ありません(11条)。

3 遺言書保管制度で自筆証書遺言は増えるのか
 私の雑感を少しばかり述べたいと思います。
 まずこの制度のうち,形式面のチェックを受けられることで自筆証書遺言が無効となるリスクが減少すること,家庭裁判所での検認が不要となること,遺言者死亡時の通知制度,閲覧等をした相続人等以外への通知制度があること,については評価できると思います。
 他方,遺言の内容については相談をしたりチェックを受けたりすることはできません。そのため,たとえば遺産となるものがたくさんあって,分け方について多少なりとも複雑な内容を遺言にしようということになりますと,その内容を本人だけで完成させることは決して簡単なことではありません。そうでなくても,分け方によっては他の相続人が遺留分侵害額請求をするなどの新たな紛争を生み出す可能性も否定できません。したがって,内容について十分にチェックやアドバイスを受けたい場合は,公証役場で作成する公正証書遺言を利用するなり,弁護士に相談していただくのが最善といえるでしょう。
 個人的には,短期的にはともかく,言うほど自筆遺言証書が増えるとはあまり思わないのですが,果たしてどうなることやら…

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