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デザイナー1年生を半年間育てた話

「このデザインはお客様に出せないよね・・・」
「なんかもうちょっといい感じにできない?」

昔、新卒時代によく言われていた言葉です。めっちゃ悔しいですしかなしいですよね。「絶対に見返してやるぞ!」なんて半ばやけになったような気持ちでデザイン修正をしていた日々が懐かしいです。

こんなことを言われて育ってきたデザイナー、実はたくさん居るんじゃ無いでしょうか。

さて、約半年間、仕事で、制作会社や事業会社にいままで勤めたことのない、「業界未経験、1年目デザイナー」に対してデザインのレビューをする機会があったので、私なりに「1年目デザイナーの育成」について学び考えたことを記して行きたいと思います。具体的な手法というよりも、「その人にあった、デザインレビューの見つけ方」という側面が強いです。

1年目デザイナーの育成ってどうしたらいいんだろう?という悩みをお持ちの方の少しでも力になれれば幸いです。

自己紹介

Fringe81という会社でコーポレート(インハウス)デザイナーをしています。会社採用関連のクリエイティブを中心に、Webサイトから紙媒体までの制作・ディレクションを主に担当することが多いです。会社ノベルティーなんかも作ったりしています。

デザイナー・社会人歴共に5年目。今は2社目なんですが、新卒で入った会社(受託のWeb制作会社)に3年半ほどおり、おもちゃ・アニメ・ゲームなどのジャンルのECサイト・LPのデザインから実装までを一貫して担当していました。


私が体験した「デザイナーの育成」

デザイナーの育成といえば、どう言うものを思い浮かべますか?おそらく、バナーやLPなどの「作りきるものがメイン」の場合、「デザインカンプ、もしくはワイヤー等を一通り作ってもらい、完成物をレビューする」というのが一般的だと思います。

作りきりではなく、継続して更新し続けるものや、既存のサービスに新しい価値を提供するような「体験設計から関わっている場合」は、もっと上流の前の段階で何回もレビューを挟む、とかもあるかもしれませんね。

今回ここで話すのは「作りきることがメインの場合」についてお話します。

私が新卒で入った会社では、先輩デザイナーについてもらって、できたデザインをレビューしてもらう、という形式でやっていたのですが、「このレベルではお客さまに出せない」みたいなかなり率直に厳しいことを言われながら育ってきました。

レビュー自体はバナーや文字装飾のディテールの細かい話であったり、もっと大枠、物の配置の仕方や全体の構成だったり・訴求する言葉の違いだったりしました。ある程度成長してくると、1px単位での修正を要求されることもありました。そこにはデザイナーがデザインをしていく上で大切な思想やユーザー目線の考え方もふんだんに散りばめられていました。

だからこそ、素直に納得できるものもあれば、当時謎のプライドを持ち合わせていた私は、対抗心も含めた「いやいや、そのレビューって先輩の好みに寄せただけじゃないの?」という気持ちを抱いたり、時にはデザインをボロボロに言われて「やっぱり私デザイナー向いてないかも・・・」みたいな激情に振り回されながら、それでもしがみつくようにそれに向き合っていました。今ではそれがあったからこそ、今の自分があるのだと思えるようになりましたが、もちろん辛いと感じる時もありました。

正直先輩デザイナーは本当にすごい人でした。クオリティーの高い物を生み出し続けながら、私が成長するために必要なことを教え続けてくれたのです。自分が教える立場に立ち、そのありがたみを数年越しで噛みしめる日々が続いています。


私が体験してきたデザイナーの育成は、1年目向きではなかった

しかし、これら私が経験してきたデザイナーの育成は、経験者向きではあっても、正直未経験者向きではありませんでした。

いや、1年目でも熱量さえあればなんとかできるのかもしれませんが、体育会系で全てを解決してしまうのは少し無理がありました。なにより私自身、せっかくデザインをやりたいと思って入ってくれた人に対して、それを諦めさせるような精神状態へ持っていくような言葉の選び方や、レビューの仕方はやりたくなかったのです。


まず考えたこと

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デザインをやるなら、やっていてずっと楽しいと思える、奥が深いと感じながら楽しんで欲しい、そういう願いを抱きつつ、お互い気持ちよく働きながら成長するためにはどうしたらよいのか?

