【星旅日誌】ネオン月光

宇宙飛行機の燃料補給のため、ある星へ降りた。

ひっそりと静かな夜で、遠くまでまっすぐに道路が一本伸びている。見渡す限り周りには何もない。雲も霧もなく、澄んだ空には月や星がまばらに広がっている。

宇宙飛行機を〈陸上自動運転モード〉に切り替え、道路を走って燃料スタンドを探す。天窓から空を見ていると、月がやけに点滅することに気づいた。

やがて道路の向こうに灯りがひとつ見えてきた。行ってみると小さな珈琲屋で、燃料補給もできるというので立ち寄った。カウンター席しかないこじんまりとした店で、1階が珈琲屋、2階が店主の住居、3階は宿になっている。こんなに広々とした土地があるのに何故平屋にしないのか店主に聞くと、単に高い建物が好きだからだという。10階建てにするのが夢だと笑った。今夜はここに泊まることにした。

メニュー・ブックを見ると、珈琲は5種類用意されていた。それぞれに『北の宵星』『深夜5番街』『まどろみ覚まし』『ビター・ナイト』『月光ネオン』と名前が付いている。『月光ネオン』を注文する。店主がミルで豆を挽くと、心地よい音と香りが広がる。カップは店主お手製の陶器で、うわぐすりに濃紺の結晶釉が使われており、傾けると花のような模様の結晶が虹色に光る。素敵なカップですね、と言うと、店で炒った豆菓子もおまけでつけてくれた。珈琲は丸みのある苦味が大変美味しく、豆菓子の塩加減もよかった。

この星の月はずいぶん点滅しますね、と店主に聞くと、「あれは月じゃなくてネオン・サインです」と言う。

「このあたりは暗いので、昔の人が星を模していくつか空にネオンをくっつけたらしいです。記録が残ってないのでどれが本物の星でどれがネオンなのか、よくわかりません。でも、あの月はネオンです。時々切れるので、梯子を登って交換しています」

月のネオンは道路をずっと行ったところにある街のネオン工場で作られていると言う。

3階の部屋に上がると、アイアン製のベッドと小さな窓があった。窓からはネオンの月がよく見える。星の配置を手帳に書き留め、ベッドに潜り込んだ。ネオンの点滅に合わせて、かすかに放電音が聴こえてくる。点滅も音も、夜が明けるまで静かに続いた。

翌朝、星はすっかり見えなくなったが、ネオンの月だけはその縁取りをうっすらと残したまま消灯し、空に白くかかっていた。

一階の珈琲屋でまた珈琲を注文する。朝の珈琲は『早朝2番街』の一種類で、アーモンドバターの付いたトーストとプレーンオムレツが付いてきた。こちらの珈琲もおいしいですねと伝えると、『月光ネオン』と同じ豆なんだけど、挽き方とカップを変えるだけでちょっと味が変わるんだよね、と店主は言った。真っ白いカップの中で、珈琲は香ばしい香りを漂わせている。

今日は街のネオン工場へ行ってみようと思う。


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星を旅する少年の物語を創作をしています。

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