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114. scripta winter 2022 【フリーペーパー】

紀伊国屋書店が出しているフリーペーパー、scripta。
これは今年のお正月に出た号で、この間紀伊国屋に行ったら新しい号が出ていました。(新宿の紀伊国屋書店のフリーペーパーコーナーがどこなのか分からず、数年分もらえずにいました……これは随分久々にゲットしたもの)

5つの連載とブックレビューで構成されていて、前はもっと連載が多かったような記憶があるけれど気のせいかしらん?
連載のうち「外古典のすすめ」と「ROADSIDE DIARIES」は覚えているものの、他は全く覚えのないタイトルでした。読んでいなかった時期に始まったのか、記憶から抜け落ちているのかは定かではありません(苦笑)

そんなわけでいつも通り、印象的だった記事についての感想など。

・ROADSIDE DIARIES 移動締切日 第28回
色々読んでいるフリーペーパーの中で、毎回かなり楽しみにしている連載の一つ。
アングラ界隈で活動されている写真家・ジャーナリストの都築響一さんが書いていて、アンダーグラウンドな美術展情報とかガイドブックには載っていない海外の顔なんかが窺い知れるのが魅力です。
今回も国内各地で開催されていた興味深い展覧会のこと、名前も全く知らなかったような美術館など新たな発見が色々ありました。

中でも目を惹かれたのが、都築氏がキュレーションしたという、渋谷のギャラリーで開催された「Museum of Mom’s Art ニッポン国おかんアート村」なる展覧会について。
おかんアートとは、家や地域のコミュニティで“おかん”たちが増産する、一見して使い道のないような細工物のことのようです。
例えばビーズで作ったキーホルダーや置物、編み物、三角に折った紙を重ねていって鶴やなんかの形を作ったもの(ブロック折り紙と呼ぶそうです)などなど、子供の頃近所の友達のお母さんにもらったりした記憶が蘇り、とても懐かしい気持ちになりました。
祖母もブロック折り紙や紙箱を量産していて、子供心に根気があるなあと感心していたものでした。
(母も工作はよくしていますが、実用性のあるものしか作っていない。わたしは手先が壊滅的に不器用なので、何のかんの作ってみようとして悉く失敗するタイプ……)

現代の家庭でこういう手工芸がどれくらい作られているのかは分かりませんが、曰くおかんアートは地域のつながりが密接な場所で栄えるのだそうで、この展示は「下町レトロに首っ丈の会」が神戸の下町で見つけてきた作品を展示していたそうです。本人たちも周りもそれがアートだとは思っていないものに美や面白みを発見してこういう展覧会が開かれたということは、おかんアートが注目されるほど希少価値が高まってきたということなのかも、などと考えていました。あまりにもどこにでもあるものは、なかなか良さに気づきづらいですからね。

そんなおかんアート界にも流行り廃りがあり、今では絶滅してしまったアイテムもあるとか。タバコの空き箱で作る和傘や、香りの良い石鹸を装飾したソープバスケットと、全然見聞きしたことのないものが挙げられていました。
じっくり掘り下げていくと、世相や“おかん”の変遷が見えてきそうで面白いテーマだなあと思いました。


・コーダを生きる 6 テクノロジーの発達と、コミュニケーションの本質
これを読むまでコーダという言葉を全く知りませんでした。音楽用語のcodaかと思ったくらい。
で、何かと言いますと、children of deaf adultsの略で、「聴こえない親の元で育つ、聴こえる子ども」のことなんだそうです。
この連載では著者がコーダとして感じたこと、考えていることなどがつらつらと書かれています。実の子供として近しいところにありながら、聴こえる側、聴こえない人たちからしたら外側の人でもある、そういう苦悩を全て理解できるわけではないけれど、そうかこういう人もいるんだなあと改めて気付かされました。
自分とは違う他者と真摯に向き合える人でありたい。難しいけれど。


・ご家庭のファッションフード 3 「家庭料理」の発展が本格的にはじまった
文明開化の勢いの中生まれた女性誌からその当時の“家庭料理”を紐解くという内容だったのですが、その女性誌に書かれていることとして引用されていることなどに疑問が色々浮かんだのでメモしておきます。(ちょっときちんと調べている時間はなかったので、また後日改めて調べたい……)

☆女学新誌
婦女を「奴婢」とみなして「一生男子の下に屈服すべき者と定めたる悲しき弊風」が未だにはびこっている
欧米婦女の「美風」(日本では貴婦人が家事をいっさい使用人まかせにするのに対し、西洋では金持ちも貴族も家政を治め、日々の食事を管理する)を取り入れつつ、日本古来の「優和温雅貞烈の良風」は失わずに「我国の女道」を進めたい
→これに対し著者は、「日本の衣食住はなんでもかんでも和洋折衷し、おかげで女性は二重に学習しなければならない羽目になったが、そもそも理想的な女の生き方モデルが和洋折衷なのだから、むべなるかなである。」とコメントしています。
江戸の頃の女性の立場なんかが分からないので勝手なことは言えませんが、西洋の美化が激しいだけでなく、男の理想の女性像みたいなものを押し付けている感が強くて気持ち悪く感じました。日本古来の「優和温雅貞烈の良風」って何だよと思いますし、こういう“理想的な女性像”を本当に理想として日々邁進していた女性たちが少なからずいたのだろうと思うと、それこそ「一生男子の下に屈服」しているも同然じゃないかと。

☆女学雑誌
キリスト教に基づく女性の解放と地位向上
→キリスト教と女性の地位向上があんまり繋がらずピンときませんでした。

☆「食道楽」に関して
この小説のブームによって、飲食物について語ることを卑しいとみなす旧来の意識が消えて、家庭生活を尊重する気持ちが高まった
→そんな意識があったとは知らなんだ……どうしてだろう?

関係ないけれど「食道楽」は、タイトルは知っていたけれど、このコラムを読むとレシピ本としても有能なだけでなく、栄養学や科学的な話も盛りだくさんでしかも話の筋も面白いとのこと、俄然読んでみたくなりました。

と、まあ、主題の家庭料理とは別のところばかり気になったのでした。


扱っている話題が多岐に渡るために思うことも様々ですが、読み応えたっぷりで有意義な時間を過ごせました。
紀伊国屋書店にお越しの際はぜひチェックしてみて下さいな。

ではまた。


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