考えた結果、1年目のデザイナーがおかれている立場や心境を知り、そこに寄り添っていくことにしました。

(1)デザインに対する理解度
(2)クオリティのレベル
(3)デザインに対するモチベーション
(4)デザイナーとしての自信
(5)デザイナーとしての自走力

それぞれの項目を説明すると、

(1)デザインに対する理解度
業界未経験者の中でも、どれくらい基礎知識を持っているのか

(2)デザインのクオリティレベル
シンプルにアウトプットの質の高さがどの程度なのかどういうデザインが得意で、苦手なのかを把握するのもレビューする際に効果的だと思います。(例えば、かわいいは得意だけど、大人っぽい・エレガントなデザインは苦手など)

(3)デザインに対するモチベーション
多分これが相手を知るために一番大事です。理由は後述。

(4)デザイナーとしての自信
1年目であってもどのくらい自信をもっているのか
これを知ることは、「レビューするときの言葉の選び方」に直結してきます。詳しくは後述。

(5)デザイナーとしての自走力
なにかを修正しなければならないことがあったときに、自走力がある人とない人では伝え方を変える必要があると思っていて、

ある程度レベルがある人には「まずは自分で考えてもらう」ように促すようなレビューが良いかと思いますが、

業界未経験者は「何がわからないのかわからない状態」なので、自分で考えることにすごくハードルを感じると思います。なので、

相手の自走力の度合いに応じて、「レビューの具体性」は変える必要があると思って居ます。

とてもざっくりした例で言うと
「高級感を出すために、フォントの装飾を変更してほしい」
「高級感を出すために、フォントの装飾にシルバーのグラデーションをつけて、美しい光のようなきらめきを足して欲しい」

だと考える余地(レビューの具体性)が全然違いますよね・・・?


相手の「モチベーション」を知ることが一番大事

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なぜ相手のデザインに対するモチベーションを知るのが大切かと言うと、これによってもレビュー方法の選択に影響があるからです。探り方については、シンプルに「たくさん話をする」のが一番よいかと思います。

ここは個人的な話ですが、「もし、お金がたくさんあって、働かなくてもよくなったら、何がしたい?」みたいな話をすると、「その人における仕事(デザイン)の価値観」がわかったりするのでおすすめです。

とても極端な例ですが、3人の1年目デザイナーがいたとします。

Aさん:
デザインへのモチベーション
作ることが好きだから。自分のものづくりで世の中に影響をあたえたいと思う。(たとえ働かなくてもよくなっても、デザイナーとしてものを作り続けたい、勉強したいと思うほど好き)
Bさん:
デザインへのモチベーション
作ることが楽しい・向いていると思うから。(仕事だからデザインをしている。働く必要がなくなったらデザイナーはしていないと思う)
Cさん:
デザインへのモチベーション
誰かの役に立ちたい(デザインは問題解決の手段であり、別にデザイナーでなくても誰かの役に立ちたいと思う それは働く必要が無くなっても同じ。)

この場合、レビューの仕方がどう変わるかと言うと

Aさん
放っておいても好きでものを作り勉強しているため、最初のうちは具体的なレビューをすればするほど確実に伸びる。ある程度成長してきたら、考える余地を多めにするレビューへシフトする。
Bさん
具体的なレビューが向いている。何がわからないかがわからない状態なので、自走を求めない。まずは具体的なレビューをして方向性を示し、基礎力の地盤をしっかりと固めることが大切。
Cさん
考える余地が多いレビューの方が向いている。本人の志向的に上流工程も考えることが好きなので、見た目や作り込みのレビューの意図や背景情報がしっかり説明できないと、レビューの本質が理解できず、モヤモヤする原因になるかも。先に余地を持たせるレビューをし、最後にクオリティーを上げるための具体的なレビューをする方が本人にもあっている。

