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77. 天使のたまご/街角のメルヘン 【アニメ】

前回のアニメ・映画の回に引き続き、天野喜孝関連の映像作品の話です。
どちらも天野喜孝がキャラデザのOVA(オリジナル・ビデオ・アニメーション)。

○天使のたまご
押井守監督の、1985年の作品。
あらすじというのをまとめるのが極めて困難な、言ってしまえばよく分からないアニメです。映像としてのクオリティは高く、映像と世界観を楽しむものだと思う。あと自分なりの解釈とか。

もう何年も前に一度観たことがあって、途中少し寝てしまった記憶もあるのですが、先日なぜかDVDを買ったのでした。
それで改めて大きな画面で観てみると、思っていた以上に映像が細部まで計算されていて完成度が高く感銘を受けました。また内容についてはあまり覚えていなかったので、初めて観るような新鮮さで色々考えることになりました。

まず映像やモチーフについて。
全編にわたって構図が秀逸です。俯瞰して全体を映し出すカットや一つの場面を多角的に捉えることが多く、全ての切り取り方に作り手の意志を感じるような説得力があります。
また全体の色調が暗い中で光と影が効果的に使われており、少女の白い髪や水の揺らめきなどが印象的です。

ファンタジックなイメージもこの作品の持ち味の一つ。
建物の壁面を泳いでいく巨大な魚の影。
謎めいた地下空間と延々と連なる階段。
機械音を轟かせながら冒頭で降りてきて最後に海から上がってくる球体。(何となくわたしは船なのかと思っていて、男の人はこれに乗ってきたのだと考えていたのでした。それが、wikipediaには「機械仕掛けの太陽」と書かれていて、ああ確かにこのアニメにおいて世界はずっと夜だったなあと気が付いたのでした。)

現実とは違う世界を描きながら、細部までテイストが統一されていることで、どこかに存在しているようなリアリティを持っているように思います。

さて内容の方ですが、何と言ったら良いのでしょうか。たまごを肌身離さず持っている少女とどこからか現れた少年が出会う話なわけですが、ちょっとわたしにはこの作品を知らない人に対してその中身を説明する技術がありません。
なのでラストシーンについて、自分なりの解釈とか、まだ咀嚼できていない点を少し書いておくことにします。観ていない方はすっ飛ばして頂いて構いません……。

結局少年も少女も救われなかったんだと思っていて。彼は少女をたまご=夢や理想から解き放って現実世界に戻したかったのだけれど、少女は目覚めることのないまま絶望のうちに死んでしまう。
それで彼女の夢や理想は新たなたまごの形をとって、世界に点在することになる。或いはたまごの中で新しい少女が夢を見始めたのかもしれない。
実は少年はずっとこんなことを繰り返していて、その記憶が船の上の像の形をとって現れている。彼はまた別の世界へ、誰かを目覚めさせるために行くのだろう。

でも海岸線に天使のものかもしれない羽が無数に舞うのはなぜだろう?
天使はどこからやって来て、どこへ行ってしまったのだろう。
それに世界樹のような、たまごを抱えた樹の存在もよく分からない。


……観るたびに解釈の変わりそうな作品です。


○街角のメルヘン
こちらも幻想的な、でも「天使のたまご」とは違って現代的でもっと華やかな印象のアニメーションです。”よく分からない実験的アニメ”という点では同じ。
いやしかしこちらの方が紹介しやすいストーリーがあります。

春、新宿で出会った二人の男女。少年はメルヘンチックな絵本を出版するのが夢。少女は誰かに追われている。
段々距離を縮めて仲良くなっていく二人、でも秋に少女はどこかへ去り、翌春に再開する。という流れに合わせて季節が移り変わっていきます。間に少年の語るメルヘンの世界が挿入され、現実と夢が心地よく交錯しています。
最後、再開した二人が抱き合ったりするのじゃなくて、並んで影の中へ消えていくのが良いです。

こうしてあらすじを書くとまるで単なる恋愛もののようにも見えますが、少女はなんで追われているのかとか、二人の普段の生活はどんななのかとか、キャラクターの背景は何も説明がないので、一般的なアニメーションとはテイストが異なります。

合理性や分かりやすさを求める方には辛いかもしれませんが、こういう雰囲気を楽しむ作品がわたしはけっこう好き。
作品の謎の中心にいる、おかっぱ髪のニヒルな少女が素敵です。藤田紗江子さんという方のどこか影のある声がよく合っています。
「わたしユウコ。優れてるのユウじゃなくて余裕のユウ」というセリフが、その前後の会話も含めて特に好き。

冒頭で実験的アニメと言った通り、内容以外にも注目すべき点があります。

この作品ではほぼ全編で曲が流れていて、しかも光と影の構図が現実に即しているのではなくデザイン重視だったり、同じものや物の軌跡が連続して描かれたりと実験的だから、ストーリーもののアニメーションというよりMVみたいです。
歌は合っているんだかいないんだかいまいちよく分からないあがた森魚。ずっと聴いていると癖になってくる。
実は日本語タイトルの前に「Radio City Fantasy」と付いているので、元々MV的役割も兼ねて作られたものなのかもしれません。

目を引く映像表現はあれこれあるのですが、一番のお気に入りは夏のメルヘンの場面です。
ビルの一番上に住んでいて、もっと高いところに行くことを研究している博士たち。万華鏡のように分裂したりくっ付いたり、ユーモラスな動きをする彼らと幾何学図形の組み合わせが面白いです。

それから舞台となった新宿ですが、新宿の目は分かるけれど新宿中央公園はよく分からない。作中で効果的に使われているくじらの遊具なんかも実際にあるようなので、いつか本物を見に行ってみたいです。
背景がわりかしリアルに描かれているので、新宿を歩いているとそのまま自分もメルヘンの世界へ入り込んでいけるんじゃないかとかそんなことを思える、ふんわりした手触りの作品でした。

いずれも実験的な要素の強い作品ですが、80年代OVAの中でかなり完成度の高いもののように思います。1時間程度ですし、一度じっくり観てみてはいかがでしょうか。

ではまた。

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