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SS1「格安コーヒー」

香りに誘われて扉を開ける。なんてことをしてみたいが当方、それなりのチキンでいて恥ずかしがり屋につき、個人経営の、いい香りのするお洒落なカフェにフラッと入ることが一向にできない。店の前でうろついて、視線を集めてしまい退散することもある。コーヒーはとても好きで、飲み過ぎな程であるからこれは悔しい。
「仕方ない」
と独り言を呟いて、大通りまで戻り行きつけのファストフード店に入りクーポン券を見せて格安アイスコーヒーを手にする。窓際の空席を急いで確保し、パソコンを立ち上げる。手慣れている。この手慣れた感じが自分に奇妙な反抗心を抱かせる。カフェ、と心の一部が声を上げているのを無視できず、格安コーヒーに
「まっず」
と精一杯の抵抗をした。その後2時間ほど一杯の格安コーヒーで粘り、課題を仕上げた。「観察調査法における得失をまとめる」という課題で、なんだか自分を客観的に観察したくなった。いったい今の自分はどう見えてるんだろう?哲学は苦手だが、あまり人と話さないからよく考え事をする。いや、この「よく」というのも自分の主観に過ぎず、世間の人間は自分より多くのことを考えてるかもしれない。なんて、考えながら、まずいハズのコーヒーで十分に集中して課題に取り組んでしまった自分が浮き彫りになる。
格安コーヒーも悪くないね。

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