というように、「本人のありたい姿」や「デザインに対するモチベーション」によってレビューも向き不向きがあり、相手の成長に合っている形が良いのではないか、というのが私の出した仮説です。

今回は一例として「デザイナーとしてのモチベーション」を例に、レビューの内容が変わることを説明しましたが、この方法を使うと、

「デザイン1つを完成させるのに挟むレビューの数」や「修正を伝える際に、何にフォーカスをあてて説明するのか」など、こちらの行動が相手のデザイナーとしてのなりたい姿や特性によって変わってきたりします。

ぶっちゃけ正解は一つもありません。めっちゃむずかしいです。

言葉の選び方

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レビュー対象の人の「デザイナーとしての自信」を知るのは、レビュー時の言葉の選び方に直結してきます。

・すごく自信があるけど実力が伴ってない
・自信がないけど実力がある
・自信も実力もある
・自信もないし実力もない

という4パターンだと思います。

これも前述したのと同じように、「相手が確実に成長するために必要な言葉の選び方」をするように心がけました。

一番大事なことは、まずは最初の時点で良いところは必ず褒める、もしくは何故そうしたのかという意図を汲み取り、第一の理解者になること(1度相手の意見を肯定するという言動)です。

その上で、冷静に、もっとよくするためにどうすれば良いのか、レビューしていました。

1年目のデザイナーのため、自信のない人の方が大多数だと思います。なので、一度肯定しつつ、直すところを確実に抑えていく方が、相手の成長のためになる上に、デザイナーとしての自信をつけてもらうことができます。しかし、あまり過剰に褒め過ぎても逆効果になってしまうので、塩梅は大切に・・・。

1年目で実力がすごくある人だとしても、他社で経験を積んできているデザイナーから褒められたり評価されるのはより一層重みが違ったりするものです。

一緒に働いていて気持ちよく働けるコミュニケーションってどんな形だろう?って考えてみるととても考えやすいような気がします。


ペアデザに関して

・素材の条件が同じである
・短時間で作れるものである(Max 1h)

の条件下で行うのが良いかと思います。良いデザインの方をを採用するという設定にすれば、時間が無さすぎる時こそ真価を発揮するかもしれません。

デザイン1年目、というか自分が新卒だった時もそうだったんですが、デザインってバナー1つとっても考えることにめっちゃ時間がかかりますよね。それを短時間でできるとなると、1年目相手に最初からそれをやるのはちょっと酷かもしれません。なので、ある程度慣れてきたけど、レビューをして修正している時間もない!という時にやるとめちゃ効果的だと思います。個人的には短時間コースがオススメです。


半年やってみてどうだったか

実は最初は、制作会社でやってきたのと似たような形(言葉は優しめでしたが、それ以外はほぼ同じ)でデザインレビューをしていたのですが、スケジュール通りにデザインが完成しないことも多く、加えて自分の時間もうまくコントロールすることが出来ず、共倒れしてしまうような状態でした。

なので、1度冷静になって、相手の置かれている立場や状況を考えて、制作期間や制作物、加えて普段の仕事ぶりなどに応じて、レビューの方法やそのタイミング・レビュー自体の具体性・言葉の選び方などを変える方式にしたところ、時間内にクリエイティブ が完成するようになり、最終的には半年前とは見違えるほどのデザインを初稿の段階で出してくれるようになりました!


今回の学び

誰か育てる時、
相手の立場になって考えると、
結果的に自分も相手もちょっと幸せになれる。

相手の立場になるということは
相手が経験を通して得られるものを考える、
身近な「体験設計」の1つである。

そして、育成もまた「デザイン(体験設計)する」と言えるということ。

というのが大きな学びだったのですが、

ただ、これをやるのって時間はかかります。。。

でも、苦労しないで人が育つなら「マネジメント」なんて言葉は生まれてないと思うので、それが真相なのかもしれません。

そして多分、これに正解はなくて、これはわたしなりに出したの答えの1つでしかないと思います。

それでもこうして言葉にすることで、困っている誰かの救いになれば嬉しいです。


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